空港・上下水道・道路・アリーナ…、広がるコンセッション事業(1)

所有権を公的セクターに残したまま、施設の運営を一定期間、民間事業者に委託するコンセッション方式。まずは、日本地図でコンセッション事業の広がりを見てみよう。第1号は、2015年1月に運営を開始した兵庫県の但馬空港だ。その後、国立女性教育会館、仙台空港、関西国際空港・大阪国際空港(関空・伊丹)、愛知県有料道路などに導入された。そして、第1号から6年が経過した2021年4月には、熊本県有明・八代工業用水道や横浜市みなとみらい公共駐車場の運営が始まり、事業を開始または事業者が決定した日本のコンセッションプロジェクトは30を超える数になっている。

 

最も多いのは空港の12件。関空・伊丹や北海道7空港は、それぞれ一つの事業として数えた。空港数にすると19になる。次いで多いのが上下水道の4件だ。3月には、大型コンセッション事業として注目を集めた宮城県上工下水一体事業の優先交渉権者が決まった。

ほかにも、国際会議場や展示場の機能を持つMICE施設、アリーナ・体育館・美術館といった文教施設、水力発電施設、ガス、駐車場、宿泊施設、キャンプ場など、大きなものから小さなものまで、多種多様な施設に広がっている。財政難や人材不足のなかで国は、今後もコンセッション方式を拡大させていく方針だ。

 

究極の官民連携

コンセッション事業には、施設の所有者である国や自治体などが、運営の委託先となる民間事業者を公募して選定する場合と、公募せずに指名する場合の大きく二つの方法がある。但馬空港や鳥取空港、横浜みなとみらい国際コンベンションセンターなどは指名方式で事業者を決めた。既存施設の運営実績が不可欠な事業や、赤字で新たな民間事業者の参画が期待できない事業に、指名方式が採用されている。

一方の公募方式は、民間事業者がコンソーシアム(共同事業体)を組んで参画することが多い。利益が期待できる事業では民間事業者の参入意欲が高くなり、競争によってより良いアイデアが寄せられ、運営権対価も上昇する傾向がある。その結果、民間事業者のノウハウを生かした効果的・効率的な施設運営が可能になり、財政赤字の解消や地域活性化にもつながるというわけだ。

いくつかある官民連携(PPP)手法のなかでも、コンセッション方式は民間事業者の経営の自由度が高い。「究極の官民連携」と呼ばれるゆえんである。

 

首長の姿勢がコンセッション事業を育む

先の日本地図を見ると、思いが強い首長の下でコンセッション事業が生まれていることがわかる。宮城県の村井嘉浩知事、愛知県の大村秀章知事がその例だ。国が管理していた空港として初めてコンセッション方式を導入した仙台空港や、水道用水供給、工業用水道、流域下水道の事業を一体化した宮城県上工下水は、県が政府に働きかけて実現したものだ。大村知事の愛知県では道路、国際展示場、体育館と、分野の異なるコンセッション事業を次々と実現させている。

民間活用のメリットを知る首長は、自ら率先して事業の意義や魅力をプレゼンテーションする。コンセッション方式の導入に反対する人たちが少なくないなかで、首長の一貫した姿勢は、苦労して事業を形成する職員の心の支えとなり、地域の反対リスクも考慮せざるを得ない民間事業者の背中を押す動機になっている。

2017年2月に開催された上工下水一体運営を実現するための県の検討会で村井知事は、「民間事業者のやりやすいようにすること」を職員への指示事項の一つに挙げた。水道法改正をテーマにした2018年11月の参議院厚生労働委員会に参考人として招致された際には、「反対をされている先生方にお話をさせていただきたい」と説明を始め、民間委託の不安解消に努めるとともに、県にとって大きな費用削減効果があることを訴えた。(次回に続く)

InfraBiz
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