Seaboundによる船上でのCCS(Carbon Capture & Storage)

LRI Energy & Carbon Newsletterから

地球の平均温度は2015年のパリ協定時点の想定を超える速さで上がりつつある。EUのERA5の推定によると2023年の平均温度は産業革命以前のそれと比較して1.48度高かった[1]。同様に米国の非営利団体Berkeley Earthによると2023年の地球の平均温度は産業革命前の期間として伝統的に言及される1850-1900年のそれと比較して1.54度高かった[2]。このことは大気中の二酸化炭素を直接的に取り除くダイレクトエアキャプチャー(DAC)のようなネガティブエミッションテクノロジーの不可欠性をますます示唆している。

DACとCCUSのCarbon Capture(カーボン分離)は基本的に同じテクノロジーである。DACについてはスイスのClimeworks[3]がよく知られているが、DACそしてCCUSの分野には他にも多くのスタートアップが凌ぎを削っている。その一つが英国のSeabound Carbon Ltd.[4]である。同社のテクノロジーの特徴は、船の排気ガスに含まれるカーボンを石灰岩に分離固定する装置を船に設置することである。カーボンを吸収した石灰岩は港で下ろし、ビル建設の材料として販売できれば、販売することになる。同テクノロジーの長所として低い初期投資額、シンプルでコンパクトなデザイン、短期間での設置、豊富な吸着剤(石灰岩)、完全自動運転、遠隔監視などを挙げることができる。 

最近実施された同社の初めての実証プロジェクトでは78%のカーボンの除去に成功した。加えて90%以上の硫黄分を除去することもできた[5]。

海上運輸のネットゼロソリューションとして燃料としてのアンモニアが期待されているが、肝心の水素の安定供給は将来においても定かではない。となると、船主にとっては、船上で硫黄を直接除去するスクラバーと同じコンセプトで、このようなカーボンの分離固定装置の導入を検討することも一案である。

英国政府は2030年までに年間5MtCO2、2035年までに23MtCO2の大気中の温暖化ガスを除去するという野心的な目標を掲げている。そのためにDACを含むエンジニアリングによる温暖化ガス除去プロジェクトに対する支援策としてCfD(Contract for Difference)の導入をほぼ決定している。選考では入札価格だけではなく、普及の可能性なども考慮される。

グリーン製造業への参入に遅れた日本企業にとって、DAC・CCUSは可能性を秘めた分野である。Climeworksの創立者は以前、N Y Timesの記事の中でDAC装置製造は今日の自動車産業と同程度の規模の産業となるであろうと述べていたが、このことは満更間違いではないように思われる。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] https://climate.copernicus.eu/copernicus-2023-hottest-year-record
[2] https://berkeleyearth.org/global-temperature-report-for-2023/
[3] http://www.climeworks.com
[4] https://www.seabound.co/
[5] https://splash247.com/british-carbon-capture-device-in-successful-pilot/


 

津村照彦(LRI会長)
関連サイト
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