欧州投資銀行（European Investment Bank、EIB）は2007年、環境的問題の解決に関わるプロジェクトの資金調達を目的とした「Climate Awareness Bond」を発行し、環境保護や気候変動に取り組む事業を支援する投資商品のグリーンボンド（Green Bond）の先鞭をつけた。その後、国際資本市場協会（International Capital Market Association、ICMA)が2014年にグリーンボンド発行に関する自主的ガイドライン「Green bond Principles（GBP）」を定義すると、グリーンボンドの投資商品としての透明性が高まり、EU資本市場での発行額は2015-20年に年率平均50％のペースで急拡大した。グリーンボンド総発行額に占めるEUの発行額は2020年に51％を占めた[1]。
ドイツのグリーンボンド市場
ドイツでは2013年の政府系農業開発銀行Landwirtschaftliche Rentenbankによる国内初グリーンボンド私募債（発行額5,000万ユーロ）、翌年のドイツ復興金融公庫（Kreditanstalt fur Wiederaufbau＝KfW）による5年物グリーンボンド（15億ユーロ）など開発銀行主導でグリーンボンドの発行が始まった。ドイツ連邦銀行によると、2021年1-9月の国内グリーンボンド総発行額は408.4億ユーロで、EU全体（1,634.6億ユーロ）の25％を占めた。内訳は政府109億ユーロ、開発銀行108.7億ユーロ、民間銀行106.1億ユーロ、電力会社28.1億ユーロ、一般企業56.5億ユーロ。発行額が2018年の69.5億ユーロから急拡大したのは、KfWを筆頭に開発銀行の起債が活発化したことに加え、政府がグリーン国債発行に乗り出したおかげである。2021年9月までの国内累積発行額は1,372億ユーロ超で、発行体の内訳は政府16.3％、開発銀行34.8％、民間銀行21.8％、電力会社12.0％、一般企業15.1％となる[2]。
ドイツのグリーン国債
ユーロ圏ではドイツはフランス（2017年）、ベルギー（2018年）、オランダ（2019年）などに続き、2020年に初めてグリーン国債を起債した。高い信用格付けを享受する普通債と同様、グリーン国債でも債券市場のベンチマーク、すなわち短期から超長期までを網羅してユーロ債市場で投資家が最も信頼できるレファレンス国債を目指している[3]。グリーン国債は通常の国債と同等の高い信用度と市場流通性を有する債券となるよう同じ償還期間とクーポンに設定され、普通債との「双子の債券（Twin Bond）」と呼ばれている。
2020年9月に行われた初のグリーン国債発行（償還期間10年）は複数の金融機関が分担して引き受けるシ団引受方式で行われ、発行額65億ユーロに対し申込総額が330億ユーロ超と投資家の反応が非常に大きかった。11月に入札方式で行われた5年債50億ユーロの発行と合わせて通年で115億ユーロを調達した。2021年は新30年債をシ団引受方式で60億ユーロ、新10年債を入札方式で35億ユーロそれぞれ発行したほか、既存債の追加発行を含め合計125億ユーロを調達した[4]。2022年は8月に5年債を50億ユーロ新規起債したほか、既存債の追加発行を含め合計145億ユーロを調達した。2022年末の累積発行額は30年債（100億ユーロ）、10年債2種（90億ユーロと95億ユーロ）、5年債2種（各50億ユーロ）の合計385億ユーロに上る[5]。
Green Bond Impact Report 2020
ドイツのグリーン国債の発行目的は前財政年の歳出に組み込まれた気候・環境保護関連プロジェクトの資金調達で、①交通、②国際協力、 ③研究・刷新・情報、④エネルギー・産業、⑤農林業・自然地形の5つの分野に充当される。前述のICMAグリーンボンド原則によるレポーティング推奨に沿って発表された「Green Bond Impact Report 2020」[6]によると、2020年発行グリーン債の充当プロジェクト（2019年総額約123億ユーロ）には以下のような効果が期待される。
交通：投資額約71億ユーロのうち62億ユーロが鉄道プロジェクトに充てられた。鉄道網の整備刷新は、特に道路から軌道に貨物輸送をシフトしてCO2大幅削減を図るための投資重点分野である。政府の交通インフラ計画2030（Bundesverkehrswegeplan 2030）による鉄道新設・拡張プロジェクトが完了すれば、二酸化炭素排出量換算（CO2e）年間約120万トンの排出削減となる見込みである。モビリティ分野では電気自動車（EV）関連に約3億3,600万ユーロを充当した。
国際協力：持続可能で環境にやさしい社会・経済への移行に取り組むプロジェクト、2,000件に29億ユーロ超を充当した。国家気候イニシャチブの活動（約1億5,700万ユーロ）を通してプロジェクト実施期間全体で350万トン超を削減する。
エネルギー・産業：投資額は4億8,200万ユーロで、再生可能エネルギー促進とエネルギー効率向上のためのプログラムを通してCO2e約180万トンの温室ガスを削減する。
このほか、研究・刷新・情報分野では気候・環境問題の教育に関わる4,500超のプロジェクトに61億2,500万ユーロ、農林業・自然地形分野では沿岸の洪水防御施設の増強など1,374のプロジェクトに2億4,000万ユーロを充当した。
グリーン国債の今後の展望
ドイツは2023年、10年債と15年以上の超長期債の2種類を新たに起債するほか、既存グリーン国債の追加発行を5回行い、合計150億～170億ユーロを調達する計画である[7]。年間発行額は徐々に増えているが、ドイツではKfWなどの開発銀行が主に財政資金調達を担っているため、今後、大幅な増額はないとしている。投資ファンドに次ぎグリーンボンドへの投資に積極的な保険業界として、ドイツ保険業連盟（Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft=GDV）は、魅力的な投資資産としてグリーンボンドの将来性に期待している。今後の市場成長に必要なのはEUのグリーンボンド基準であるEUタクソノミーが広く受け入れられるとともに起債がさらに活発化することだが、グリーン国債の役割が大きいと見られる[8]。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] 欧州議会 Briefing: European Green Bond https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/BRIE/2022/698870/EPRS_BRI(2022)698870_EN.pdf
[2] ドイツ連邦銀行 Green Bond in Germany Dashboard https://www.bundesbank.de/de/statistiken/nachhaltigkeit/dashboard-green-finance–862660
[3] ドイツ連邦銀行2020年10月月報：Grune Bundeswertpaiere -Erfolgreiche erste Emission https://www.bundesfinanzministerium.de/Monatsberichte/2020/10/Inhalte/Kapitel-3-Analysen/3-1-gruene-bundeswertpapiere.html
[4] ドイツ連邦銀行Green Bond Monitor (2021年9月)
[5]ドイツ金融庁HP Grune Bundeswertpaiere Emission https://www.deutsche-finanzagentur.de/bundeswertpapiere/bundeswertpapierarten/gruene-bundeswertpapiere/emission
[6] 連邦財務省HP Green-Bond Impact Report 2020 https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/EN/Standardartikel/Topics/Priority-Issues/Climate-Action/green-german-federal-securities-restricted/green-bond-impact-report-2020.pdf?__blob=publicationFile&v=2
[7] ドイツ金融庁HP Grune Bundeswertpaiere Emission（前述）
[8] ドイツ保険業連盟HP2022年11月14日付プレスリリースhttps://www.gdv.de/gdv/medien/medieninformationen/gruene-anleihen-bei-rendite-haeufig-mit-konventionellen-anleihen-gleichauf–111476