米国の洋上風力市場から学べること

LRI Energy & Carbon Newsletterから

米国では日本と同様に、これから洋上風力発電の開発が本格化する。バイデン政権は2030年までに30GW の洋上風力のキャパシティをもつことを目指している。これにより1,000万の世帯の電力需要を賄うことができる。

開発は東海岸(US East Coast)から本格化する。既に少なくとも10数件のプロジェクト(総容量16GW以上)が計画されている。これらのプロジェクトに、先行する、どの欧州企業がオーナーあるいはサプライヤーとして参加するのか、調達の仕方はどうなのか、サプライチェーンがどのように構築されていくのか等、を知ることは、これからの日本の洋上風力市場の構築を予測する上で、あるいは日米の比較をする上で参考になると考えられる。そこで既に実施段階に入っているプロジェクトであるCoastal Virginia Offshore Wind (CVOW) プロジェクトを例にとり、調べてみた。

 

プロジェクトの概要[1]

CVOWプロジェクトはバージニア州、Virginia Beachの沖合い43km、水深およそ24メートルの海域に位置し、総設備容量は2.6GWで、約180基のタービン(14MW)、46kmの33kVのインターアレイとエキスポートケーブル、3つの洋上変電所そして陸上の変電用インフラから成る、米国最大の、そして世界でも大型のプロジェクトである。3つのフェーズ(880MWx3)に分けて実施され、2026年に完工予定である。プロジェクトのディベロパーそしてオーナーはDominion Energyである。同社はバージニア州に拠点を置く米国最大手のエネルギー生産・輸送企業の一つで、26.2GWの発電設備と15,000マイルのガスパイプライン、6,600マイルの送電ネットワークを保有する[2]。

東海岸で計画されているプロジェクトのオーナーとしてはデンマークのØrstedとCopenhagen Infrastructure Partners、そして再生可能エネルギー開発案件を世界中で積極的に探しているBP、Shellといったオイルメジャー、そして国内企業としては地元の電力ユティリティ等が名を連ねている。オーナーは資金調達能力のみならず、(未経験分野における)プロジェクトをマネージする能力が要求される。

Dominion Energyは本件の商業プロジェクトに先駆け、3億ドルのコストで12MW (6MWx2:SWT-6.0-154) の実証プロジェクトを同じ海域で行っている。そのプロジェクトは2020年9月から稼動している。

商業プロジェクトの初期投資コストは2019年の見積もりより20億ドル増え、98億ドルであった。増加の原因は鉄鋼その他のコンポーネントのコスト上昇、設計の細部調整、洋上送電線のルート変更等であった。1MW当たりのコストはおよそ380万ドルと計算されるが、これは英国、欧州のコストと比較して、はるかに高い(最近の物価上昇前であるが、14MWのタービンを使用した場合はおよそ1/2-1/3と推定される)。

 

プロジェクトの調達:サプライヤーとその役割り

実証及び、商業プロジェクトのサプライヤーとその役割りは以下の通りである[3]。

(出所)London Research International

 

(1) 実証プロジェクト

  • Ørsted Wind Power North America LLC (デンマーク本社のØrstedの子会社):実証プロジェクト全体のEPCコントラクター(2017年に受注)。
  • Siemens Gamesa Renewable Energy (スペイン本社のタービン供給会社):Ørstedのサブコントラクターとしてタービンを供給(2018年8月に受注)。
  • Seaway Offshore Cables (ノルウェイ本社の海中ケーブル設置事業者(米国オフィスはマサチュセッツ) ):Subsea 7 USとの共同受注。ØrstedのサブコントラクターとしてインナーアレイとエキスポートケーブルのEPIC (Engineering, procurement, installation and commissioning)(2018年12月に受注)。Subsea 7 USが船を提供(地元の船と同社保有の船)[4]。

 

(2) 商業プロジェクト

  • Ramboll (デンマーク本社のエンジニアリング・コンサルタンシー):オーナーズ・エンジニア(2020年3月に受注)。
  • Siemens Gamesa Renewable Energy:タービン(176 SG 14-222 DD)の製造・デリバリーと10年間のサービス(2020年1月にDominion Energyから直接受注)。
  • DEME Offshore US LLC (ベルギー本社の基礎、タービン、ケーブル、変電所の洋上設置事業者):Pipeshield (英国の海中アッセト保護の専門会社)との共同受注。176のモノパイル基礎、3つの洋上変電所、洗掘防止工。Pipeshieldはケーブルの汚れ落としと保護担当。DEME Offshoreが全体の設置を監督する(2021年11月受注)。受注額は19億ドル。うちBalance of Plant (BoP)のコストは11億ドル強[5]。
  • Seajack(自ら所有するジャックアップ船により洋上設置を行う英国事業者):Dominion Energyがオーナーとなる洋上風力タービン設置船、Charybdis、の建設と運用のサポート(米国初のJones Act対応船となる)。

