洋上風力発電事業の公募競争を圧勝で制した三菱商事グループ。再エネ海域利用法に基づく促進区域である「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」の事業者に、三菱商事エナジーソリューションズ(旧三菱商事パワー)、三菱商事、シーテック(中部電力グループの総合設備会社)からなるコンソーシアム(由利本荘市沖では秋田市のウェンティ・ジャパンも参画)が選定された(2021年12月)。三菱商事グループの3海域での供給価格がいずれの2番手よりも2~3割低かったことが、勝利に結びついた。
これらの低価格は、敗北した陣営からすると採算度外視に見えるかもしれないが、あらためて三菱商事の洋上風力発電事業への取り組みを振り返ると、脱炭素経営を目標に、国内外プロジェクトへの参画、コーポレートPPA(Power Purchase Agreement、電力購入契約)の締結、インフラファンドの設立など、事業収益の確保から投資におけるエグジット(資産売却)まで、洋上風力を含めた再エネ発電事業に関する事業構築・投資を周到に実践してきたことが見えてくる。ここでは、三菱商事グループの一連の取り組みを概観する。
【脱炭素目標】2030年までに再エネ電源の割合を倍増
三菱商事は、再エネ電源の割合を2030年までに2019年度比で倍増させ、2050年までに発電事業全体でCO2排出「実質ゼロ」となる非化石比率100%を目指している。
【国内事業】秋田潟上で同じ3社コンソーシアムを組んでGE製発電機を採用
今回の公募でコンソーシアムを組んだ三菱商事エナジーソリューションズとシーテック、ウェンティ・ジャパンの3社は、2020年5月に秋田市と潟上市の海沿い(陸上)で運転開始した秋田潟上ウインドファーム発電事業(66MW)にも共同出資しており、GE(ゼネラル・エレクトリック)製の発電機(3.2MW×22基)を採用している。EPC(設計・調達・建設)は清水建設だった。
秋田県沖では、「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」に続き、2021年12月に公募が始まった「秋田県八峰町及び能代市沖」でも、三菱商事エナジーソリューションズが環境影響評価手続きを進めており、応募参加する公算が大きい。建設工事や発電機などの設備機器の調達で、今回の3事業と合わせてマスメリットが発揮される可能性が高い。
【海外事業】オランダEnecoを買収して洋上風力、英国では海底送電運営
オランダ公営の総合エネルギー事業会社Enecoとは2012年に、欧州の洋上風力発電事業分野における戦略的提携を締結。オランダ沖合のLuchterduinen(ルフタダウネン)洋上風力発電所(129MW)の50%株式をEnecoから取得し、建設・運転を両社共同で実施。Enecoが保有・運転中のPrincess Amalia(プリンセス・アマリア)洋上風力発電所(オランダ、120MW)でも協業。2020年3月には、中部電力と共同設立したDiamond Chubu Europe(オランダ)を通じて、Enecoの100%株式を約41億ユーロで買収した。2021年には三菱商事の100%孫会社の蘭法人Diamond Generating Europe(DGE-NL)を通じて、Luchterduinen洋上風力発電所の50%持ち分と、Borssele(ボルセレ)III/IV洋上風力発電所(731.5MW)の 15%持ち分を、INPEXの英国子会社INPEX Renewable Energy Europeに売却した。
一方、英国100%では子会社のDiamond Transmission Corporation(DTC)を通じて、中部電力や英国のインフラファンドとともに、Hornsea One(ホーンシー・ワン)洋上風力発電所(1218MW)やWalney Extension(ウォルニー・エクステンション)洋上風力発電所(660MW)など、計9件の海底送電資産の運営事業を受託している。これらの実績は、日本国内の今後の海底送電網整備にも優位に働く可能性がある。
【コーポレートPPA】アマゾンやキリンビール、NTTグループに再エネ電力供給
今回の3事業で協業するAmazon.com、キリンビール、NTTアノードエナジーとは、これまでもコーポレートPPAやエネルギーマネジメントで協業の実績を積んでいる。
Amazon.comとは、子会社のMCリテールエナジーを通じて、再生可能エネルギーを活用したコーポレートPPAを締結。契約では、Amazon.comが太陽光発電所約450カ所(総計約22MW)から再エネ電力を調達し、三菱商事エナジーソリューションズが、ウエストホールディングスが建設する太陽光発電設備の建設工事管理、子会社ElectroRoute(アイルランド)が太陽光発電の発電量と発電インバランスのリスクヘッジを実施する。
キリンビールとは、三菱商事エナジーソリューションズの子会社MCKBエネルギーサービスがPPA事業者となり、キリンビールの3工場(北海道千歳、取手、岡山)にメガワット級の太陽光発電設備を設置し、そこで発電された電力を2022年1月から購入・活用する。これまでキリングループは、三菱商事エナジーソリューションズと温室効果ガス削減に向けた取り組みを進めており、2021年3月から先行して4工場(仙台、名古屋、滋賀、神戸)への導入・稼働が完了していた。
NTTアノードエナジーとは2020年6月に、エネルギー分野における協業検討について合意している。両社の協業に向けた具体的な取り組みは、①再エネ発電事業:国内外の再エネ発電事業への共同出資参画、並びに同事業からのNTTグループ会社への電力供給の可能性を検討、②EVや蓄電池を組み合わせたエネルギーマネジメント事業: EVや蓄電池を含むマイクログリッドプラットフォーム(MGP)の構築と、MGPを起点とした分散型電力事業、三菱商事とNTTアノードエナジーがもつ事業ネットワークを利活用したエネルギーソリューション事業の検討。具体的には、EVの蓄電池を活用したバッテリーライフタイムマネジメント事業のビジネスモデルを確立し、EVのバッテリー利用の最適化によるマネジメント収入を見込む。さらに、蓄電池をNTTグループの通信局舎、自治体、ローソンなどの三菱商事グループの企業施設のBCP(事業継続計画)エネルギーマネジメント用電源として利活用することを目指す。今回の洋上風力発電でも、NTTアノードエナジーの需給調整ノウハウが活用されるとの見方もできる。
【インフラファンド】丸の内インフラストラクチャーを設立
洋上風力発電事業で出資者がハイリターンを狙うには、持ち分株式をインフラファンドや年金基金などに売却してキャピタルゲインを得ることが有力な手段となる。三菱商事は2017年に、インフラファンド「丸の内インフラストラクチャー」を設立している。同ファンドの事業内容は、インフラへの投資、インフラファンドの組成・運用およびアドバイザリー業務・コンサルティング業務。投資類型は、事業戦略の見直しや事業の成熟化によるリスクプロファイルの変化(リスクマネーの削減)に伴う既存事業のカーブアウト(会社分割の一種で、親会社が小会社や自社の事業の一部を切り出して新会社として独立させること)、あるいは一部の外部資金導入などとしている。今回の事業でも、事業が安定軌道に乗った段階で、持ち分株式を同ファンドに売却することが選択肢として考えられる。
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詳しくは、日経BPの紹介サイトをご覧ください。本レポート中、日本の洋上風力市場に熱い視線を送っている海外企業3社のインタビューが第4章に収録されています。企業名と目次見出しは下記の通りです。
- Iberdrola(スペイン)「コミュニティーの一員として日本の洋上風力発電事業に参画したい」
- Principle Power(米国)「日本の海域に適した浮体式洋上風力技術を提供できる」
- RTE international(フランス)「日本の洋上風力発電事業でも高圧直流送電が支配的になる」