ドイツ鉄道、バッテリー列車を実地運行テスト

ディーゼル区間を2030年までに排出ゼロに(LRI Energy & Carbon Newsletterから)

欧州鉄道大手のドイツ鉄道(DB)は、2040年の排出ニュートラル実現のため、2030年までにCO2排出量を2006年比で50%削減するとともに、2038年までに使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替えるという目標を掲げる。現在、再生可能エネルギーの比率は約61%に達しているが、2025年までに駅舎、整備場、管理部門建物などの国内施設の電力を全て再生可能エネルギーで賄い、2030年までに列車運行電力の同比率を80%にするという中間目標を設けている。その施策として、バッテリー電動列車(Battery electric multiple unit, BEMU)や代替燃料の導入、列車のエネルギー効率向上、レンタルバイクやシャトルバスなどの新しいモビリティサービスの拡充など、多角的な観点から取り組んでいる[1]。

 

ドイツでは現在、電車が国内の軌道旅客輸送能力の80%超を担っているが、ディーゼル車はローカル線の近郊交通手段として走行頻度が高いため、乗客数を考慮した総輸送距離で測ると、全体の約3割を占めている。架線による電化が困難、あるいはコストがかかりすぎるなどの理由で、ディーゼル列車しか運行できない非電化の路線区間はまだ約450ある。同区間の排出削減策としては、ディーゼル車に代わりバッテリー電動列車と燃料電池列車(Hydrogen Electric multiple unit, HEMU)を導入することが最も有望である。ドイツ電気技術協会(VDE)は、2020年に発表した調査報告書「ディーゼル列車に対する気候ニュートラルなオプションの評価(Bewertung klimaneutraler Alternativen zu Dieseltriebzugen)」[2]で、バッテリー車が水素燃料電池車より経済性がかなり良いことを指摘した。使用期間を30年として推定すると、バッテリー車の運行コストは一般的な架線式電車とあまり変わらないが、燃料電池車は調達、運行、メンテナンスを含めてバッテリー車より最大35%コスト高となると見られる。その理由として、再生可能エネルギーを使って水素を生産しなければならず(グリーン水素)、燃料電池の発電効率が70%以下と低いことから全体としてエネルギーコストが高くなること、また、燃料電池の寿命が短く交換が必要になることを挙げている。

 

このような背景から、ベルリン工科大学(鉄道路線・運行および商品開発方法・メカトロニクスの研究チーム)とカナダ・ボンバルディアグループの鉄道車両会社でベルリンに本社を置くボンバルディア・トランスポーテーション(2021年初めに仏アルストムに事業統合された)が2016年にバッテリー列車の共同研究開発プロジェクトを立ち上げた。バッテリー列車の開発、運行認可、導入とともに、総合的な経済性の評価、政界や列車運行事業者への提言を含めた広範囲に及ぶプロジェクトとなった。実情調査では、ディーゼル車が投入されている非電化区間の多くが100㎞をかなり下回る短距離で、電化インフラをあまり拡張せずバッテリー車を投入できることが分かり、これに基づき走行ダイナミクスとエネルギーに関するシミュレーションを行った。技術開発の中核であるけん引用バッテリーを含めた駆動システムは、ドイツ南西部のマンハイムにあるボンバルディア(現アルストム)のバッテリー・高圧技術専門研究所で開発され、試験が行われた。プロジェクトはドイツ鉄道のローカル線事業子会社のDB Regio、バーデンビュルテンベルク州近郊交通会社、国家水素・燃料電池技術団体(Nationale Organisation Wasserstoff- und Brennstoffzellentechnologie、NOW)の協力のもと、デジタル交通省の助成金400万ユーロを受けて実施された。

 

ドイツ鉄道とアルストムは今年1月下旬、このプロジェクトを基盤に開発されたリチウムイオン電池採用のバッテリー列車の運行試験を開始した[3]。南西部バーデンビュルテンベルク州では、路線状況の異なる2つの区間(一部電化部分あり)で平日に走行試験を行い、走行中の充電状況を調査している。一方、バイエルン州では2月初めにディーゼル専用区間での週末運行試験を開始した。ここでは始発駅あるいは終着駅で架線を通して充電を行っている。ドイツ鉄道の推定では、ディーゼル専用路線を完全にバッテリー列車の運行に切り替えるためには、充電設備を最高150基設置する必要がある。総走行距離5万キロメートルを予定する運行試験は5月初めまで実施され、運行とメンテスに関わる経験と技術データを収集する。中部ザクセン交通連盟(Verkehrsverbund Mittelsachsen)はすでに2020年にアルストムとバッテリー列車供給契約を交わしており、2023年から運行に投入する計画である。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] ドイツ鉄道ウェブサイト https://gruen.deutschebahn.com/de/strategie
[2] VDE shop 無料ダウンロードhttps://shop.vde.com/de/vde-studie-batteriesysteme-fuer-schienentriebzuege
[3] ドイツ鉄道2022年1月21日付プレスリリースhttps://www.deutschebahn.com/de/presse/pressestart_zentrales_uebersicht/Alstom-und-Deutsche-Bahn-testen-deutschlandweit-ersten-Batteriezug-im-Fahrgastbetrieb-7202046

宮本 弘美 (LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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