ドイツ、再生可能エネルギー拡大加速に向け関連法を改正

2035年までに総電力消費量をほぼ100%再生可能エネルギーで(LRI Energy & Carbon Newsletterから)

昨年12月に発足した中道左派主導のドイツ新政権が、再生可能エネルギー(以下、再エネ)拡大加速のための広範な法改正に動き出した。4月6日の閣議で承認された関連法改正案は、「再エネの利用が公共の利益に寄与し、公共の安全性に関わる」という基本姿勢を再生可能エネルギー法(Erneuerbare-Energien-Gesetz、EEG)に明言し、この普及拡大を加速させることを主眼とする。キリスト教の復活祭前というタイミングとなったことから「イースターパッケージ」と名付けられた。奇しくもウクライナ戦争の勃発により、ロシア産の天然ガス輸入に大きく依存するエネルギー政策の誤算が露呈し、再エネへの軸足移動は一刻も猶予できないものになってきた。過去数十年間で最大規模とされる今回の改正は、排出ニュートラルの早期実現に加え、エネルギーを長期的に確保し自立する前提として、ドイツにとって再エネの普及加速がこれまで以上に緊急課題であること示唆している。[1]

 

再生可能エネルギー関連法改正の概要

2021年に施行された現EEGは、2050年より前に排出ニュートラルを実現するため、2030年に総電力消費量に占める再エネ比率を65%に拡大することを目指している。新政府は2021年に約42%だった同比率を2030年までに少なくとも80%に大幅拡大し、2035年にはほぼ100%再エネで賄うという非常に野心的な目標を掲げる。この実現に向け投資環境を改善するため、風力・太陽光発電の入札対象用地枠の拡大、地域コミュニティによる投資の奨励、再エネの系統連係を加速させるための計画・認可手続きの簡略化、再可エネ連係促進に対応して送電網拡張を推進することなどが法案に盛り込まれている。

 

改正の柱である再生可能エネルギー法の主な改正点を以下に紹介する。[2]

1.風力発電:陸上風力発電の入札量を2025~35年まで年間10GWに引き上げ、2030年までに設置済み発電能力を約115GW(現EEGでは71GW)に拡大する。入札上限価格を段階的に引き下げるスキームを2023、24年は中止、風の弱い立地のレファレンス収益モデル施設や試験風力発電施設の規模制限を廃止する。陸上風力拡大の障害となっている用地の規定緩和や認可手続きの迅速化については、夏に予定する第2段階の政府改正案に盛り込まれる計画である。

2.太陽光発電:入札量を2026~35年まで年間22GWに引き上げ、設置済み発電能力を約215GW(現EEGでは100GW)に大幅拡大する。新設発電能力に応じて四半期ごとに新固定価格買取り価格(FIT)を引き下げる料率調整規定を2024年初めまで適用外とし、それ以降は半年ごとに行う。自家消費を行わない屋根置き型PVに優遇FITモデルを導入する。地上設置型は農業と自然保護の観点を考慮したうえで対象用地を拡大する。ソーラーモジュールを作付け地に直接設置する農業型、溜池や湾などを利用した浮遊型、湿地型を新たにPV用地入札の対象に加える。

3.バイオマス発電:貯蔵可能なエネルギー源としてバイオエネルギーの利用を活性化させるため、2023年からはバイオメタンガスによるピーク電力用発電施設の入札量を年間600MWに引き上げる。バイオマスは今後、交通や鉱工業などの排出ニュートラルの実現が容易でない分野での燃料等での利用を奨励する。

4.コミュニティ電力の促進:発電事業者の多様化、地元の理解を得る、行政手続き軽減という観点から、コミュニティによる再エネプロジェクトは風力発電が18MWまで、太陽光発電が6MWまでの規模であれば入札に参加せず実行できるようになる。また、特に風力発電では自然環境や生活環境への影響を懸念する地元住民による反対運動が設置の障害になることが少なくないため、民間プロジェクトへの住民の容認が得やすくなるよう、コミュニティによる発電事業への出資規定を緩和する。

5.刷新・蓄電ソリューションへの助成拡大:再エネの発電量を安定化し、水素による電力貯蔵を実地検証する目的で、水素蓄電を採用した地域レベルでの再エネ刷新コンセプトを助成し、水素テクノロジーの市場活性化を推進する。再エネ発電を統合したグリーン水素生産施設を助成する。また、新設のコージェネレーション施設は将来的に水素燃料にも対応が可能なシステムとする(時期未定)。

6.電力消費者の負担軽減:再エネ拡大のための助成資金源として2000年に導入された電力料金へのEEG割増金(現在3.72 セント/kWh)を廃止し、今後は特別資産「エネルギー・気候基金」を通して助成する(年間66億ユーロ)。これにより電力消費者の負担を軽減する。他の改正規定同様、2023年初めに施行されるが、電力価格高騰への緊急対策として、EEG割増金は特別規定を通して7月1日付で実質廃止となる。

7.新たなエネルギー割増金規定(Energie-Umlagen-Gesetz, EnUG): コージェネレーション電力の割増金および洋上風力発電の系統連係割増金は、系統から電力調達した場合のみ最終消費者に課され、自家消費および系統を通さず顧客に直接売電する場合は対象外となる。行政手続きを大幅に軽減し、自家消費の魅力を高めることが狙い。ヒートポンプも割増金適用外となる。

 

EEGのほか、洋上風力発電法(Windenergie-auf-See-Gesetz、WindSeeG)、エネルギー事業法(Energiewirtschaftsgesetz、EnWG)、高圧送電網の拡張加速を目的とした連邦需要計画法(Bundesbedarfsplangesetz、BBPlG)及び送電網拡張加速法(Netzausbaubeschleunigungsgesetz Ubertragungsnetz 、NABEG)、その他のエネルギー法関連規定が改正される。改正法案は7月初めに連邦議会と州首相参議院の承認を経て、2023年初めに施行される予定である。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 連邦経済・気候保護省2022年4月6日づけプレスリリース https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Pressemitteilungen/2022/04/20220406-habeck-das-osterpaket-ist-der-beschleuniger-fur-die-erneuerbaren-energien.html
[2] 連邦経済・気候保護省イースターパッケージ法案概要
https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Downloads/Energie/0406_ueberblickspapier_osterpaket.html

宮本 弘美 (LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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