LNGターミナルの整備を急ぐドイツ、ロシア天然ガス依存からの脱却、水素インフラ利用も視野に

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツは今年、中道左派政権(社会民主党=SPD、90年同盟/緑の党、自由民主党=FDP)の発足により、2045年のカーボンネットゼロ社会実現に向け、30年までに電力分野での再生可能エネルギー比率80%などを目標に掲げ、エネルギー転換を加速させる政策局面に入った。原子力発電から年内に撤退[1]し、石炭火力発電も2030年に完全撤退を決めたドイツにとって、天然ガスは移行期のエネルギー安全保障の重要なエネルギー源である。なかでもロシア産天然ガスは、2011年に稼働開始した北海経由のガスパイプライン「Nord Stream1」を通して低価格で直接調達できた。そしてこれとほぼ並行して敷設された「Nord Stream 2」の完成は更なる安定供給を約束するものであった。

 

だが、今年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻したことにより、状況が激変した。ドイツは「Nord Stream 2」の承認停止という厳しい決断を迫られるとともに、天然ガス調達の生命線を失うことになったのである。ハーベック経済気候相は3月末、ウクライナ戦争によりガス調達が困難になる可能性に言及し、国家ガス非常事態計画(2019年9月施行)[2]に基づく早期警戒レベルを発した。国内のガス供給量は確保できているとしたうえで、国民や企業に消費を減らすよう呼びかけた。6月半ばには、「Nord Stream1」の供給量が修理作業を理由に大幅に減ったことを受け、次の警戒レベルに引き上げ、暖房需要によるガス消費量が急増する冬に向け備えるため、更なる消費削減の努力を求めた。「Nord Stream 1」は8月末に行った保守点検でオイル漏れが確認されたとして事実上、ガス供給を完全停止している。

 

政府はロシア産天然ガスの調達量激減が避けられないとの判断から、この冬を乗り切る緊急重点措置としてガス消費量20%削減、ガス備蓄率ほぼ100%[3](貯蔵容量約230億立方メートル)、液化天然ガス(LNG)ターミナルの建設を進めている。昨年の天然ガス輸入量はロシアが全体の55%、ノルウェーが30%、オランダが13%を占めた。ノルウェーからの調達量を増やしても、ロシアからの不足分を補うにはLNGという高くつく燃料の調達は避けられなくなり、政府はLNGターミナルの整備を喫緊の課題として掲げ、4つのターミナルに25億ユーロを投資することを決めた。LNG加速法(LNG Beschleunigungsgesetz)が6月1日付で施行され、LNG関連施設は認可手続きが簡略化され、ドイツ初のLNGターミナルの建設プロジェクトが本格的に動き始めた。ただ、陸上LNGターミナルの建設には時間がかかるため、当面は海上に設置する浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(Floating Storage and Regasification Units =FSRU)が投入される。政府はFSRU5基について5年間のリース契約(ノルウェー・Hoegh LNGから3基、ギリシャ・Dynagasから2基)を交わしている。

 

政府投資を受け、新たに建設される4つのLNGターミナルは以下の通りである。

Brunsbuttel(北海近郊、エルベ河口沿岸) 

政府系金融機関の経済復興金庫(KfW)、国内エネルギー大手RWE、オランダ国営ガス会社Gasusineによる官民プロジェクトで、出資比率はKfWが50%、ターミナルを運営するGasusineが40%、RWEが10%である。今年末~来年初めにFSRUを投入し、2026年の陸上ターミナル完成まで稼動させる。

Wilhelmshaven(北海沿岸)

新設されるLNGターミナルの建設・運用母体は独エネルギー会社Uniperで、陸域のガス遠距離輸送パイプラインと接続させるために、ガスネットワーク運用会社Open Grid Europe (OGE)が、ガスパイプラインの直近地点まで26キロメートルの地下パイプラインを建設する。LNGターミナルが本格稼働するまでの移行措置としてのFSRUは、今年末~来年初めの稼働開始を予定している。また、これとは別に、ベルギーのグリーン水素企業Tree Energy Solutions (TES)が、政府支援の下、独E.ON、仏Engieとの提携で来年第4四半期に同地、2基目のFSRUを稼働させる。TESは同地にグリーンエネルギーハブを開発中で、FSRUはこのハブの一部であるグリーン水素ターミナル(AbantHyターミナル)に一時的に受け入れられる。TESはE.ONと共同でこのターミナルにグリーン水素を輸入し[4]、FSRU稼働開始から12カ月以内に輸入水素の取り扱いを開始して、2025年には水素ターミナルへと移行できると見ている。

Stade(エルベ河畔、ハンブルク近郊)

ベルギーのガスインフラ会社Fluxys、地元港湾サービス・エネルギー会社Buss Gruppe、化学世界大手Dow、投資会社Partner Groupの合同事業であるエネルギーインフラパーク「Hanseatic Energy Hub」は、バイオLNGや合成天然ガス(SNG)にも対応できるエミッションゼロのLNGターミナルを計画している。2026年に完成予定だが、それまで、FSRUを来年末から稼働させる。

Lubmin(バルト海沿岸で、Nord Streamのドイツ到着地点)

RWEとノルウェーのStena Powerによるプロジェクトで、FSRU投入は2023年末を予定する。同地ではこの政府支援プロジェクトとは別に、Deutsche Regasが完全民間プロジェクトとしてLNGターミナルの建設認可を政府に申請中で、他のプロジェクト同様、当面はFSRUを投入する計画である。現在、ノルウェー、デンマーク、英国などのLNG事業エキスパートとプロジェクトへの出資を含め協議中である。

 

経済気候省によると、来年の冬には国が借りるFSRU5基[5]の再ガス化能力は最低250億立方メートルに、そして民間FSRUの1基が45億立方メートルとなり、これらでこれまでのガス需要の約3分の1をカバーできる見込みである。一方、LNGの調達では、3月にカタール政府と長期エネルギー提携契約を交わし、9月には新たにアラブ首長国連邦とも調達契約を交わした。3月には「ドイツはこの冬ロシアのガスを断念することはできない」(ハーベック経済相)との見方がまだあった。だが、9月27日に「Nord Stream」に意図的な破壊工作によると見られるガス漏れが数カ所発生し、ロシア産天然ガスとの決別は確定的となった。この冬のエネルギー危機への準備にはもう一刻の猶予もなく、LNGターミナルへの期待は一段と高まっている。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] フランスの原発運転状況が悪化する見通しから、ドイツでは同国からの電力輸入量に大きな影響がでるとの危機感が高まり、原発稼働延長を求める声が強まっている。ハーベック経済気候相は9月27日、残る3原発のいくつかを来年春先まで運転延長させる可能性を示唆した。12月初めの閣議で最終決定される。
[2] Notfallplan Gas fur die Bundesrepublik Deutschland
(https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Downloads/M-O/notfallplan-gas-bundesrepublik-deutschland.pdf?__blob=publicationFile&v=9)
[3] EUガス貯蔵インベントリ(AGSI)によると、9月27日時点で91.5%。経済気候省令で11月1日付で最低95%の確保が義務付けられている。
[4] 液化eメタンとして中東から輸入し、水素ターミナルで自己熱改質法により水素を分離、CO2は99%回収され、LNG船に積載され中東に戻される。戻されたCO2は水素から液化eメタンを生成するのに再利用される。参考:https://www.rechargenews.com/energy-transition/e-on-joins-bid-to-import-green-hydrogen-from-middle-east-to-germany-in-the-form-of-e-methane/2-1-1193646
[5] Brunsbuttel、Stade、及びLubminに各1基、Wilhelmshavenに2基の合計5基。


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宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
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