循環型社会へのイニシアチブ

サステナビリティへの挑戦:ケンブリッジ大学シリーズ(2の3) LRI Energy & Carbon Newsletterから

「もったいない(mottainai)」―「こんな素晴らしい言葉をもつ日本で、プラスチックの使い捨ては、まだ『もったいない』と思われていない」。このように、ケンブリッジ大学のサーキュラープラスチックセンターの人類学者、ブリジット・スタガー博士は語る[1]。スタガー博士の属するチームは、同センターで、個人や自治体による循環型社会を目指す試みの研究を行っている。サーキュラープラスチックセンターは、ケンブリッジ大学におけるプラスチックの循環サイクル構築技術の研究を率いる、分野横断型研究所である。スタガー博士と同じチームに属する経済学専攻のサウファ博士は、日本の各自治体における、あのかくも複雑なゴミ分別ルールを引き合いに出し、これほどまでに複雑な分別ルールをしっかりと守る、日本の一般市民のルール遵守感覚の高さを驚きの念と共に紹介している[2]。両博士が示唆するように、他国ではあまりみられない、日本社会のルール遵守感覚の高さは、循環型社会という新しい価値観と結びついたとき、世界をリードするモデル社会へと変容する可能性を秘めている。

 

今回は、ケンブリッジ大学のサステナビリティシリーズの第二回目として、サーキュラリティ(循環性)に焦点を当てた、同大学の研究所における研究をご紹介したい。サーキュラリティに焦点を当てた研究所として、ケンブリッジ大学では、特に、スタガー博士らの所属するサーキュラープラスチックセンター(CirPlas)、およびサーキュラーエコノミーセンターが注目に値する。このうち、サーキュラープラスチックセンターは、近い将来企業が取り入れることのできるプラスティックの再生技術に力を入れている。他方、サーキュラーエコノミーセンターは、プラスティックの再生を含む、全ての循環型志向のビジネスモデルについての研究に焦点を当てた研究をおこなっている。両研究所の取り組みは、企業が応用可能な技術および戦略に関して世界をリードする研究であることから、日本の企業が将来的な投資や、中長期的ビジネス戦略を構築する際の何らかの参考になるかもしれない。

 

サーキュラープラスチックセンターが率いる研究プロジェクトの一つに、光触媒を用いた、使用済みプラスチックの、水素への変換技術がある。水素ガスが温室効果を生み出さない点や、太陽光を利用した技術であることから、プラスチックを燃やした時のように有毒ガスを発生させることがないという点などから、同技術は欧州で特に注目を集めている。

 

また、同サーキュラープラスチックセンターは、UKサーキュラープラスチック・ネットワークと協働することによって、企業とのコラボレーションも進めている。UKサーキュラープラスチック・ネットワークは、企業が大学と協働することのできるプラットフォームであり、さまざまなプラスチックの利用法やプラスチック廃棄量の削減方法を共有するためのイベントを開催している[3]。同ネットワーク上では、ケンブリッジ大学に限らず、アカデミックなフィールドと産業のフィールドのコラボレーションが進んでいる。例えば、gomiプロジェクトは、ポリマーサイエンスとのコラボレーションで、これまでリサイクルされてこなかった種類のプラスチック(緩衝材など)を再利用して、大理石のような審美性の高いマーブルパターンをもったソープディッシュやスピーカーなどを作っている。現在gomiオンラインサイトでは、ワイヤレスチャージャー、スピーカー、そしてポータブルチャージャーを購入することができる[4]。

 

これに対し、ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネス・スクールの傘下にあるサーキュラーエコノミーセンターでは[5]、いかに循環型モデルをビジネスに取り入れるかという、ビジネス戦略面にまでフォーカスした研究を行っている[6]。循環型モデルをビジネスに取り入れるということは、単に、再生済みプラスチックをパッケージに用いたり、パッケージを簡素化したりすることを意味するだけではない。同研究所は、むしろ、いかにさまざまな種類の無駄を削減し、その削減を利益に変えていくか、という包括的なビジネスモデルの詳細を提案する。ここでいう「無駄」は例えば、コロナ以降増加しているオフィスの未使用スペース、駐車場の未使用スペースも含まれる。企業がこういった「無駄」にくまなくアプローチし、循環型モデルをビジネスに取り入れるには、企業内の変容だけでは足りず、他人の行動を変容させる必要があることがほとんどである。この「他人」には、自社の社員だけでなく、サプライチェーンの行動や、消費者の行動まで含まれることが多い。これらの「他人」にアプローチし、行動を変容させることは、企業が循環型モデルをビジネスに取り入れる際に、一番の障壁となるという。同研究所は、いかに効果的にサプライヤーや消費者の行動変容を促すかという問題に意欲的にアプローチする。

 

以上お伝えした、ケンブリッジ大学のサーキュラリティに焦点を当てた二つの研究所の研究は、使用済みプラスチックの再生技術だけでなく、ビジネスモデルとして、いかに無駄を削減し、そこから新たな利益を生み出していくかに関して、新たな着眼点を提供している。日本企業の新たなアイディアや発想転換が、さらに日本特有の高いルール遵守性と結びついたとき、日本企業が、世界をリードするビジネスモデルを提供することが可能になるかもしれない。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy & Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] https://www.cam.ac.uk/stories/plastic
[2] Ibid.
[3] https://www.ukcpn.co.uk/about/
[4] https://www.gomi.design
[5] https://www.jbs.cam.ac.uk/faculty-research/centres/circular-economy/
[6] https://vimeo.com/300975585

西貝 小名都
関連サイト
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