改正PFI法が成立、PFI推進機構の期限延長で5年後はどうなる

PFI推進機構(民間資金等活用事業推進機構)の業務期限の5年延長などを目的とするPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)改正案が12月10日、参議院本会議において賛成多数で可決、成立した。

改正案は、PPP/PFI推進アクションプランが掲げる「2031年度までの10年間に30兆円の事業規模」を実現するための推進策として提出された。主な改正点は、①PFI事業の対象にスポーツ施設などを追記、②コンセッション事業者による施設改築を容易とする実施方針変更手続きの創設、③PFI推進機構の役割強化と株式・債権処分期限延長――の3点だ。

 
●PFI法改正案の概要
①PFI事業の対象となる公共施設の拡大
PFI事業の対象となる公共施設等の定義にスポーツ施設及び集会施設を追記する。
②コンセッション事業に関する実施方針の変更手続きの創設
事業期間中の事情変更等を踏まえた、施設の改修工事が柔軟に実施できるよう、実施方針で定めた公共施設等運営事業に係る施設の規模や配置の変更を可能とする。
③PFI推進機構の業務の追加、株式・債権の処分期限の延長
PFI推進機構の業務に、事業を支援する民間事業者(地方銀行など)に対する助言や専門家派遣等を追加するとともに、PFI推進機構の保有する株式や債権などの処分期限を5年(2033年3月31日まで)延長する。
 
衆参両院の内閣委員会での審議では、PFI推進機構の役割や期限が焦点となった。PFI推進機構は、設立から10年後の2022年度に民間のリスクマネー市場が成熟することを前提として設立された時限的な組織である。民間投資を補完する立場で、独立採算型PFI事業への資金供給を担う。新規支援の決定を2023年3月末で終了し、2028年3月末までに保有する株式・債権を譲渡する定めだ。

 

インフラ投資市場が未成熟な理由

2013年5月の参議院内閣委員会では、当時の内閣官房PFI法改正法案等準備室長が、「15年もたてば日本のインフラ市場も非常に活性化して多数の民間インフラファンドが組成されていることを想定している。15年たてば、機構が取得している株式や債権を民間の多様なファンドに譲渡することで、機構の果たしてきた役割を民間市場に委ねることが望ましい姿だ」と語っている。

先に示したように、改正案は株式や債権などの処分期限を5年延長することを盛り込んだ。これに対して今国会では、PFI推進機構の設立からこれまでの間に、民間インフラ投資市場が想定通りに育成できなかった理由や、どのようになったらPFI推進機構が役割を終えるのかについて質問が相次いだ。

インフラ投資市場が未成熟な理由として内閣府のPFI推進室長は、PFI事業の案件数が少なく、投資市場で商品となり得る収益性のある事業が十分でないことや、PFI事業に対してリスクマネーを供給する資金供給者が少ないことなどを挙げた。

PFI推進機構の業務終了に関して、岡田直樹内閣府特命担当大臣は、「機構の機能拡充により、設置目的の達成に向けた取り組みを加速させ、結果的に機構が役割を終えて解散できる状況を早期に実現したい」と答弁。5年後の業務終了を明確にせよとの意見には、「抑制的であるべきだが、その時点の状況を勘案して判断する」と述べるにとどめた。

 

株式・債権の売却を2028年度から開始

PFI推進機構の2022年3月末時点の実績は、支援決定52件、支援決定金額1378億円(出資119億円、融資1259億円)、実出融資額1018億円、誘発された民間出融資額9437億円(出資671億円、融資8766億円)。「実出融資額」に対する「誘発された民間出融資額」で示す「呼び水」の効果は9.3倍で、他分野の官民ファンドと比べても高い傾向にある。PFI推進機構の累積損益は26億円だ。

参議院の内閣委員会では、PFI推進機構が保有する株式や債権を将来どのように処分するのかという質問もあった。内閣府PFI推進室長は、「原則として案件ごとに相対で売却先を見つける。国が出資しているので、毀損を回避するために処分損を出さずに可能な限り高い価格で売却する必要がある」と説明。そのうえで、改正案に基づけば、株式・債権の処分を2028年度から開始し、2032年度末(2033年3月末)までに終えることを明らかにした。

審議を経て両院の内閣委員会はそれぞれ、PFI推進機構の業務の早期終了や情報開示の充実などを要望する付帯決議を採択した。付帯決議に法的拘束力はないが、国会の意思として尊重される。

 
●PFI法改正案に対する参議院内閣委員会の付帯決議(赤字はInfraBiz)
1 PFI事業を推進するに当たっては、民間が担うことによってコストの削減とサービスの向上が期待できる事業に限り実施されるよう徹底すること。
2 PFI事業の実施に当たっては、国民の安心・安全及び働く人の賃金・勤務労働条件に十分留意し、提供される公共サービスの水準が維持・向上されるとともに、地域経済の活性化に向けて地元企業、とりわけ中小企業の参画が促進されるよう、国及び地方公共団体が責任をもって管理すること。
3 PFI事業の事後評価及び諸外国の事例も含めた課題分析を行い、今後の事業実施に活かすこと。
4 株式会社民間資金等活用事業推進機構に対し、多額の国費が用いられていることに鑑み、出融資決定時及び実行後における当該出融資の情報開示を適切かつ定期的に行うよう求めることを通して、国民に対する説明責任を十分に果たすこと。
5 株式会社民間資金等活用事業推進機構は民間資金の呼び水の役割を果たすという設立の趣旨に鑑み、民業補完の原則に十分留意するとともに、民間インフラ投資市場の形成を延長期限内に行い、同機構の業務が早期に終了するよう最大限努めること。そのため、同機構が有するPFI事業に関する知見を地域金融機関に移転すること等を通じ、PFI事業に精通した民間の人材育成を積極的に図ること。
 
PFI推進機構に求められているのは、民間リスクマネーの「呼び水」となる資金供給である。これは、事業の初期段階でリスクとリターンを見極める高度な仕事だ。一方で国の監視は厳しく、民間のニーズを無視して出融資を行えば民業圧迫との指摘を受ける。難しい立ち位置で、インフラ投資市場形成を先導する役割が期待されている。
 
 

 

PFI法改正案についての解説を、月次レポート「インフラ・グリーン・デジタル投資動向 2022年10月」に掲載しました。また、PFI法第6条に基づく民間提案の解説を「インフラ・グリーン・デジタル投資動向 2022年11月」に収録しています。
InfraBiz
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