小型・分散化と大規模・ハブ化、対照的な日米のCO2直接回収/DACプロジェクト

大気中からCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)は脱炭素の有望な手法である。日本では都市部でCO2回収装置を小型化・分散配置して利活用まで視野に入れるプロジェクト、米国では大規模な装置をハブ化して効率的なCO2回収を目指すプロジェクトが進行中だ。アプローチは異なるが、スタートアップの保有技術がベースになっていることは共通している。

双日、Carbon Xtract(福岡市)、清水建設の3社は、建築構造物内でCO2を大気から直接回収・利活用するシステムの都市実装に向けた事業を、東京都の支援事業「GX関連産業創出へ向けた早期社会実装化支援事業」に共同提案し、2024年10月に採択された。

Carbon Xtractが保有する、ガス分離膜を用いて大気中からCO2を直接回収するm-DAC(membrane-based Direct Air Capture)技術を採用する。大規模な設備が不要で、装置の小型化・分散設置が特徴。都市部の様々な場所に設置してCO2回収に役立てる。

Carbon Xtract(2023年5月設立)は双日、九州大学、ナノメンブレン(福岡市)が出資するスタートアップで、m-DAC技術と回収CO2の利活用の早期社会実装に向けた取り組みを推進している。m-DACは、ナノ分離膜技術によって大気中のCO2を直接分離・回収する技術。Carbon Xtractと九州大学が、従来のCO2分離膜と比べて極めて高いCO2透過性を有するナノレベルの薄いガス分離膜を開発した。m-DACは九州大学の登録商標だ。

事業実施の3社は、2024~28年度にかけて清水建設のイノベーション拠点「温故創新の森NOVARE」(東京都江東区)にm-DACを設置して実証実験を行う。回収したCO2を施設内に設置予定の植物栽培プラントで活用して光合成の促進を計画。その後、複数事業での利活用を検討する。将来的には、様々な場所に置いたm-DACから回収したCO2を、セメントやコンクリートへの固定化、自家消費する炭酸水や炭酸シャワーへの原料化、光合成促進による農作物の収穫増などに利用する。

上記事業とは別に、Carbon Xtract はJR西日本、スパイスキューブ(大阪市)と組んで、m-DAC技術を活用した植物工場の実証事業(大阪府の「カーボンニュートラル技術開発・実証事業費補助金」に採択)を実施中だ。m-DAC技術とスパイスキューブの屋内植物工場を組み合わせ、回収したCO₂を用いて光合成を促進し野菜を育てる。大阪・関西万博の開催期間中に大阪環状線・弁天町駅で実施の予定だ。

ルイジアナ州で年間100万tのCO2除去を目指すプロジェクト

一方、日本航空、三菱商事、三井物産、商船三井(子会社MOL Switchを通じて)の4社は、DACスタートアップの米Heirloom Carbon Technologiesに出資した。同社は設立(2020年)以来、世界有数のDAC企業の1社に成長。日本の4社やビル・ゲイツ氏創設のBreakthrough Energy Ventures、MicrosoftのClimate Innovation Fund を含む多くのファンド・投資家から、2024年12月までに資金調達シリーズBで1億5000万米ドルを集めた(2022年3月にクローズしたシリーズAでは5300万米ドルを調達)。

Heirloom社は、2023年末にカリフォルニア州で北米初の商用DAC(CO2除去量・年間1000t)の運営を開始。2026年にルイジアナ州で最初の施設(CO2除去量・年間1万7000t)を稼働の予定だ。さらに、最大6億米ドルの政府資金の対象で、ルイジアナ州にCO2除去量・年間100万tの施設を建設するプロジェクト Cypress(米エネルギー省が支援するDACハブ)の構成員(Battelle Energy、Climeworks、Heirloom社)にも選定されている。同社管轄部分のCO2除去量は年間30万t。第1段階は2027年に稼働予定で、年間CO2除去量は10万t。同社は、複数年にわたって最大31.5万tのCO2除去材を購入する長期契約を締結したMicrosoftをはじめ、Stripe、Meta、Shopify、JP Morgan、McKinsey、Workday、H&M Group、Autodeskなどと、CO2除去を提供する契約を締結している。

Heirloom社の技術は、石灰石の性能を強化して空気からCO2を直接回収するものだ。CO2を約50%含む石灰石からCO2を抽出し、水を加えて石灰石を自然の状態に戻す。この材料はスポンジのように大気からCO2を吸収する。同社の技術でこのプロセスを加速化し、自然界でCO2の吸収にかかる数年の時間をわずか3日に短縮する。吸収したCO2は再エネを利用したキルンを使用して石灰石材から抽出し、地下に永久的に保管する。

InfraBiz
関連サイト
双日のウェブサイト
九州大学のウェブサイト
JR西日本のウェブサイト
Heirloom Carbon Technologiesのウェブサイト
Heirloom Carbon Technologiesのウェブサイト
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