ドイツ、新助成プログラムでエネルギー集約型企業の脱炭素化プロジェクトの支援を強化

LRI Energy & Carbon Newsletterから

2045年の排出ニュートラルを目指すドイツは、国家気侯政策の柱である気侯保護法(Klimaschutzgesetz)を通して、温暖化ガス排出量を2030年までに1990年比で最低65%削減することを自ら義務付けている。連邦環境庁(Bundesumweltamt)によると、2023年の温暖化ガス排出量はCO2換算で5億7,700万トン(土地利用・土地利用変化・林業を除く)に上り、1990年度比で46.1%削減した。石化燃料燃焼による排出量(全体の85%)は46%減、工業プロセス(同約7%)では50%近く削減した[1]。同庁は現時点で2030年に約64%削減が可能と予測している。実際、再生可能エネルギー電力の利用拡大は産業全体で進んでいるが、エネルギー集約型の製造業[2]では最大の排出源となっている生産工程を脱炭素化する方法が技術的に確立していない、あるいはその経済性が非常に悪いなどで脱炭素への転換が遅れている。このため、経済気侯保護省(BMWK)が新たな助成プログラムを打ち出し、この問題へのテコ入れに動きだした。

CCfDコンセプトによる気侯保護契約(Klimaschutzvertrag)[3]
BMWKが新たに導入したエネルギー集約型企業を対象にした気侯保護契約は、CCfD (Carbon Contract for Difference)コンセプト[4]に基づき、大幅排出削減につながる新技術導入や施設整備などへの刷新投資プロジェクトに対し、投資・運転コストの負担増部分を国が助成する仕組みで、将来の水素価格変動など投資リスクをめぐる企業の不安を取り除く狙いがある。助成対象プロジェクトは、新技術・設備の導入により15年の助成期間が終わるまでに現状から90%排出削減できること、新プラントの年間排出量がCO2換算で1万トン未満であることなどの条件を満たさなければならない。3月に公示され7月末に締め切られた第1回入札には水素関連を中心に20のプロジェクトが集まり、助成対象総額は予算の40億ユーロを大幅に上回った。1社あたりの助成上限額は10億ユーロで、現在助成プロジェクトの選考中である。年末に予定する第2回目の入札では、新しい国家カーボンマネジメント戦略のCO2回収利用貯留(CCU/CCS)推進方針を受け、同プロジェクトに重点が置かれる。前回と同様、入札に関心のある企業への事前コール[5]も始まっている。同プログラムへの予算は数年間で400億ユーロを見込む。

中小企業向け新助成プログラム(BIK)[6]
BMWKは、上記の気候保護契約を補完する位置付けで、今年新たに「産業・気侯保護のための国家助成(Bundesförderung Industrie und Klimaschutz=BIK」プログラムを立ち上げた。投資リスクが大きく資金調達が容易ではない、特に製造分野の中小企業の支援を強化する。9月に第1回のプロジェクト募集を開始し、総予算約33億ユーロで2030年まで毎年実施する計画である。昨年まで実施されていた産業の脱炭素化プログラム(Dekarbonisierung in der Industrie)は、現時点では技術的にCO2排出を避けられないエネルギー集約型産業の製造工程で、大規模かつ持続的に排出削減する取り組みを助成してきた。例えば、ガラス製造Schottのアルミノ珪酸塩ガラスをほぼ排出ゼロで溶融するパイロットプラント、建材大手Heidelberg Materialsのアミン吸収法による商業規模のCO2回収プラント、化学BASFによるスチームクラッカー電気加熱式炉のデモプラントなど、2021~23年の3年間で29のプロジェクトに総額約5億7,800万ユーロの助成金を供与した。BIK 助成プログラムはこの後継として位置付けられ、特に刷新的な中小企業が行う排出ニュートラル転換プロジェクトを対象とする。以下の2つのアプローチ分野で助成を行う。

1.排出削減プロジェクト
投資あるいはリサーチプロジェクトを通して製造工程での最低40%CO2削減を図るプロジェクトで、ドイツ国内で実施するものを助成する。全ての鉱工業分野の企業が対象だが、特にエネルギー集約型の原料製造業を助成する。1社あたりの助成額の上限は2億ユーロ。

2.CCU/CCSプロジェクト
CO2排出を防ぐことができない産業プロセスでのCCU/CCSに関わる投資・刷新プロジェクトを助成する。第1回は石灰・セメント製造と廃棄物処理分野に絞り、投資規模が3,000万ユーロ以下、産業研究プロジェクトの場合は3,500万ユーロ以下のプロジェクトを助成対象とする。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] Umweltbundesamt 2024年5月6日付プレスリリース https://www.umweltbundesamt.de/daten/klima/treibhausgas-emissionen-in-deutschland#emissionsentwicklung 
[2]化学、鉄鋼、ガラス、セラミックス、セメント、紙パルプなど生産工程のエネルギーコストが高い素材産業
[3] BMWK 2024年3月28日付プレスリリース
https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Schlaglichter-der-Wirtschaftspolitik/2024/04/03-transformationsschub-fuer-die-industrie.html
BMWK 2024年7月29日付プレスリリース https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Pressemitteilungen/2024/07/20240729-vorverfahren-fuer-zweite-gebotsrunde-fuer-klimaschutzvertraege.html
[4] 生産工程の大幅排出削減を図った企業に対し、排出削減コスト(設備投資など)と排出コスト(排出削減しなかった場合の排出権購入コスト)の差を国が補助する。
[5] 入札手続きが効果的、また助成ニーズを十分考慮して行われるよう事前に情報収集するのが目的。コールへの参加が入札参加資格となり、プロジェクト情報などの提出が必要となる。
[6] BMWK 2024年8月28日付プレスリリース https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Pressemitteilungen/2024/08/20240823-neue-foerderrichtlinie-dekarbonisierung-mittelstand.html

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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