ドイツ電力市場の排出ニュートラル推進でPPAに新たな期待

2030年にグリーンPPAで発電量192TWhも可能か  ―LRI Energy & Carbon Newsletterから―

ドイツでは2023年、再生可能エネルギーの国内発電量が約267 TWh(暫定値)となり初めて総発電量の5割を超えた。総電力消費量に占める同比率も前年を5ポイント上回り52%に拡大した。[1]だが、交通および暖房分野の電力需要が今後大幅拡大することなどを鑑みると、政府の総消費電力における再エネ率目標である2030年80%を達成するには、再生エネ発電量を約600TWhまで増やす必要があるとされる。ドイツは2000年に施行された再生可能エネルギー法(Erneuerbare Energien Gesetz=EEG)で電力固定価格買取制度(FIT)を導入し、同発電事業への投資を奨励してきた。2035年までに電力需要を再エネで100%賄えるようにするには、とりわけ太陽光・風力発電容量の増強を加速させなければならない。その新たなけん引力として、発電事業者と需要家が一定期間の買取価格を直接取り決める電力販売契約(PPA)に期待が高まっている。発電事業者は中長期的に安定した収益基盤を確保でき、需要家は排出削減に必要な再生可能エネを初期費用をかけずに調達できるという大きな利点がある。ドイツ政府もFITによる公的助成なしでグリーン発電を拡大する効果的な措置として、PPAを促進する姿勢を明確にしている。

ドイツのPPA市場の現状と将来性

ドイツエネルギー庁(Deutsche Energie Agentur=DENA)がドイツ商工会議所(Deutsche Industrie und Handelskammer=DIHK)と、環境保護・エネルギー効率化に取り組む企業による活動団体Klimaschutz Unternehmen e.V.と立ち上げた再生可能エネルギー促進イニシャチブの一環で、PPAに関わる情報活動を行っている。2019年夏に行ったPPA市場調査によると、多くの企業がコーポレートPPAに関心を持っている(非常に高い31%、高い55%)。だが、ドイツでの実績が少ないため経済的効果などの情報が不足している、契約が複雑、法律上などの諸条件やリスク保証について不透明など不安要因が多く、PPAのハードルを高いと見ているようである。[2]

DENAの再生可能エネルギーPPA市場報告書(Green PPAs fur die Energiewendeziele 2030)[3]は、PPAによる年間発電量は2022年に7.2TWhだったが、条件が良好であれば2030年には192TWh(うち新設プラント43.6TWh)の市場ポテンシャルがあると試算している。発電事業者には、EEG法の罰則規定(完工遅延などの場合)に拘束されない、連邦放出防止法(Bundes-Immissionsschutzgesetz)上の認可を事前に取る必要がない、FIT適用の発電施設には認められていない再生可能エネ電力証明書(Green Certificate)の取引が可能などの利点もあり、将来的に洋上風力発電と発電容量20MW超の太陽光発電でPPAによる新設プロジェクトが増えると予想する。一方、FIT買取期間(20年)が満了する発電プラント(2025年までに推定約20万プラント)が公的助成なしに収益性を維持して運転を続ける手段として、特に1GWを超える陸上風力発電プラントによる比較的短期のPPAを有望視している。PPA市場発展のための政策的課題として、FITや差額決済契約(CfD)などの市場価格プレミアムがPPAにマイナスの影響を及ぼさないような配慮や、需要家の債務不履行リスクに対する国の信用保証が必要なことを示唆している。

連邦経済気候保護省の委託で行われたPPA市場モニタリング報告書(Monitoring der PPA Jahresbericht 2022)[4]によると、PPAを含むその他の直接電力契約容量(contracted capacity)は2021年初め、一部の陸上風力発電施設のFIT期間満了に伴い前年末の約0.6GWから約2.8GWに急増した。2022年初めも同様にFIT期間満了の風力発電が加わり8GW近くに増えた。市場価格上昇による収益拡大の期待や、グリーン電力証明書を取引できることから、FIT終了前にPPAに切り替える発電事業者も増えているという。

欧州PPA市場の動向

エストニア、ラトビア、ルクセンブルク、マルタ、キプロス、スロバキアを除く21ヵ国でPPAがすでに採用されている。PPAフォーラム「RE-Source Platform」の集計データによると[5]、EUのコーポレートPPAの2023年新契約容量は10月時点で約7.2GWに達し、スペインが2.32GW、ドイツが1.76GWで上位を占めた。

EUは、ウクライナ戦争に端を発した2022年の電力価格高騰を緊急警告ととらえ、市場価格変動からの電力消費者の保護と再生可能エネルギー拡大という観点から電力市場改革に乗り出した。同改革案は2023年末に欧州議会と欧州理事会で仮合意された。ここには、PPAに対して国が市場メカニズムに則り保証を供与できる仕組みを導入するといったPPA奨励策も盛り込まれている。PPAを通して、EU企業は石油や天然ガスの市場価格高騰の影響をあまり受けずに電力を長期に亘り安定的な価格で調達でき、市場競争力を保持できると見ているのである。[6]最終的にドイツで法制化されるまでには時間がかかりそうだが、PPA市場成長の追い風となり電力市場のグリーン化に新たな勢いがつくことに期待したい。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 連邦エネルギー・水道事業者連盟(BDEW) 2023年12月18日付プレスリリース(暫定値)https://www.bdew.de/presse/erneuerbare-energien-deckten-2023-erstmals-mehr-als-die-haelfte-des-stromverbrauchs/
[2] DENA MARKTMONITOR 2030 Corporate Green PPAs: Okonomische Analyse https://www.dena.de/fileadmin/dena/Publikationen/PDFs/2020/2020_02_24_dena_Marktmonitor_2030_Corporate_Green_PPAs.pdf
[3] DENA 2023年12月発刊 ANALYSE: Green PPAs fur die Energiewendeziele 2030 https://www.dena.de/fileadmin/dena/Publikationen/PDFs/2023/Green_PPAs_fuer_die_Energiewendeziele_2030.pdf
[4]連邦経済気候保護省(BMWK)Monitoring der PPA Jahresbericht 2022 https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Publikationen/Energie/monitoring-der-direktvermarktung-jahresbericht-22.pdf?__blob=publicationFile&v=2
[5] Energy Monitor 2023年10月26日付プレスリリース https://www.energymonitor.ai/tech/renewables/data-insight-21-out-of-27-eu-countries-have-now-registered-corporate-renewable-ppas/
[6] 欧州委員会2023年12月14日付プレスリリース https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_6602

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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