原子力発電の未来

LRI Energy & Carbon Newsletterから

脱炭素への動きが期待するほど加速しない中、脱炭素実現のためには、原子力発電は必要であると言う意見は、欧州においても勢いを増している。昨年末のCOP28では欧州の国々を含めた22か国と120の企業が、原子力発電能力を2050年までに現在の3倍にする努力をするという声明に調印した。

課題は誰が融資するかということである。福島原発事故の余韻が残っているのみならず、最近の原発建設はコストオーバーラン、タイムオーバーランがますます深刻になっており、リスクが高すぎるとみられている。多国間金融機関である世界銀行、アジア開発銀行、そして2000年以降、8件の原発案件の融資をしてきた欧州開発銀行でさえ、融資に消極的であると言われている。欧州開発銀行は、融資決定の際に全出資国の同意を必要とするが、特にドイツとオーストリアが原発融資に否定的である。しかしながら、一般の人々の原子力発電への支持が更に増せば、状況が変化する可能性があるともみられている[1]。

そのような中、今年の9月には以下の金融機関が原発建設のための支援を増やすという共同宣言に署名をした。

Abu Dhabi Commercial Bank, Ares Management, Bank of America, Barclays, BNP Paribas, Brookfield, Citi, Credit Agricole CIB, Goldman Sachs, Guggenheim Securities, Morgan Stanley, Rothschild & Co., Segra Capital Management and Société Generale

従来の大型原子炉の原発はリスクが高過ぎるという声が強い中、小規模な原子炉(small modular reactor(SMR))への期待が高まっている。この動きを見て最初に動いた国が、世界で最初に原発を建設した英国である。英国政府は所有していたBritish Nuclear Fuels Ltd を昨年、復活させ、今年の3月にそれを正式にGreat British Nuclear(GBN)と改名した。GBNは Department for Energy Security and Net Zero (DESNZ)をスポンサーとする独立行政法人(arm’s-length body)で、政府の長期原子力計画を実行に移し、2050年までに24GW の原子力発電能力をもつという政府の大志を支援することを目的としている[2]。GBNのたちまちの狙いは、市場で開発中のSMRテクノロジーの中から最も良いものを選定し、共同出資で開発し、そのサプライチェーンを国内に整備することである。

その選定は今年4月から開始され、現在、4社のテクノロジーがショートリストに残っている。それらは以下の通りである。最初の1社以外は全て米国本社の企業である。

  • Rolls-Royce SMR
  • GE-Hitachi Nuclear Energy International LLC, BWRX-300
  • Holtec Britain Limited, SMR-160
  • Westinghouse Electric Company UK Limited, AP300 SMR

これから各社との交渉が始まる。建設地として、日立が所有している2つの原発サイトを購入することが決まっている。

今年の10月には米国政府もSMRの国内での開発を目的とした最大9億ドルの支援の応募の受付を発表した[3]。そして電力消費者としてのアマゾンがEnergy Northwest、X-energy、Dominion EnergyとSMRの開発で契約を結んだことを発表した[4]。

SMRに関してはデザインがシンプルであるとか、大部分は工場でつくることができるから安いとか、より安全だとか言われるが、まだ一つも製造されたことはない、未知のテクノロジーである。既にわかっていることは、コストが高いと言うことである。米国のエネルギー省の資料によると、大規模原子炉(1400MW)プロジェクトの平均コストは120億ドルである一方、SMR (300MW) プロジェクトは40億ドルと安いが、kW単価はそれぞれ8,500ドルそして13,000ドルと、SMRがはるかに高い[5]。

原子力発電は大型であろうがSMRであろうが、水素が安くなった時に、水素炊き発電を長期間のバックアップとした再エネ電力にコスト的に勝てないであろう。よって、SMRは早期に商業生産できるようにならないと、商業的には失敗に終わる可能性があると思われる。GBNの最終投資決定(FID)は2029年の見込みである。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] https://www.adaptinstitute.org/nuclear-as-a-green-solution-international-banks-are-still-reluctant-to-invest-in-new-projects/03/04/2024/
[2] https://www.gov.uk/government/organisations/great-british-nuclear
[3] https://www.reuters.com/sustainability/climate-energy/us-opens-applications-900-million-small-nuclear-reactors-2024-10-16/
[4] https://www.aboutamazon.com/news/sustainability/amazon-nuclear-small-modular-reactor-net-carbon-zero
[5] https://liftoff.energy.gov/advanced-nuclear/

津村 照彦(LRI会長)
関連サイト
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