地方道路公社の収益性と償還状況――2019年度決算

損益計算書と貸借対照表を分析

地方道路公社の2019年度の決算書(損益計算書、貸借対照表)から、各公社の収益状況や償還状況を整理した。その結果、道路資産に対する実質的な利益率が高いのは千葉県、鹿児島県、宮城県、静岡県、長崎県(上位の常連だった北九州市は2019年7月に解散)。利益率が低いのは栃木県(損失)、福井県、兵庫県、大阪府、神奈川県だった。2019年度の収支レベルを前提として、あと何年で道路が無料開放できるかの目安を示す償還倍率(償還残余年数)が大きいのは、栃木県、福井県、神奈川県、大阪府、兵庫県だった。栃木県は利益率がマイナス(損失)のため、償還倍率は算出不能(∞)となっている。逆に、滋賀県、宮崎県、鹿児島県、宮城県は償還倍率がマイナス(償還が実質的に完了)となっている。

 

道路整備特別措置法に基づく道路の場合、損益計算書における「当期利益」(収支差益)は「償還準備金繰入額」に計上される。毎年度の「償還準備金繰入額」を積み立てたものが貸借対照表における「償還準備金」であり、道路資産の建設に投下した借入金の返済に充てた額の累計である。従って、事業資産の道路価格と償還準備金が同額になったとき、あるいは料金徴収期間が満了したときのいずれか早い時期に道路は無料開放となる。

 

また、「道路事業損失補填引当金」は、災害や経済事情の変動など、将来事情の不可測性によって生じた未償還額を、同じ事業主体の他の道路によって積み立てられた内部留保金によって補填するために引き当てるものである。貸借対照表に、各年度の道路等の料金徴収額に一定比率を乗じて得た「道路事業損失補填引当金繰入額」の累計額が計上されている。従って、災害等による料金収入の不足分を道路事業損失補填引当金から充当することができる。料金徴収期間満了時に利用交通量が計画交通量未満の場合も、道路事業損失補填引当金を償還準備金に充当できる。

 

各道路公社の公表データ(2019年度)から、事業資産の道路価格(A)、償還準備金(B)、道路事業損失補填引当金(B’)、償還準備金繰入額(C)、道路事業損失補填引当金繰入額(C’)、及び、償還準備金だけに着目した償還倍率(D=(A-B)/C)、償還準備金と道路事業損失補填引当金の合計に着目した償還倍率(D’=(A-B-B’)/(C+C’))、償還準備金繰入額だけに着目した道路資産利益率(E=C/A)、償還準備金繰入額と道路事業損失補填引当金繰入額の合計に着目した道路資産利益率(E’= (C+C’)/A)を一覧表に整理した。

 

■地方道路公社の償還・収益状況(2019年度)

(出所)各道路公社の公表データを基に作成

 

道路資産利益率の上位は千葉、鹿児島、宮城、下位は栃木、福井、兵庫

表中の「道路資産利益率」は、<償還準備金繰入額(または、償還準備金繰入額+道路事業損失補填引当金繰入額)÷事業資産道路価格>で表され、当該年度における道路資産の稼ぐ力を示す。このうち、償還準備金繰入額と道路事業損失補填引当金繰入額の合計に着目した道路資産利益率が5%以上の道路公社(青色)は、千葉県(6.70%)と鹿児島県(6.67%)。道路資産利益率が1.0%以下の下位の道路公社(赤色)は、栃木県(-1.01%)、福井県(0.86%)、兵庫県(0.91%)の3法人となっている。

 

■2016~19年度の道路資産利益率ランキング上位(上)、下位(下)

(出所)各道路公社の公表データを基に作成

 

償還残余年数が多いのは栃木、福井、神奈川。滋賀、宮崎、鹿児島、宮城は実質償還済み

「償還倍率」は、「{事業資産・道路価格-償還準備金(または、償還準備金+道路事業損失補填引当金)}÷道路償還準備金繰入額(または、償還準備金繰入額+道路事業損失補填引当金繰入額)」で表され、償還準備金と道路事業損失補填引当金の合計に着目した償還倍率が50倍(償還残余年数が50年相当)を超過している道路公社(赤色)は、栃木県(∞)、福井県(57.9倍)、神奈川県(56.6倍)、大阪府(52.9倍)の4法人。当該法人は所要の償還年数が相対的に大きいことが示されている。一方、滋賀県、宮崎県、鹿児島県、宮城県は、(償還準備金+道路事業損失補填引当金)が既に事業資産・道路価格を上回っている。

