海藻を原料にした新素材により脱プラスチックを目指す、英国のスタートアップNotpla社

LRI Energy & Carbon Newsletterから

脱炭素に向けて我々にできることの一つとして、プラスチックからの離脱が挙げられる。世界的にも使い捨てプラスチックの生産・使用を止める動きは高まっており、欧州では、2019年に、ストローやコップなどの特定の使い捨てプラスチック製品の流通禁止を盛り込んだ「使い捨てプラスチックに関する指令(Directive on single-use plastics [1])」が採択され、2021年7月に特定製品の流通禁止が始まった。同指令の下では、バイオプラスチックや生分解性プラスチックであっても、化学修飾されていたり天然に存在しないポリマーを使っていれば、規制対象となる。英国ロンドンに拠点を置くNotpla社は、同EU指令においてプラスチックと見なされない、数少ないプラスチック代替素材を開発したスタートアップである[2]。

 

海藻ベースの新素材:可食性の包装製品も 

Notpla社がプラスチック代替素材の原料として着目したのは「海藻」である。同社はこの海藻ベースの新たな素材を使って容器包装を製造・提供している。海藻は世界に豊富に存在する再生可能資源で、成長が早く、海中の二酸化炭素の固定化を通して大気中の二酸化炭素の減少と海洋酸性化の抑制にも貢献する。Notpla社は現在、養殖された海藻を使っているが[3]、養殖に土地や淡水、肥料、殺虫剤も必要なく、食料との競合の懸念も無い。

Notplaは「Not Plastic」の略であり、同社のスローガン「To make packaging disappear」が示す通り、同社の製品は使用後、「消えてなくなる」。同社製品は全て、自然環境下で完全に生分解可能で、家庭で捨てた場合は平均4-6週間で堆肥化される。中には食べることができるものもある。

Notpla社は、容器包装用コーティングやフィルムなどを作る技術を6年以上の歳月をかけて開発してきた。同社の初期の主力製品である「Ooho」は、水やジュースなどの飲料やソースの小袋などの用途向けにデザインされた、食べることのできるパッケージングソリューションである。100%海藻と植物の抽出物から作られたゼラチン状の膜の中に、様々な液体を封入することができる。この膜は、褐藻類に含まれる水溶性バイオポリマーであるアルギン酸と、デンプンやセルロースなどの天然増粘剤を混ぜ合わせることにより形成される膜に、カルシウムを豊富に含むイオン溶液を加えることで、液体を入れるのに適した水不溶性膜となっている[4]。Notpla社はこのOohoを短時間で製造するための商業用機械も開発した。

現在、同社が開発し提供している主な製品は以下の通りである[5]。

Notpla Coating
持ち帰り用食品包装に使用される従来のコーティング剤と同じ耐油性、耐水性を持ちながら、プラスチックではなく海藻から作られているコーティング剤。これを使用することにより完全に生分解される容器を開発することに成功した。Notpla Coatingを使用した持ち帰り用容器は 2022年英国パッケージング・アワード[6]のイノベーション・オブ・ザ・イヤー、及びFortem International社[7]主催の2022年責任ある包装展でイノベーション賞を受賞している。

Notpla Ooho
プラスチックカップやボトルに代わる、風船のような液体用の包装カプセル。パッケージごと食べられる。また、家庭用のコンポストに捨てても果物の皮と同じように数週間で生分解され消滅する。ケチャップ等の小袋にも使用できる。Notpla社は2019年のロンドンマラソンでエナジードリンク「ルコゼード・スポーツ」入りのOohoを3万6,000個提供、ロンドン・カクテルウィーク(LCW)でもシングルモルトウイスキー「ザ・グレンリベット」入りの食べられるOohoを提供している。

Notpla Paper
同社は海藻のゼラチン質の部分を抽出して他の製品を開発しているが、その後に残った繊維を中心とするバイオマスを利用して製造された紙がNotpla Paperである。これにより、海藻資源の循環型利用を促進できる。良い手触りや見た目はもちろん、印刷や加工にも適しているため二次包装に向いている。

Notpla Film
従来の石油由来やバイオプラスチック由来のフィルムの代替品。Notpla Filmの最大の特徴は、マイクロプラスチックを放出せずに自然分解される点である。

