豪州企業やオーステッドが水素関連事業を撤退・保留・中止した理由

海外企業が水素関連事業の撤退や保留・中止を相次いで表明している。

豪州では、電力会社Origin EnergyがHunter Valley Hydrogen Hub(ニューサウスウェールズ州、太陽光発電・風力発電によるグリーン水素の80%を共同開発会社Oricaがアンモニア製造工場で引き取る計画)から撤退する。水素市場の発展のペースとタイミングが不確実であることが理由。この種の資本集約型プロジェクトの開発リスクを強調し、当面は再生可能エネルギーとエネルギー貯蔵に注力する方針だ。

ガス・石油会社Woodside Energyは、H2Tas(タスマニア、300MWの電解槽によるグリーン水素製造とアンモニア輸出)の製造施設向け環境評価申請を取り下げた。再エネ発電の能力不足、環境需要の見直し、相当の設備投資が必要となる環境・規制上の要件、困難な経済性を理由に、プロジェクトを保留している。Southern Green Hydrogen(ニュージーランド、国営電力会社Meridian Energyが主導する600MWの電解槽によるグリーン水素製造とアンモニア生産。パートナーとして参画)からは撤退した。同国におけるグリーン水素の大規模生産が経済的により困難になってきていることを理由に、Meridian Energyとの提携を終了した。

資源会社FortescueはMiddle Arm Industrial Hub(豪州ノーザンテリトリー、グリーン水素とアンモニアのハブ計画)を断念した。ノーザンテリトリーの大規模太陽光発電所(Sun Cable)の電力供給先を巡って対立が生じ、水素ハブで電力が確保できなくなったためだ。Centraliaプロジェクト(米国ワシントン州、300MWの電解槽によるグリーン水素製造。米国水素ハブの1つであるPacific Northwest Hydrogen Hubの一角)については、政府支援が不十分であること、再エネ由来の電力コストが高いことを理由に保留を決定した。Coyote Hydrogen(カナダ・ブリティッシュコロンビア州、900MWの電解槽によるグリーン水素製造とアンモニア生産)については、再エネ由来の電力コストが高いことを理由に、環境評価申請を撤回した。

一方、洋上風力最大手デンマークØrsted(オーステッド)もPower-to-X(グリーン水素、グリーン燃料)事業を見直し、スウェーデンのFlagshipONEと自国のH2RESは中止、自国政府によるGreen Fuels for Denmarkからは離脱している(下記「関連記事」参照)。

上記の水素関連事業からの撤退や保留・中止について、各社のリリースやメディア報道によると、理由は以下の5項目に大別できる。

  • グリーン水素製造向け再エネ電源確保の不確実性と、再エネ由来の電力コストの高止まり
  • 技術の産業化、経済性に見合う市場規模形成、商用ベースのオフテイク契約の遅れ
  • 政府支援(補助金、税控除優遇など)の不足
  • 規制(許認可取得、環境評価など)への対応の高コスト・長時間化
  • 自社事業再構築(優先度の見直し)、開発投資リスクに対する財務規律のプレッシャー

上記の内容からは、新規技術をベースとする市場形成に対する事業者の開発投資リスクが見えてくる。ただ、水素関連事業からの撤退・保留・中止、あるいは自社における当該事業の優先順位の引き下げを表明しているものの、事業自体の評価は変わることなく事業開発の継続を明言している企業もある。民間事業者にとって、市場形成の見通しとともに事業リスク軽減策が不可欠であることは万国共通だ。

InfraBiz
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関連サイト
Origin Energyのウェブサイト
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