ヒートポンプにおけるイノベーション:フランスのスタートアップEquium

LRI Energy & Carbon Newsletterから

今日、様々な目的で使用されている天然ガスを水素で置き換えようという考えは悪くはないが、問題は万能薬であるその水素の供給が2030年になっても、そして、もしかすれば2050年になっても限られたレベルであろうということである。欧州、特に英国において家庭用暖房は一般的に天然ガスボイラーによるセントラルヒーティングである。この目的のための天然ガスが最後まで使用が続く化石燃料となる可能性は高い。水素を使えないとすれば、もう一つのオプションは「ヒートポンプ+電気ボイラー」である。ヒートポンプはネットゼロ達成のための重要なコンポーネントであり、まだまだイノベーションが期待できるテクノロジーである。

今年1月に、フランスのスタートアップ、Equiumが1kWhの電気のインプットで3kWから4kWの熱をつくることができる熱音響ヒートポンプ(Thermo-acoustic heat pump)のコアを開発したというニュースが流れた[1]。この新たなヒートポンプは従来のものと異なり、冷媒を必要とせず、温風と冷風を生成する。そして製造する温水の温度も高く、通常の65度と比較して、最大80度である。ヒートポンプの短所の一つは暖まるのに時間がかかること[2]であるが、この問題を緩和している。

音響ヒートポンプ(AHP)は、熱と音波が相互作用する熱音響効果を利用している [3]。ヘリウム(30バール)で満たした密閉容器内に、電気で動くHi-Fiスピーカーを設置し、音波を発生させ、これによって気体が圧縮・膨張し、低温から高温あるいは高温から低温へと熱を移動させる。ヒートポンプの中心部には水が満たされ、その熱を吸収・放出する[4]。AHPは、コンプレッサーの代わりに特許取得済みの音響発生器をコアに備えた小さなユニットに置き換え、100Hz から 150Hz の範囲の音を発生させる。しかし、システムが発する音は、コアの中に閉じ込められるので、ユニットの外からは聞こえず、騒音のレベルはささやき声に相当する30dB以下とのことである。通常の空気熱ヒートポンプではコンプレッサーを使い気体を圧縮するが、AHPでは音波が気体を圧縮する。

従来のヒートポンプと異なり音波を使用する利点は、冷媒に使用するガス(取り扱いが難しく温室効果ガスとなる)が必要ないこと、制御が簡単なこと、メンテナンスが必要ないこと、可動部品がないためコアの予想寿命が現在の10年から30年に延びるであろうことである[3]。

現在のヒートポンプのもう一つの短所はコストが高いことである。ガスボイラーの交換は1,000ポンドから3,000ポンドかかるが、空気熱源ヒートポンプは購入と設置に7,000ポンドから1万4,000ポンドかかる[2]。Equiumはこの問題に対して、ガスボイラーと異なりメンテナンスが必要ないこと、設置に専門家が必要ないこと、30年の長寿命であることも加わり、総所有コストが低いことを指摘している。

Equiumは、ヒートポンプコアの熱出力として8kW?10kWを目標としている。Equiumはヒートポンプコアを製造し、別会社が製造したヒートポンプに取り付けることを検討している。LRIの問い合わせに対して同社は2024年にフランスで商業販売が開始される予定であると回答した。

英国政府は、2028年までに年間60万台のヒートポンプを設置するという目標を掲げている[5]。これに連動しているBoiler Upgrade Schemeでは、ヒートポンプの購入費用に対して5,000ポンドの補助金を提供するもので、2022-25年にかけて政府が4億5,000万ポンドを拠出する。EUでは、ウクライナ戦争を受け2022年5月にREPowerEU 計画を発表し、ヒートポンプの展開速度を倍増させることを目標とした[6]。目標達成のためには、2026 年までに約 2,000 万台、2030 年までに約 6,000 万台のヒートポンプを EU内に設置する必要がある[7]。ヒートポンプ市場は巨大であるため、多くの企業を魅了している。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy & Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] https://www.pv-magazine.com/2023/01/02/residential-thermo-acoustic-heat-pump-produces-water-up-to-80-c/
[2] https://www.telegraph.co.uk/money/consumer-affairs/buy-heat-pump-cost-install-gas-boiler-green-technology-2022/
[3] https://www.equium.fr/en/home
[4] https://www.connexionfrance.com/article/Practical/Science-and-Technology/New-French-invented-green-heat-pump-warms-homes-with-sound-waves
[5] https://www.gov.uk/government/news/boost-for-innovative-heat-pump-projects-to-drive-cleaner-heating
[6] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_3131
[7] https://www.ehpa.org/2022/06/12/ehpa_news/repowereu-heat-pump-strategy-required-to-help-sector-deliver/
過去のニュースレターは下記の弊社のウェブサイトからご覧いただけます。
https://londonresearchinternational.com/ja/energy-carbon/

小林美沙子
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