等々力緑地と国立競技場、二つのコンセッション事業の見どころ(後編)

等々力緑地再編整備・運営は、誰が落札者になるか、地域や利用者にどんな価値を生むか、先が楽しみな事業だ。これに対して、東京オリンピック・パラリンピック競技大会のメインスタジアムとして使用された国立競技場は、先行きに暗雲が漂う事業である。そもそも健全なコンセッション事業として成立するか、運営を担う民間事業者が登場するかに注目が集まる。

 

「負の遺産になる」

国は、国立競技場の運営管理に民間活力を活用し、周辺地域のまちづくりと一体となった取り組みを推進していく方針を示している。コンセッション方式を導入して民間事業者に委託する予定だが、コロナ禍で東京大会の開催が1年延期されたこともあり、運営主体である日本スポーツ振興センター(JSC)が2021年11月、改めて、民間事業者に関心をヒアリングした。この施設の採算性に関して、厳しい現実が改めて浮かび上がっている。

4月21日の参議院文教科学委員会で、国立競技場のコンセッション事業の問題点を立憲民主党の蓮舫氏が質問した。東京大会のセキュリティー確保のために図面開示が遅れた結果、事業開始時期が未だに未定であることや、事業化アドバイザリー業務などでこれまでに約4.5億円使われたことに言及。当初計画は球技専用だったのに、陸上競技場を兼ねるようになった経緯も曖昧だとして、「迷走している」「負の遺産になる」と指摘した。

2020年度の費用は、保守業務委託費や人件費、水道光熱費などで10.5億円。これに対して収入は、大会のテストイベントなどによる1.47億円に限られ、差し引き約9億円の赤字だった。2016年の試算によると、施設の50年間のライフサイクルコストは約1200億円となっている。修繕・更新費約650億円、保全費約450億円、エネルギー費約100億円の合計額だ。

これらを基に計算すると、修繕費込みのランニングコストは年24億円に上る。国立競技場は屋根がなく、天然芝なのでコンサートなどのイベントには使いにくいとされ、蓮舫氏は「収入が心配だ」と語った。

答弁した末松信介文部科学大臣は、赤字は国費で負担することを認めたうえで、コロナ禍もあって現段階で年間収入の見込みを立てるのは困難だと話した。

 

民間を活用するなら計画段階から

国立競技場に関する質疑応答は、4月5日の参議院文教科学委員会でもあった。自由民主党の水落敏栄氏が、民間事業化の検討状況や収益向上策について質問。スポーツ庁の串田俊巳次長が答弁した。以下はその要旨である。

  • 国立競技場の収益性を高めるため、年間を通じて国際大会、全国大会の主会場とするなど、スポーツ振興の中核拠点として最大限利活用する。スポーツ以外のイベントにも活用を広げる。
  • イベントのない日は、競技場の様々な見どころを見学するスタジアムツアーなどをより充実させる。
  • こうした様々な取組で、民間のノウハウを活用し、コストの削減につなげることが大事。
  • 現在、JSCにおいて、専門家の助言を得つつ、民間事業者の意見などを集めながら検討を進めている。スポーツ庁は、民間のノウハウと創意工夫を最大限活用できる事業スキームの構築に取り組む。

 

これで黒字になればよいが、スタジアム事業の採算性が厳しい事情は変わらない。

なぜ、こうなってしまったのか。何度も指摘されてきたことだが、運営後の収支を疎かにして計画・建設したからだ。施設を造ってから「採算が合わない」と騒いでも遅い。民間のノウハウを活用するのなら、計画段階から運営ノウハウに長けた人たちを参加させて、黒字運営できるような施設にしておくことが重要だ。

赤字を垂れ流す施設は、初めから造らない方がいい。どうしても必要なら仮設構造物にして建設費を抑制し、イベント後は解体して維持費や修繕費がかからないようにすればよい。こんなことが再び起きないように、黒字化が難しい施設の建設を推し進めた人の責任も厳しく問うべきだろう。

InfraBiz
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