EUイノベーション基金:大・小規模のクリーンエネルギー実証プロジェクトを選出

LRI Energy & Carbon Newsletterから

欧州委員会は、2019年2月、革新的なクリーンエネルギープロジェクト支援を目的とした「イノベーション基金」の立ち上げを発表した[1]。同基金の目的は、革新的な低炭素技術の商業的実証支援を通して、脱炭素化や気候中立に貢献する産業ソリューションの欧州市場への投入を促進することである。同基金は、EUの排出権取引制度(ETS)の第4フェーズ(2021~2030年)の下で導入されたもので、財源は、EU ETSからの収入である。より具体的には、2020~2030年でEU ETSの下で取引される排出枠4.5億枠分となり[2]、現在の炭素取引価格水準(EUR 50 / tCO2)に基づくと、250億ユーロの規模となる。

イノベーション基金の対象は、以下の分野で実施されるクリーンエネルギー促進に向けた大規模実証プロジェクト(プロジェクトの予算規模が750万ユーロ超のもの)および小規模実証プロジェクト(プロジェクトの予算規模が750万ユーロ以下のもの)である。

  • エネルギー集約型産業における革新的な低炭素技術およびプロセス
  • 炭素回収・利用(CCU)
  • 炭素回収・貯留(CCS)
  • 革新的な再生可能エネルギー発電
  • エネルギー貯蔵

欧州委員会は、2021年11月に大規模および小規模実証プロジェクトの第1回公募結果を公開し、7の大規模プロジェクト及び32の小規模プロジェクトを選出した。

 

大規模プロジェクト[3]
第1回公募(総予算10億ユーロ)から選出された7つの大規模プロジェクトは、化学、鉄鋼、セメント、製油所、電力・熱などの産業・エネルギー分野の脱炭素化プロジェクトをカバーしている。各プロジェクト名、実施国、プロジェクト概要は以下の通り。

  • Kairos-at-C(ベルギー、オランダ、ノルウェー):水素や化学製品の製造から発生する炭素の回収・貯蔵バリューチェーンの構築。
  • TANGO(イタリア):革新的な両面ヘテロ接合型(異なる性質のシリコンを接合した技術[4]ソーラーパネルの商用化に向けた実証実験。
  • BECCS@STHLM(スウェーデン):既存のバイオマス熱電併給施設における炭素回収・貯留施設の建設
  • K6(フランス):セメント工場から発生する炭素の海中とコンクリート内への貯留。
  • ECOPLANTA(スペイン):リサイクルできない都市固形廃棄物の化学物質やバイオ燃料への転換。
  • HYBRIT demonstration(スウェーデン):水素を利用した製鉄プロセスにおけるカーボン排出量削減に向けた実証。
  • SHARC(フィンランド):製油所でのグリーン及びブルー水素の製造の実証。

欧州委員会は、大規模プロジェクトの第2回公募(総予算15億ユーロ)を既に10月26日に開始している(2022年3月3日に締め切り)。公募結果は2022年第3四半期に発表される予定となっている。

 

小規模プロジェクト[5]
第1回公募(総予算1億ユーロ)に選出された32の小規模プロジェクトには、水素やバイオ燃料、エネルギー貯蔵、太陽光発電などの分野における実証プロジェクトが含まれる。その中から、一部を以下に抜粋する。

  • W4Wプロジェクト(スペイン):革新的低温コンデンサーとメタン回収モジュール技術を組み合わせた埋立地ガス(空気を10%以上含む)からのバイオメタン製造。
  • DrossOne V2G Parking(イタリア):メーカーの駐車場に保管されている出荷前のEVと使用済みバッテリーを集めた定置用蓄電システムを利用した大規模なV2Gシステムの実証。
  • MaxAir(フランス):PVモジュール製造ラインの自動化および材料改良やプロセスの最適化。
  • ZE PAK green H2(ポーランド):エネルギー効率が従来から5%改善された水分解スタックを使用したグリーン水素製造に向けたパイロット水分解システムの設置。
  • TFFFTP(スウェーデン):紙の乾燥に木くずから生成したバイオ合成ガスを使用した、製紙プロセスの脱炭素化(これまでは化石燃料由来の天然ガスを使用)

欧州委員会は、小規模プロジェクトの第2回公募(総予算1億ユーロ)を2022年3月15日に開始する予定としている(8月末締め切り)。公募結果の発表は2023年第1四半期に予定されている。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 欧州委員会プレスリリースhttps://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_19_1381
欧州委員会イノベーション基金ページ
https://ec.europa.eu/clima/eu-action/funding-climate-action/innovation-fund/policy-development_en
[2] EU ETSは、域内の対象企業や施設に排出量上限(キャップ)を割り当て、その過不足分を市場で取引する制度であり、対象企業や施設は、排出量相当の排出枠をオークションで調達する。
[3] 欧州委員会、大規模プロジェクトページ
https://ec.europa.eu/clima/eu-action/funding-climate-action/innovation-fund/large-scale-projects_en
[4] ヘテロ接合型ソーラーパネルは、異なる性質のシリコンを接合した技術を用いており、従来型のものよりエネルギー変換効率が良く、一日の発電量が多いなどのメリットがある。
[5] 欧州委員会、小規模プロジェクトページ
https://ec.europa.eu/clima/eu-action/funding-climate-action/innovation-fund/small-scale-projects_en

 

市原 里江 (LRIコンサルタント ブリュッセル)
関連サイト
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