ドイツの国家水素戦略  国際競争力向上を図り、世界リーダー目指す

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツ政府は2020年6月、エネルギー源として多様に利用できる水素が排出ニュートラルへのカギを握るとし、国家水素戦略[1]を打ち出した。同時に、水素関連ビジネスをバリューチェーンと雇用を創出する重要な新産業に位置付けた。再生可能エネルギーによる排出ゼロのグリーン水素や燃料電池などに関わる多様な水素技術で、ドイツは国際的に主導的役割を担うことを目指している。国として企業が水素技術の国際競争力を高められるよう支援するとともに、再生可能エネルギー源の豊富な国との水素生産提携や輸送インフラの構築にも注力する。水素需要を年間数億トンと推定し、2030年までに水素生産のための水電解装置の国内設置規模を5GW整備することを目標に掲げている。

 

経済エネルギー省・交通インフラ省によるプロジェクト助成
経済エネルギー省(BMWi)と交通インフラ省(BMVI)は今年6月、EUのイノベーションに関わる国際研究開発・投資プロジェクト、Important Projects of Common European Interest (IPCEI)として、水素の生産、輸送インフラ、利用に関わる62の民間大型プロジェクトの助成を決めた。計画による総投資額は330億ユーロで、国(経済エネルギー省44億ユーロ、交通インフラ省14億ユーロ)と州が合わせて80億ユーロ超の助成金を供与する。

経済エネルギー省は鉄鋼、化学業界を中心とした水素生産に関わる50のプロジェクトを助成する。プロジェクト全体で水電解装置の設置規模は約2GW、パイプラインの総敷設距離は1,700㎞を予定する。交通インフラ省は燃料電池の改良や水素ステーション網の構築などに取り組む12のプロジェクトを助成する。例えば、Get H2[2]は生産から輸送、産業利用に至る統合的な水素産業インフラを構築する国際プロジェクト(BP, Evonik, Nowega, OGE, RWE, Salzgitter Flachstahl 及び Thyssengasが参加)で、2024~30年でパイプラインを段階的に拡張し、25年にオランダ国境まで延長する計画である。ドイツ北西沿岸部をグリーン水素の生産ハブとするClean Hydrogen Coastline[3]プロジェクト(Arcelor Mittal Bremen, EWE, Faun, Gasunie, SWB 及び Tennetが参加)では、2026年までに400MWの水電解装置と貯蔵システムを整備し、エネルギー網への水素供給を目指す。

 

教育研究省による研究開発助成[4]
教育研究省(BMBF)は7億ユーロ超を投じて統合的な水素研究開発プロジェクトを助成している。

H2Giga:水素大量生産に向けた水電解装置の標準生産化のための方法・技術を開発する。設置場所に応じてスケールアップできるモジュール式の標準装置を開発し、グリーン水素の価格競争力向上を図る。水素需要者である産業セクターと連携し固体高分子膜(PEM)、アルカリ電解(AEL)、高温電解(HTEL)を利用した電解装置に焦点を当て開発を進める。コスト削減と標準生産の簡便化につながるコンポーネントの開発にも取り組む。

H2Mare:陸上より電力を安定的に供給できる洋上風力発電を直接利用した水素生産の方法を研究する。系統を経由しないため大幅コスト削減できる利点がある。風力発電プラントに電解装置を組み込み、洋上でのグリーン水素、メタノール、アンモニアの生産方法を研究するとともに、水蒸気電解と海水電解の技術開発にも取り組む。

TransHyDE:水素輸送インフラの開発プロジェクトで、ガスパイプラインのほか輸入を想定した様々な輸送技術を研究する。
①高圧ガス貯蔵輸送:バルト海・リューゲン島のムクラン港で球形高圧タンクの開発が行われている。H2Mareで実施する洋上水素生産施設に統合し水素の中間貯蔵に用いる。海上輸送用貯蔵タンクとしての実証試験も計画している。
③送ガス網(新設含む)の利用:GetH2プロジェクトでは、既存の送ガス網および水素専用パイプラインでの技術的な安全性と監視方法を各試験用パイプラインでテストする。
③アンモニアを水素貯蔵媒体とした化学的水素輸送:Campfireプロジェクトでアンモニアの利用可能性とその輸送方法の実証試験を行う。
④液化輸送:北海沖のヘルゴランド島を拠点とし、海路・陸路の水素物流チェーンを検証する。H2Mareの洋上水素生産施設からパイプラインで輸送された水素を水素貯蔵媒体(LOHC)に吸蔵させ、液体として既存の石油輸送インフラでハンブルク港に輸送する。同港にはLOHCから水素を取り出す施設を建設する。

 

国際水素プロジェクト資金援助のための助成ガイドライン(Forderrichtlinie zur finanziellen Unterstutzung internationaler Wasserstoffprojekte )[5]
ドイツの水素技術を国際的に普及させ、世界的なグリーン水素市場の構築に貢献するとともに、水素の輸入体制の整備を目的とした助成ガイドラインで、ドイツ企業によるEU圏外での水素プロジェクトを支援する。特に、再生可能エネルギー源が豊富で国内より低コストで水素生産が可能な国と提携による水素プロジェクトの推進を念頭に置いたものである。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 経済エネルギー省ウェブサイトThe National Hydrogen Strategy https://www.bmwi.de/Redaktion/EN/Publikationen/Energie/the-national-hydrogen-strategy.html
[2] https://www.get-h2.de/en/initiativeandvision/
[3] Niedersachsisches Wasserstoff-Netzwerk https://www.wasserstoff-niedersachsen.de/clean-hydrogen-coastline/
[4] 教育研究省ウェブサイト https://www.wasserstoff-leitprojekte.de/
[5] 経済エネルギー省ウェブサイトhttps://www.bmwi.de/Redaktion/EN/Pressemitteilungen/2021/10/20211004-overview-of-the-core-elements-of-the-funding-guideline-to-support-the-international-establishment-of-generating-installations-for-green-hydrogen.html

宮本 弘美 (LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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