ドイツがHVDC送電網SuedLinkの建設スタート

再生可能エネルギー主導の電力時代に備え送電網増強 ―LRI Energy & Carbon Newsletterから―

ドイツでは今年4月、国内最後の3つの原子力発電所が運転を停止し、1961年の系統連結以降、重要なエネルギー源として20年前まで国内総発電量の3割前後を担っていた原子力発電の幕が下りた。また、石炭火力発電も2038年までの撤退を目標に掲げており、風力発電と太陽光発電がけん引する本格的な再生可能エネルギー電力の時代が遠くない未来に見えてきた。それにより地方レベルで需給を調整できた電力市場の地図は大きく変わる。風力発電に最適だが人口・産業密度が低い北・東部ドイツの余剰電力を、電力需要の大きい南部に大量に供給するための送電網が必要となる。同時に、発電所から需要家への一方通行の電力の流れは、発電と消費の両面から最適化できるような柔軟さが求められる。このような状況を背景にドイツ政府はエネルギー事業法(Energiewirtschaftsgesetz)、電力網拡張加速法(Netzausbaubeschleunigungsgesetz)、連邦需要計画法(Bundesbedarfsplangesetz)の改正を行った。ドイツ政府が2022年に打ち出した長期的な送電網開発計画によると、2037年には陸上風力発電から約160GW、洋上風力発電から50GW、太陽光発電から350GWをフィードインすることを想定して送電網を整備する。[1] 今後数年間で最適化、増強、新設が必要となる送電線の総距離は1万3,000kmを超えると予想される(拡張計画図)。再生可能エネルギーへの転換の成功のカギを握る送電網拡充で、長距離高圧直流(HVDC)送電線網の整備がカギを握る。

 

北の風力発電と南部の需要密集地を結ぶSuedLink[2]

ドイツでは2012年に電力網開発計画(Netzentwicklungsplan)が打ち出され、北海洋上風力発電などで潤沢な北の電力を南部州に供給するための送電網を整備する検討が始まり、2017年に国家エネルギー計画でその構想が提示された。「SuedLink」は全長700㎞のHVDC送電網で、電圧領域は525kV。バーデンビュルテンベルク州とバイエルン州に至る2つの送電ルートがあり、周辺住民と環境への影響を極力抑えるよう大部分の区間で送電線が並行して敷設される。送電容量は各2GWで合計4GW(1,000万世帯の需要を賄える規模)となる。HVDCは高圧交流(HVAC)に比べ送電ロスが小さく、再生可能エネルギーの系統連系による電圧や周波数の不安定化や電力動揺などが起こりにくく安定的に電力供給できる。ニーダーザクセン州Hildesheim以北を送電事業会社TenneTが、以南をTransnetBWが建設し運営する。

バーデンビュルテンベルク州ルート(702km):北の起点となるシュレースヴィヒ-ホルシュタイン州Brunsbuttelでは旧Brunsbuttel原発の近くにDC・AC変換のためのコンバーターステーション(FC)を設置する。南の終点となるバーデンビュルテンベルク州Grosgartach/Leingartenでは旧Neckerwestheim原発に接続していた変電所の隣地で7月にFCの建設が始まった。

バイエルン州ルート(558km):北の起点となるシュレースヴィヒホルシュタイン州Wilster は旧Brokdorf原子力発電所に近く、ノルウェーとのインターコネクター(国際連系線)「NordLink」(全長623km、送電容量1,400MW)のFCが設置されている。2020年から同国とは水力と風力の電力交換を行っており、将来的にSuedLinkとの連結を検討している。南の終点はバイエルン州Bergrheinfeld/Westで、近くには欧州のHV網に連係するBergrheinfeld変電所がある。

SuedLinkプロジェクトは地域住民の強硬な反対運動などで架空送電式から地中送電式に変更されたことや、様々な認可手続きに時間がかかっていることから、2016年着工、2022年完成の計画が大幅に遅れ、投資額も当初予定の100億ユーロから大幅に拡大する見通しである。今年5月に連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur)からバーデンビュルテンベルク州北部の17.6km (Leingarten-Bad Friedrichshall間)区間が初めて認可を受け、ようやく建設への第一歩を踏み出した。送電ケーブルは地下約20mに設置する洞道に敷かれる。北の2つの起点の合流点となるWewelsfleth では9月半ば、HVDCケーブルを敷設するためのエルベ川底トンネル工事が始まった。2028年の運転開始を実現するには、建設計画認可やケーブル等の重量物公道運搬許可など行政手続きの迅速化が大きな課題である。

北部と南部を結ぶもう一つの地中HVDC送電線プロジェクト、SuedOstLink[3](ザクセンアンハルト州のWolmirstedtおよびメクレンブルクフォアポンメルン州のKlein Rogahnからバイエルン州Munchenreuthまでを50Hertz 、その先からIsarまでの270kmをTenneTが建設し運営)はまだ、詳細な敷設ルートなどを含めた計画確定手続き段階にある。

 

国際送電網の整備で再生可能エネルギー電力の交換を促進

ドイツ政府は再生可能エネルギーへの転換コストを抑えるためには、例えばスカンジナビアやアルプス諸国の水力発電とドイツの風力・太陽光発電などを相互利用するなど、近隣諸国とインターコネクターを利用した送電網の増強、利用最適化が必要だと見ている。前述の「NordLink」のほか、SuedLinkの起点でもあるBrunsbuttelから北海沿岸を通りデンマーク国境に至る137kmを架空送電式で繋ぐ 西部沿岸送電線(Westkustenleitung)プロジェクトは、4区間がすでに運転を開始し、最後の区間が年内に完工見込みである。デンマークとの電力交換を促進するため来年、同国の送電網と連結される。ドイツと英国の初のインターコネクター「NeuConnect」[4]は、北海沿岸のWilhelmshavenからテムズ川河口のHoo半島に至る全長780kmの陸上・海底送電線で、2028年の運転開始に向け英国側ではすでに工事が始まり、ドイツは来年着工する。送電容量は最大1.4GWを予定し、再生可能エネルギーの国際利用拡大、送電網の負荷・コスト削減、電力供給の安定化への貢献を期待している。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 連邦経済・気象省(BMWK)HP https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Dossier/netze-und-netzausbau.html
[2] SuedLink HP https://suedlink.com/
[3] TenneT HP SuedOstLink https://www.tennet.eu/de/projekte/suedostlink
[4] NeuConnect HP https://neuconnect-interconnector.com/

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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