 

上記から以下の事柄がわかる。

  • 実証プロジェクトでは世界で最も洋上風力の経験をもつ欧州企業の一つであるØrstedに、一括してターンキーで発注した。そしてØrstedがタービンその他を、同社からのサブコントラクトとして調達した。
  • (実証プロジェクトで経験を得た後) 商業プロジェクトではオーナーズエンジニアとしてコンサルタントを雇用し、タービンとその他のBalance of Plant (BoP)を分離発注した。しかしながら、欧州(世界)のベストプラクティスである機材の調達と設置・コミッショニンイングを分離発注するまでには至っていない。分離発注はインターフェイスリスクを取ることになり、プロジェクトをうまくマネジし、クレームをうまく処理する能力を要求される。欧州の経験者たち、そしてBP、Shell等のオイルメジャーはこのような能力を備えている。
  • Dominion Energyはタービン設置船、Charybdisのために5億ドルを投資する。このようにローカルの新規参入オーナーは洋上風力に深くコミットする必要があるのかも知れない。
  • 欧州の洋上風力関連企業が米国で事業を行う時にローカルパートナーを得ることは不用、少なくともマストではない。(一方、既得権益が幅を効かせ、言語・慣習が異なるとみなされている日本市場に参入する際に、ローカルパートナーは不可欠と考える欧州企業は少なくないようである。このことがコストに与えるインパクトについては不明である。)

 

サプライチェーン

オーナー(ディベロパー)企業は通常、社内にサプライチェーンチームをつくってサプライヤーとの協業を促進すると共に、新たなサプライヤーの発掘を行っている。同様に、地域そして自治体もサプライチェーン構築・発展を目的とする協会を運営している。サプライチェーンへの参入を希望する企業はまずそれらの ネットワーク、データベースに登録する必要がある。(因みにLRIはサプライチェーン参入のお手伝いをすることが可能である。)

CVOWプロジェクトはHampton Roadsがサプライチェーンのハブとなる。Hampton Roadsはバージニア州の南東部とノースキャロライナ州の一部を跨ぐ、世界最大の自然港(地域)で、複数の河川、河口、港、都市からなる広い地域である。Hampton Roads AllianceそしてVirginia Maritime Associationがサプライチェーンのための協会である。

CVOWプロジェクトは2020年1月にPort of Virginiaと40エーカーの土地のリース契約を結んでいる。その土地の一部と思われるが、Siemens Gamesa Renewable Energyが2021年5月にポーツマスマリーンターミナルにタービンのブレードを製造するための土地(リース)を確保した。その製造プラントのために2億ドルの投資が行われる予定で、300件の雇用も創出される。加えて、建設、O&M更にはサポートサービスのための雇用も多く創出される。

東海岸の洋上風力の計画が集中する、マサチューセッツ州、ニュージャージー州においてもサプライチェーンのハブがこれからできると予想されている。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。

 


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[1] https://coastalvawind.com/
[2] https://news.dominionenergy.com/news?item=137258
[3] https://www.nsenergybusiness.com/projects/coastal-virginia-offshore-wind-project/#:~:text=Dutch%20engineering%20and%20consulting%20company,wind%20project%20in%20March%202020 https://coastalvawind.com/partnerships/become-supplier.aspx https://coastalvawind.com/suppliers.aspx
[4] https://www.subsea7.com/en/media/company-news/2018/milestone-coastal-wind-project-for-seaway-offshore-cables-.html
[5] https://www.businesswire.com/news/home/20211104006432/en/DEME-Offshore-Lands-Dominion-Energy-Group%E2%80%99s-1.1-Billion-Balance-of-Plant-BoP-Project-for-Construction-of-Coastal-Virginia-Offshore-Wind-Farm-CVOW
[6] https://www.subsea7.com/en/media/company-news/2018/milestone-coastal-wind-project-for-seaway-offshore-cables-.html
[7] https://www.businesswire.com/news/home/20211104006432/en/DEME-Offshore-Lands-Dominion-Energy-Group%E2%80%99s-1.1-Billion-Balance-of-Plant-BoP-Project-for-Construction-of-Coastal-Virginia-Offshore-Wind-Farm-CVOW

津村照彦(LRI会長)
関連サイト
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