Bosch、小型SOFC(固体酸化物形燃料電池)発電システムを新ビジネスに

2024年の量産開始を目指し実証試験開始 (LRI Energy & Carbon Newsletterから)

自動車・産業機器テクノロジーサプライヤー大手のBoschは、排出ニュートラルの時代に向けて自社製品・サービスの刷新にどのように取り組んでいるのだろう。自動車部品市場の世界大手としては当然であるが、ハイブリッド車を含めた電気自動車(Electric Vehicle)の駆動系でマーケットリーダーを目指すとともに、燃料電池車(Fuel Cell Vehicle)用セルスタックの商品化も急いでいる[1]。一方、エネルギー・ビルディング事業部門では、排出削減への要求が近年非常に高まっていることから、とりわけ発電関連事業を重要課題と位置付けている。固体酸化物形燃料電池(SOFC=Solid Oxide Fuel Cell)を採用した据え置き型の小型発電システムは、同社にとってこの分野の成長ビジネス有力候補であろう。排出ニュートラル社会に向け、発電効率が非常に高いSOFC発電システムがエネルギー供給安全化に大きく貢献すると見ている[2]。

 

SOFC発電システムの開発にあたり、Boschは2018年夏、SOFCソリューションの英Cares Powerと技術提携した[3]。同社開発のプロトタイプをもとに、社内のCorporate Research、Powertrain Solutions、Thermotechnologyが部門を超えて高性能の量産向けモデルを開発し、2019年秋に試験製造を開始した。酸素イオン導電性を持つ固体電解質(セラミックス)を使用したSOFC発電システムは高温で稼動するため廃熱を利用できるため、いわゆるコージェネレーション(CHP)システムとしての利点もある。発電効率が60%以上と一般的な小型CHPシステムに比べ非常に高く、熱供給を合わせた総合効率は85%以上である。燃料は天然ガス、バイオガスのほか、水素にも対応している。天然ガスを使用した場合のCO2排出量は国内エネルギーミックス(2020年の再生可能エネルギー比率は暫定値で約45%)より40%低く、グリーン水素が普及すれば排出ゼロで発電できる。

 

Boschは電池セルとセルスタックなどの自社バリューチェーンを備えたSOFC発電システム総合プロバイダーを目指し、現在約250人体制で事業構築に向け取り組んでいる。工場、商業・事業施設、データセンター、あるいは人口増加により電力需要が高まる市街地区の独立発電設備として、また充電システムの電源としての需要を見込んでいる。また、クラウドでネットワーク化してシステム間の電力需給を調整するバーチャルパワープラントとして使うこともできる。Boschは2030年までにSOFC発電システムの市場規模が200億ユーロに拡大すると推定する。エネルギー事業のヴェルナウ(Wernau、暖房用コンポーネント)工場、自動車事業のバンベルク(Bamberg、内燃エンジン用部品)工場とホンブルク(Homburg、ディーゼルエンジン用コモンレール)工場を生産拠点とし、2024年の量産開始を予定する。年間生産能力約200MWの生産体制を目指し、1億ユーロ超の投資を計画している[4]。

 

SOFC事業拠点となる3都市を含め国内5カ所で現在、システム(写真)の実証試験が行われている。バンベルクでは市営公益サービス会社、Stadtwerke Bamberg(STWB)との提携で市内の中央バスステーションにSOFC発電システム(発電能力10kWで4人家族20所帯分相当、高さ約2メートル)を設置し、パイロットプロジェクト[5]を実施している。燃料をガス系統から取り込み、ステーション内のパン屋に主に電力を供給し、余剰電力は電力系統に送電する仕組みである。搭載された20のセンサーが採取した稼働状態などのデータをBoschのIoTクラウドに取り込み、システムの改良に役立てている。

 

STWBは電力サービス業者の立場から、市街地や新開地区のエネルギーピークなどに柔軟に対応できる持続可能なソリューションとしてSOFC発電システムに期待している。都市ガスインフラを利用した発電システムをネットワーク化することで、電力系統の負担を軽減できる可能性があることも大きな魅力である。バンベルクでは20ヘクタールの米軍基地跡地を利用した新開地プロジェクト「Lagarde Campus」で、第2段階となる東部地区にSOFC発電システムを導入することを検討している。約2,400人用の住宅、事業・サービス施設、文化・社会施設へのエネルギー供給の最善方法について、この実証試験から多くの経験を集める考えである。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] スウェーデンのスタートアップ企業、PowerCellとの共同開発による燃料電池スタックを、2022年から生産を開始する予定である。水素満タン状態で航続距離500km超を実現するという。
[2] Bosch HP SOFC System

[3] 提携時に資本参加し資本シェアを4%確保し、2020年1月に追加出資して17.75%に引き上げた。
[4] 2020年12月6日づけBoschプレスリリース
[5] 2021年3月21日づけStadtwerke Bambergプレスリリース

宮本弘美 (LRIコンサルタント、フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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