Notpla Pipette
使い捨て食用油のパッケージ。油を注ぐときにコントロールしやすく使いやすいようにデザインされた持続可能な包装となっている。

Notpla Rigid
従来の硬質プラスチックと似たような特性を持っているが、海藻や植物から作られた素材である。工業的に加工された海藻の繊維状の残渣を使用し、本来無駄になってしまう資源を視覚的にも特徴のある素材に変化させている。この素材は様々な製品に成形することができ、家電製品から高級品まで、通常、硬質プラスチックで包装される、重い物やデリケートな商品を保護するのにも適している。また、化粧品容器からカトラリーまで、あらゆるものに応用できる。使用後は簡単に生分解されるのに加え、水に浸せば数時間で溶解し、溶解水は液体肥料として利用できる。

 

これらの製品の中でも「Notpla Paper」は、同社製品の製造過程から排出される海藻残渣から新たな価値を創造すると同時に、紙市場への進出も果たしている点で注目に値する。この製品は、森林、生物種、気候の保護に取り組む非営利環境団体「Canopy」とのコラボレーションによって実現した[8]。Notpla社のほとんどの製品を生産するのに必要なバイオポリマーは、海藻資源の15-20%にすぎない。残りの75-80%は繊維として残り、本来であれば破棄されるものである。しかし、その繊維を加工利用して作られた全く新しい素材がこのNotpla Paperである。Notpla Paperは、原料の30%を海藻残渣とし、合成添加物を一切使用しない完全な天然素材で、リサイクル可能なのはもちろん、従来の紙よりも容易に生分解される。更に、Notpla社によれば、たった1トンの海藻残渣を使って同製品を作ることで、4トンもの木の伐採を減らすことができるという。現在、Notpla Paperの原料には、バージンパルプも含まれているが、同社は2024年までに、海藻ベースの非木材の紙を開発し、これにNotpla Coatingを施した製品を製造することを目指している。

 

大手フードデリバリーサービスとの提携で英国・欧州での市場拡大に成功

Notpla社は2021年第2四半期に、オランダに本社を置く世界的なオンラインフードデリバリーサービスのJust Eat Takeaway社と協力して、持ち帰り用の箱3万個のトライアルをロンドンの様々なレストランにて行った[9]。木や草のパルプを主原料とするこの紙容器にはNotpla Coatingが施され、合成添加物は一切使用されていない。耐水性や耐油性にも優れており、Just Eat Takeaway社の顧客はこれまで通りテイクアウトを楽しみながらプラスチックのゴミを出さずにすむ。消費者の反響は大きく、Just Eat Takeaway社はNotpla社との提携を強化、アイルランド、オランダ、ドイツ、オーストリア及びポーランドでもNotpla社の持ち帰り用箱が展開されるに至っている[10]。

Notpla社の共同創設者及び共同CEOであるPierre-Yves Paslier氏は、Just Eat Takeaway社との協力を通じてテイクアウト産業に変革をもたらすことに期待を寄せている[11]。 使用後完全に生分解され自然に帰っていくこの素材は大変革新的である。Notpla社の今後の動向に注目したい。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/904/oj
[2] Notpla vs Bioplastics. https://www.notpla.com/wp-content/uploads/2022/03/Notpla-VS-Bioplastics-V2.pdf
[3] Notpla, 2021, Impact Report. https://www.notpla.com/wp-content/uploads/2021/12/NOTPLA-Impact-Report-2021-3.pdf
[4] https://www.technologiesinindustry4.com/2021/12/notpla-sea-weed-packaging.html; https://patents.google.com/patent/US20200047927A1/en
[5] https://www.notpla.com/products/
[6] 包装容器のサプライチェーンに携わる800人以上のステークホルダーが参加する包装容器業界の一大イベント。審査員には大手小売り企業が含まれる。
[7] 英国に拠点を置く国際見本市主催企業。複数の受賞歴をもつ。
[8] https://www.notpla.com/2022/02/18/notpla-joining-canopys-pack4good-environmental-initiative/
[9] https://www.notpla.com/2021/10/24/notplas-journey-to-make-packaging-disappear/
[10] https://www.just-eat.ie/blog/news/just-eat-launches-notpla-ireland
[11] https://www.packagingnews.co.uk/news/environment/biodegradable-compostable/just-eat-notpla-develop-takeaway-sectors-first-seaweed-lined-box-25-02-2020
過去のニュースレターは下記の弊社のウェブサイトからご覧いただけます。
https://londonresearchinternational.com/ja/energy-carbon/

Yui Fujimaki (LRIコンサルタント)
関連サイト
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