文部科学省は3月、「第3期スポーツ基本計画」を発表した。スポーツ市場の規模を2025年までに15兆円に拡大する具体的施策の一つとして、スタジアム・アリーナ整備における民間の活用を盛り込んでいる。
4月27日に開催された経済財政諮問会議では、有識者グループがPPP/PFIの抜本的拡充について提言し、スタジアム・アリーナ、博物館・美術館などでの活用を促した。この席で末松信介文部科学大臣は、スポーツ基本計画の推進やスタジアム・アリーナ改革の成果を踏まえたコンセッション導入促進を言明した。
そんななか、等々力緑地再編整備・運営と国立競技場運営の二つのプロジェクトが事業化に向けて進行中だ。
予定価格577億円、期間30年間の巨大事業
まず、川崎市が4月に入札を公告した等々力緑地の事業について、概要を簡単に振り返っておこう。等々力緑地は、陸上競技場や球場、広場、市民ミュージアムなどの施設を含む広大な都市公園だ。陸上競技場は、サッカーJリーグの川崎フロンターレのホームスタジアムとして知られている。この公園をPFI手法で再整備し、民間事業者に運営を委託する。
維持管理運営業務は市が指定管理者を指定する。このうち、球技専用スタジアム、アリーナ、駐車場の3施設はコンセッション方式を導入して運営権を設定する。運営権の対象施設は利用料金収入で維持管理を賄う。事業者には運営権対価の支払いを求めないものの、対価相当額を各年度のサービス対価から減じる想定だ。計画以上の利益が出た場合、当事者間で分配するプロフィットシェアも導入する。事業期間は2053年3月までの30年間、予定価格は約577億円。市は6月に参加表明の受付を締め切り、10月に落札者を決める。
この事業に関しては、2019年に東京急行電鉄(現、東急)が緑地全体を一体運営する提案を市に提出した経緯がある。PFI法は、民間側から公共施設の管理者に対してPFI事業の実施を提案できる制度を設けている。提案を受けた管理者は、事業化を検討しなければならない決まりだ。東急はこの制度を利用した。そして、この提案も一つのきっかけとなって、巨大なPFI事業が動き出した。
東急以外のチャレンジャーが現れるか
では、等々力のPFI事業において提案者はどう扱われるか。市が公表した資料によると、入札条件をクリアした候補者の中から、有識者を交えた選定部会が総合評価点によって最優秀提案者を選び、落札者を決定する手順だ。総合評価点の配点は1100点。性能評価点800点、価格評価点200点、民間提案による加点100点の合計だ。この加点部分が、提案者である東急のアドバンテージである。
総合評価点1100点のうちの100点は約9%。これを大きいと見るか小さいと見るかは議論の分かれるところだ。時間と労力をかけて最初に提案した者は、小さいと考えるだろう。ほかの候補者は大きな差と捉えるに違いない。
一般的には、多数の候補者が競った方が提案の魅力度は増す。それは、提案を受ける市にとってメリットのあることだ。元の提案者である東急が優位に立つ中で、東急以外のチャレンジャーが後発の不利を承知のうえで名乗りを上げるか。それとも、大方の予想通り東急が落札者となるか。この事業の当面の見どころである。(次回に続く)