ドイツの大型トラック架線システム「eHighway」実証プロジェクト

路上貨物輸送の大幅排出削減への貢献に期待(LRI Energy & Carbon Newsletterから)

ドイツでは近年、路上貨物輸送の排出削減に架線トラック(Oberleitungs Lastkraftwagen =O-Lkw)が大きく貢献するとの見方が強まっている。電車やトロリーバスで実証済みの架線給電技術を採用し、電力そのものを直接利用して走行しながら車載バッテリーを充電できるため、生産から貯蔵、輸送のサプライチェーン全体で多くのエネルギーを必要とする燃料電池や排出ニュートラルの合成燃料(e-Fuel)より排出削減効果が大きいソリューションである。連邦環境・自然保護・原子力安全省の助成を受け、3つの州で現在、大型トラック架線システム「eHighway」[1]の実証試験が行われている。その発端となったのは、環境問題識者委員会による2012年環境監査報告書(Umweltgutachten2012)[2]である。処理量が年々増加する貨物輸送分野の大幅排出削減は路上から鉄道に大きく比重をシフトするだけでは実現できないと明言し、「道路交通の電化」ソリューションとして架線トラックの包括的な実地検証を政府に求めたのである。

「eHighway」コンセプトの実地検証プロジェクト[3]は、2014年に政府が採択した2020年気候保護((Klimaschutz 2020)のための行動プログラムに基づくものである。技術性能、排出削減効果、運用上の経済性、環境や交通状況への影響など多角的な観点からデータを集め、学術機関が中心となり統合的な検証に取り組む。架線技術で100年以上の経験を持つSiemens Mobilityがインフラを整備し、Volkswagenグループの商用車ブランドScaniaがディーゼルエンジンとバッテリーを搭載したハイブリッド・トレーラートラック「R450」(出力:ディーゼルエンジン450PS、電気モーター177PS)を供給している。センサーの架線感知サインを受けてドライバーがパンタグラフを作動させ、架線区間の終了や車線変更した場合にはバッテリー駆動あるいは内燃エンジンに自動的に切り替わる仕組みである。DC670Vの低電圧で稼働するため、安全上の問題はないとしている。実証試験では、運送会社による日常的な配送業務での走行を通してシステムとしての機能性と信頼性を確認するとともに、運送業務の稼働に関わる評価を行う。さらには新たな物流コンセプト、eHighwayの運営モデルや料金徴収システムの開発にも取り組む。

 

ヘッセン州(国内中部)プロジェクト:ELlSA
アウトバーンA5のFrankfurt-Darmstadt間の上下線各5㎞区間にインフラを整備し、2019年5月にドイツ初の実証テストを開始した。欧州有数の物流交通の密集ルートという条件下での稼働の安定性についても検証する。政府助成金はインフラ1,460万ユーロ、実証試験1,530万ユーロ。走行充電に関するデータを集めるため、新たに1,200万ユーロの助成金を得て現在、試験区間の7㎞延長工事を行っている。2022年末まで実施。

シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州(国内北部)プロジェクト:FESH
アウトバーンA1のLubeck-Reinfeld間の上下線各5km区間にインフラを整備し、2019年末に試験を開始した。政府助成金は2,600万ユーロ。2022年末まで実施。

バーデン=ビュルテンベルク州(国内南部)プロジェクト: eWayBW
国道B462のKuppenheim-Gernsbach-Obertsrot区間18kmの2地点にインフラを整備し、今年3月に試験を開始した。アウトバーンではなくカーブの多い山間部の国道での検証となる。ここではDaimler Benzのフル電動トラック「eActros」、Ivecoの燃料電池トラック「Nicola TRE」との技術比較調査も行われる。総投資額2,800万ユーロのうち、政府が2,640万ユーロを助成する。2024年春まで実施。

 

eHighwayシステムの導入は、実証プロジェクトの結果に基づいて2024年に政治決定される予定である。気象変動が近年加速し、排出削減努力を一層強化しなければならないという共通認識のもと、これを支持する声は多い。ドイツ産業連盟(BDI)の委託による排出ニュートラル実現に向けた調査書[4]によると、「大型トラックの大半を電化するには現時点(2018年)では架線トラックが唯一現実的」である。アウトバーン全長約1万3,000kmのうち貨物交通が集中する約4,000㎞区間のインフラ投資が必要だが、最もコスト効率の良い排出削減策だとしている。応用エコロジー研究所のOkotestやハイデルベルク・エネルギー環境研究所(ifeu)も同様にeHighwayの排出削減効果を大きく評価している[5]。投資コストは、Okotestが4,000kmの整備に102~122億ユーロ、ifeuが3,200kmの整備に約70億ユーロと試算している。

eHighwayコンセプト開発に携わったSiemensは、Scaniaとの提携でスウェーデンでも2016年半ばから2年間、高速道路での試験プロジェクトを行った。現地政府は今年、実務レベルでの実証テストを行うかどうか判断すると見られる。イタリア北部のロンバルディア州でも地元自治体とともに実証プロジェクトを立ち上げている。Siemensによると、フランスやデンマークなど欧州に加え、カナダでも関心が高まりつつある。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] Bundesministerium für Umwelt (BMU) Fragen und Antworten zu eHighway
https://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Verkehr/faq_ehighway_bf.pdf
[2] Sachverstäntigenrat für Umweltfragen (SRU) Umweltgutachten 2012
eHighway SH
eWayBW
https://ewaybw.de/
[4] Klimapfade für Deutschland
https://bdi.eu/publikation/news/klimapfade-fuer-deutschland/
[5] Studie StratON-Bewertung und Einführungsstrategien für oberleitungsgebundene schwere Nutzfahrzeuge(2020年2月発行)
Roadmap für die Einführung eines Oberleitungs-Lkw-Systems in Deutschland (2020年7月発行)
宮本弘美 (LRIコンサルタント、フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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