 

償還残余年数が大きい大阪府道路公社は、2018年4月に堺泉北有料道路と南阪奈有料道路をNEXCO西日本に移管したのに続き、2019年4月には第二阪奈有料道路を同社に移管した結果、2019年5月(令和元年度)からは鳥飼仁和寺大橋有料道路と箕面有料道路の2路線を管理運営している。一方、滋賀県、宮崎県、鹿児島県、宮城県は、「償還準備金+道路事業損失補填引当金」が既に事業資産・道路価格を上回っている。

 

■ 2016~19年度の償還倍率ランキング上位(上)、下位(下)

(*)2019年度の栃木県は償還準備金繰入額がマイナスのため、算出式の分母もマイナスになる (出所)各道路公社の公表資料を基に作成

 

道路資産利益率と償還倍率に相関

以上、各年度に個別事情があることも想定されるため、数字だけでは判断できない面もあるが、道路資産利益率(償還準備金とその繰入額、道路事業損失引当金とその繰入額を考慮)と償還倍率の相関を取ると、相関係数はR=0.719で正の相関があることが分かる。例えば、道路資産利益率が高いほど、償還倍率(償還残余年数)は小さくなっており、経営健全性の一端をうかがうことができる。

 

■ 道路資産利益率と償還倍率の相関

(注)道路資産利益率(償還準備金とその繰入額、道路事業損失引当金とその繰入額を考慮)と償還倍率の相関を示す。相関係数はR2=0.719で正の相関がある(ただし、大きく外れている栃木県、滋賀県のデータは除外)

 

償還率と償還倍率の相関

最後に、2019年度末における償還率(償還準備金と道路事業損失補填引当金の合算値の道路資産価格に対する比率)と、過去3年(2017~19年度)の償還準備金と道路事業損失補填引当金の合算値(実質的な利益)の平均実績を基にした償還倍率(償還残余年数)の関係を示した。相関係数はR2=0.666で正の相関がある(ただし、大きく外れている栃木県、滋賀県のデータは除外)。

 

図表から、滋賀県(図表からは除外)、鹿児島県、宮城県、宮崎県は償還率が100%を超えているのに対して、福井県、兵庫県、神奈川県などは、各道路公社の平均的な状況を示す相関曲線から償還倍率の乖離が大きく、償還が相対的に厳しいと言える。栃木県(図表から除外)も2019年度は赤字だったように、償還は厳しい状況だ。

 

■ 償還率と償還倍率の相関(2017~19年度の平均実績)

(注)償還率と償還倍率の相関を示す。相関係数はR2=0.666で正の相関がある(ただし、大きく外れている栃木県、滋賀県のデータは除外)

 

コンセッション譲渡の愛知県は順調に償還中

ここで、愛知県道路公社の状況について分析する。同公社では2016年10月1日に8路線にわたる5コンセッション(運営権)を民間企事業者に譲渡したことによって、2016年度に運営権者から運営権対価収入(一時金:約260億円、分割金:約20億円)を得ている。2017年度からの運営権対価収入は分割金(約40億円)関連で、料金収入は皆減となっている。両年度の収入や管理費の増減によって、償還準備金繰入額も大きく変動している。償還準備金については、2016年度に大きく計画値を上回って以降、順調に推移している。

 

なお、2019年度から、運営権者とのリスク負担に関する公社帰属額の受け入れを可視化するため、「運営権関連調整益」を新設している。運営権道路の計画交通量に対して、「6%を上回った分の交通量による売上高、6%を下回った分の交通量による損失額は公社に帰属する」という規定によって、2019年度は7億4700万円余りが公社の収入になっている。

 

■愛知県道路公社の損益計算書における主科目の推移 (単位:千円)

(出所):愛知県道路公社

 

■愛知県道路公社の償還準備金の推移

(注)2016年度(平成28年度)に運営権対価の一時金収入があったため、償還準備金の実績が計画を大きく上回ってきた (出所)愛知県道路公社

 

 

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