高い電気料金でドイツ企業の国際競争力が低下

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツの製造業の景況感が2023年春ごろから悪化している。今年の鉱工業生産は3年連続で前年を下回る見通しで、国外からの受注が特に冷え込み受注状況も思わしくないのである。近年、ドイツ企業の国際競争力低下を危惧する声が高まる中で、その原因の一つとして槍玉に上げられるのが電気コストである。調査会社Prognos[1]によると、2022年のドイツの産業用電気料金は20.3ct/kWh(166円/ユーロ換算で33.7円)でほぼEU平均(19.9ct/kWh)であるが、隣国フランスの11.3ct/kWhを大幅に上回り、更には中国と米国の8.40ct/kWh、韓国の8.5ct/kWh、トルコの9.5ct/kWhと比べると2倍以上である。ドイツ経済研究所(IW)が行った2023年の業種別平均電気料金は、自動車製造業が190.0ユーロ/MWhで米国の2.8倍、中国の2.1倍、電気集約型産業の鉄鋼業が78.9ユーロ/MWhで米国の1.4倍、中国の1.9倍、セメント業が124.3ユーロ/MWhで米国の2.2倍、中国の1.5倍、ガラス製造業が153.1ユーロ/MWhで米国の2.4倍、中国の1.7倍であった[2] 。

ドイツでは2000年に導入された再生可能エネルギー賦課金(EEG Umlage)が2022年7月の廃止まで長年、高い電気料金の”元凶“とみなされた。連邦エネルギー水道事業連盟(BDEW)によると、エネルギー危機前の2020年の産業用電気料金は平均17.76ct/kWhで、このうち電力事業者・ネットワークコストが47.7%を占め、EEG賦課金は単独で38.1%を占めていた[3]。だが当然ながら、電気集約型業種や厳しい国際競争に晒されている企業には優遇措置がある。例えば、EEG賦課金等の負担軽減のための特別調整規定(Besondere Ausgleichsregelung)[4]の適用を受ければ、賦課金は最初の1GWhまで定額で、それを超えた消費分は電気コスト集中度に応じて定額の15~20%に割り引かれる(粗付加価値ベースでの上限あり)。EEG賦課金廃止に伴い、同規定は2023年に施行されたエネルギー資金調達法(Energiefinanzierungsgesetz=EnFG)[5]に組み込まれ、コージェネレーション賦課金と洋上風力発電ネットワーク賦課金には引き続き適用されている。その他、ネットワーク事業者への調整規定(StromNEV 19条)に基づく賦課金(Strom NEV Umlage)の割引、配電事業者が地方自治体に支払う土地利用料への賦課金の免除などの優遇措置がある。

電気コストの負担軽減が電気集約型企業の存続に関わる喫緊の課題との声が強まる中、連邦経済気候省は昨年5月、企業の競争力向上のための産業用電気料金コンセプトとして、再生可能エネルギー電力を低料金で提供できるようになるまで(2030年を想定)の移行期間に特定業種の企業が支払う電気料金の上限を6ct/kWhに抑える措置を提案した。電力市場の年平均取引価格がこれを超えた場合、年間消費量の8割に対し差額を還付するというもので、電気料金の安い外国への生産移転を阻止するためにも支持する声は多かった。半面、財務省学術諮問委員会や複数の経済研究所は、企業のエネルギー節約工程への構造転換を遅らせるなどとしてこれに反対した。政府が最終的に選んだエネルギー価格関連措置の目玉は電気税の大幅引下げで、1.50ct/kWhを超えていた製造業の電気税をEUが定める最低額の0.05ctに引下げ、今年から2年間で総額30億ユーロの減税を図る。歳入見込み次第で28年まで延長することも示唆した[6]。電気税引き下げで全ての企業が減税の恩恵を受けられるようになったため、エネルギー集約型企業への従来の電気税特別還付(Spitzenausgleich)[7]は廃止された。EEG賦課金廃止に続き、電気税が大幅引き下げとなった今年半ばの同料金は16.65ct/kWhで、賦課金・税の比率は1割未満に下がった。2021年の平均電気料金は21.38ct/kWhだったが[8]、仮にこの年にEEG賦課金が廃止され電気税が大幅引下げとなっていたとすれば、14ct/kWhを下回っていたであろう。

一方でネットワークコストが産業用電気料金を押し上げる新たな要因となっている。今年はネットワーク利用料安定化のための公的助成金(55億ユーロ)が打ち切られ、送電事業者が利用料を引き上げたからで(平均25%)、StromNEV賦課金も約6割引き上げられた。 多くのドイツ企業は中国や米国などの競合相手に比べ引き続きかなり大きなコスト負担を強いられており、更なる支援措置を求める声が止まない。だが公的助成には限界がある。「多くの産業分野の競争力を左右するのは安いエネルギー価格ではなく、イノベーションとテクノロジーである」とキール経済研究所は述べている。財務省諮問委員会に「エネルギー価格が高水準にとどまる傾向にあるであろうドイツでの未来はほとんどない」と言い切られた電力集約型産業の存続は、省電力への構造転換をいかに迅速に進めることができるかにかかっている。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] Vbw 調査レポート:Internationaler-Energiepreisvergleich https://www.vbw-bayern.de/Redaktion/Frei-zugaengliche-Medien/Abteilungen-GS/Wirtschaftspolitik/2023/Downloads/vbw-Studie_Internationaler-Energiepreisvergleich_Oktober-2023.pdf 
[2] IWD(ドイツ経済研究所の報道部門) 2023年12月18日掲載 https://www.iwd.de/artikel/hohe-strompreise-sind-ein-grosser-nachteil-606769/ 各業種の数社をモデルとして推定。ドイツの料金は公的助成措置を考慮済み。米国はテキサス州、中国は内モンゴル自治区と広東省の料金を参照。
[3] BDEW-Strompreisanalyse Juli 2024 https://www.bdew.de/service/daten-und-grafiken/bdew-strompreisanalyse/
[4] 連邦経済気候省HP https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Artikel/Energie/besondere-ausgleichsregelung.html
[5] 再生可能エネ法、コージェネ法に基づく、また洋上風力発電の系統接続に伴う送電事業者の経費に関連した資金調達のため、資金需要の見積もり、公的資金による補填、賦課金の抑制、調整メカニズムなどを規定している。
[6] 政府HP 2023年12月19日付プレスリリース https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/strompreispaket-energieintensive-unternehmen-2235760
[7] 1999年の電力税導入に伴い、エネルギー集約型企業の負担軽減のため設けられた措置で、収めた電力税の最大90%が還付されていた。
[8] 脚注3を参照。

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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