ドイツの公共路線バス、公的助成を追い風に電化進む

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツは交通分野の温暖化ガス削減目標として2030年までに1990年比で40~42%の削減を掲げている。この実現には、公共交通手段の利便度向上により乗用車の交通量の削減につなげるとともに、公共バスの電化も重要な役割を果たす。また、大気汚染や騒音を解消し住民生活の質向上を図るという観点からも、多くの都市が今、ディーゼル車から電動バスへのシフトに取り組んでいる。ただ、ディーゼル車に比べ非常に高価な電動バスの調達と充電システムなどのインフラ投資が必要なため、地方公共交通会社には過大なコスト負担がのしかかる。従って、国や州の助成がなければ電化の実現は非常に困難というのが現状である。

 

連邦交通デジタルインフラ省(BMVi)は公共交通プロジェクト支援プログラム「きれいな空気(Saubere Luft)」(助成期間2017-20年)を通して、NO2濃度の高い自治体の約380のバス電化プロジェクト(電動バス4,530台の調達と充電スタンド3,000超の設置)に2億5,000万ユーロ超の助成金を供与した。また、今年新たに地方自治体のE Mobilityプロジェクト助成プログラムを立ち上げ、公共バスの電化を引き続き支援している。一方、連邦環境省(BMU)は、助成プログラム「公共路線交通の電動バス調達(Anschaffung von Elektrobussen im offentlichen Personennahverkehr)」を通して、電動バス(プラグインハイブリッド、燃料電池車を含む)の調達を後押ししている。100%再生可能エネルギー利用などを条件に、ディーゼル車との調達コストの差額の80%、インフラ整備コストの40%などが補助される。これまでに国内60超の都市・地方交通会社が合計約1,500台の調達の助成を取り付けている。

 

ケルン
国内北西部ケルン(人口約108万人)のケルン交通会社(Kolner Verkersbetrieb=KVB)[1]はバス路線総距離564㎞を現在330台で運行している。2016年12月、中央駅から南部郊外を結ぶ7㎞の路線に電動バスを初導入した。今年、他の路線にVDL Bus & Coachの電動バス53台を投入し、現在、合計59台が定期走行している。2030年までのフリート完全電化を視野に入れ、来年51台増やす計画である。市内北部の車庫に現在、充電スタンド47基(最大出力150kW)による充電体制を整備している。同車庫ではまた、パンタグラフ式の夜間充電システムを統合した電動バス専用カーポートを建設中である。隣接する地元電力会社、RheinEnergieの変電所から再エネ電力を調達するとともに、屋上設置太陽光発電システム(PV)での自家発電も行う。電化プロジェクトはノルトライン・ウェストファーレン州政府からも助成を受けている。

 

ヴィースバーデン
ヘッセン州の州都でフランクフルト近郊のヴィースバーデン市(人口28万人弱)の公共交通会社、ESWE Verkehrsgesellschaft[2]は総距離640kmに及ぶ43路線に約290台のバスを投入している。2019年秋に電動バスを初導入した。DaimlerBenz子会社、Daimler Buses/EvoBusに発注済みの「eCitaro」120台のうち現在56台を定期運行に投入し、車庫には充電スタンド56基を整備している。2023~24年ごろに公共バス会社として排出ニュートラル一番乗りを目指しているが、車両調達が遅れる可能性もあり、現時点では不確実である(広報担当者談)。ESWEはまた、バッテリー電動バスより航続距離が長い燃料電池(FC)バスの実地検証を目的に、ポルトガルCaetanoBusの「H2.City Gold」を10台発注している。調達にはEUのFCバス商用化促進プロジェクト「JIVE(Joint Initiative for Hydrogen Vehicles across Europe)」とBMViの国家刷新プログラム水素・燃料電池テクノロジー部門の助成金を受けている。隣接するラインラント・プファルツ州の州都マインツにある風力発電を使った水素燃料生産施設、Energiepark Mainzが車庫内の貯蔵タンクに水素を供給する。同州とヘッセン州がインフラ整備を助成している。

 

ベルリン
ドイツ最大の地方公共交通会社、ベルリン交通会社(Berliner Verkehrbetrieb=BVG)[3] は約1,500台の路線バスを運行する。2019年にバス電化プロジェクトを立ち上げ、BMViから約1,300万ユーロ、BMUから最高3,500万ユーロの助成金を取り付けた。電動バスの実地テスト後、今年春に郊外の一部路線に運行投入した。年末までに227台を導入する計画で、2030年までにフリートを完全電化する計画である。2019年設立の再生可能エネルギー100%の公共エネルギー会社Berliner Stadtwerkeから電力を調達している。

 

これら3都市のほか、2030年までにミュンヘンがフリート980台超(契約運行会社分含める)、ハンブルクが同約1,000台の完全電化を目指している。連邦道路交通局(Kraftfahrt Bundesamt)の道路車両登録統計[4]によると、年初時点の国内フル電動バス登録台数は727台で前年比88.8%増と大きく伸びた。今年1-7月累計の新車登録台数は249台で、全体の7.8%を占める。国内を走る電動バスの比率はまだ1%に過ぎないが、公的助成措置を追い風に電化が加速するのは間違いない。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] KVB HP Smart City KVB  https://www.kvb.koeln/unternehmen/projekte/smart_city_kvb/e-bus/zukunftsaussichten.html
[2] ESWE HP Vision  https://www.eswe-verkehr.de/vision.html
[3] BVG HP e-Metrobus  https://unternehmen.bvg.de/electromobility/
[4] Kraftfahrt Bundesamt HP Statistik Neuzulassungen https://www.kba.de/DE/Statistik/Fahrzeuge/Neuzulassungen/neuzulassungen_inhalt.html?nn=2601598

 

宮本 弘美 (LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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