電気分解槽と洋上風力発電の接続でCO2排出ゼロの水素製造

再エネ電力による電気分解で生成するグリーン水素と、それを利用した持続可能燃料の生産には大きな可能性があり、CO2排出量を大幅に削減できる。しかし、持続可能燃料は化石由来の燃料よりも生産コストが高くなるため、普及にはまだ時間が掛かりそうだ。コストの低減には、持続可能燃料の生産体制を産業規模で整備するとともに、再生可能エネルギーの発電コスト低減も不可欠だ。産業界は政府と協力して、大規模で持続可能な燃料生産への民間投資に対するインセンティブを促進するフレームワークを構築する必要がある。

SeaH2Land プロジェクトでØrstedが1GWの電解槽と2GWの洋上風力発電所

世界最大手の洋上風力事業者Ørsted(デンマーク)は、North Sea Portにおける主要クラスター企業とともに、再生可能水素の利用によってオランダ・フランドル産業クラスターのCO2排出量を削減するギガワット級のプロジェクト「SeaH2Land」に取り組んでいる。Ørstedが、水素を製造する電気分解槽(電解容量1GW)と、それに接続する洋上風力発電所(設備容量2GW)を開発する。再エネ利用によって、水素製造時にCO2は発生しない。製造された水素は、オランダ・ベルギー間の45kmの水素パイプラインによって、地域の産業プレーヤーで供給できるようにする。さらに380kVの送電網を拡張して、クラスターを真の「水素ハブ」に転換できると、スヘルト川両岸にギガワット級の電解槽と洋上風力発電の上陸地点を整備する構想が完成する。

電解槽と洋上風力発電所を開発するØrstedのほか、North Sea Portと産業関係者は、Smart Delta Resourcesとともに、地域水素ネットワークと380kVの送電網への接続を整備する。ゼーラント州(オランダ)とオーストヴランデレン州(ベルギー)も支援する。Arcelor Mittal(ルクセンブルクの鉄鋼メーカー)、Yara(ノルウェーの窒素肥料メーカー)、Dow Benelux(オランダの化学メーカー)、Zeeland Refinery(オランダの石油会社)は、将来的に持続可能な方法によって鉄鋼、アンモニア、エチレン、燃料を生産するために必要な地域インフラの開発を支援し、オランダとベルギーの2030年に向けたCO2排出量削減を支援する。

Ørstedは、SeaH2Landのフェーズ1で規制の枠組みが整い次第、最初の電解槽(500 MW)を開発する。これによって、地域の水素ネットワークの整備が可能になる。フェーズ2では、国際的な水素バックボーン(基幹ネットワーク)への接続を想定して、2030年までに追加の500MWを開発する。

欧州における水素の最大消費センターの一つであるNorth Sea Portクラスターでは、58万tの化石燃料由来の水素が消費されている。SeaH2landはそのうちの約20%を再生可能水素に転換する。これによって、CO2排出量の大幅な削減が可能になり、オランダとベルギー両国の削減目標達成に貢献できる。さらに、産業クラスターは2050年までに100万tの水素を消費する可能性を持つ。これは10GWの電解槽容量に相当する。SeaH2Landと再生可能水素クラスター(国際的な水素バックボーンに接続されると想定)は、2050年までのCO2排出量正味ゼロの長期的な目標達成にも重要な役割を果たすことができる。

図表1 SeaH2Landのイメージ図

(出所)SeaH2Landのウェブサイトの図を基に作成

図表2 SeaH2Landの位置図

(出所)SeaH2Landのウェブサイトの図を基に作成

デンマークでは総電解容量1.3GWのGreen Fuels for Denmarkが始動

ØrstedとHOFOR(コペンハーゲン大都市圏公益企業)は2021年5月末、コペンハーゲン大都市圏地域で持続可能燃料を生産する「Green Fuels for Denmark」プロジェクトの一部に、グリーン電力を確保する契約を締結した。エーレスンド海峡におけるHOFORの洋上風力発電所Aflandshage(250MW)で生成された電力を、Ørstedが長期供給する。同時に、HOFORが洋上風力発電の変電所をAvedøre発電所の敷地内に設置することも合意した。

ØrstedとHOFORは協働して、2つのプロジェクトの相乗効果を狙う。風力発電所とPower to X(再エネ電力による電気分解で生成するグリーン燃料)プラントの接続に関する協業と具体的な設計では、関連規制や送電網接続の問題をクリアする必要がある。持続可能燃料の開発を促進する枠組みがデンマークで確立されれば、Aflandshageからの電力は、Green Fuels for Denmarkの第1フェーズ(10MW)の電力需要を満たし、第2フェーズ(250 MW)のグリーン燃料の一部とすることも可能だ。

洋上風力発電所Aflandshageに関する合意は、Green Fuels for Denmarkへの貢献に加えて、DFDS(海運・物流)が提案するコペンハーゲン・オスロ間の「水素動力フェリー」に水素を供給する電解プラントの電力需要を満たす可能性もある。Aflandshageは現在、開発段階であり、規制当局の承認を条件として、HOFORは2024~25年の電力供給開始を目指している。Avedøre発電所においてAflandshageから陸上に送られる電力はØrstedが保有し、同発電所にはGreen Fuels for Denmarkの拠点が置かれる。さらにHOFORは、生成された過剰な熱をコペンハーゲン地域の暖房システムに活用するための調査も実施する。

なお、Green Fuels for Denmarkは、持続可能燃料の大規模生産に対するデンマークの野心的なビジョンで、85万トンの脱炭素化の可能性を有する。プロジェクトは、A.P. Moller–Maersk(海運)、DSV Panalpina(物流)、DFDS(海運・物流)、SAS(航空)、Copenhagen Airports(空港)、Ørstedが参画するパートナーシップによる。Nel(水素)、Haldor Topsøe(化学)、Everfuel(水素燃料)は第1フェーズと第2フェーズの開発で提携している。さらにCOWI(建設コンサルタント)はプロジェクトのナレッジパートナーとして関わる。そのほか、Molslinjen(フェリー)、the City of Copenhagen(コペンハーゲン市)、Capital Region of Denmark(デンマーク首都地域)がプロジェクトを支援している。パートナーシップのビジョンは、Green Fuels for Denmarkが10MW、250MW、1300MWの総電解容量を目標とする3つのフェーズで構築されている。

InfraBiz
関連サイト
SeaH2Landのウェブサイト
Ørstedのウェブサイト
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