収益を生まない公共施設等の「サービス購入型PFI事業」に、アベイラビリティ・ペイメント(Availability Payment=A/P)方式を導入する検討が始まっている。ここでは、A/P方式と、サービス購入型PFI方式におけるサービス購入支払いとの違いについて整理し、A/P方式の導入にどのような準備が必要であるかを考えてみたい。
A/P方式は、公共施設等をサービス利用可能(available)な状態に維持することに対する民間事業者への支払いである。DBFOM(設計・建設・資金調達・運営・維持管理)の道路PPP(P3)事業を、「Toll Concession」と「Availability Concession」に分類している米国運輸省(U.S. DOT)は、“Public-Private Partnership (P3) Procurement:A Guide for Public Owners”のなかで、A/Pを次のように定義している。
「A/Pはコンセッショネアへの定期的な支払いで、一部は資本コスト(改修等、筆者注)に充てられる。支払いは通常、プロジェクトの完成時に開始される。A/Pはコンセッション契約に定められた支払いスキームに基づいて調整され、コンセッショネアが契約に基づく履行要件を満たさない場合の下方調整を含む。A/Pの採用は、施設を満足な状態に維持するための財務的インセンティブをコンセッショネアに与え、規定された水準のパフォーマンスで施設を運営させることによって、公益を守ることができる」
上記を参考に、ここではA/P方式を以下のように定義する
「公共施設等の運営・維持管理(O&M)業務において、目標とする提供サービス水準を適切な指標を使って設定したうえで、民間事業者(受託者)のパフォーマンスを当該指標によって測定し、その達成度に応じて、公的資金を財源にサービス対価を支払う方法」
性能指標を使って支払いを定量的に調整する仕組み
この定義を前提に、A/P方式をサービス購入支払い方式と比較することによって、その特徴を整理する。
(1) サービス購入型PFI(BOT、BTOなど)におけるサービス購入支払いは、開業後の事業期間にわたって建設費や維持管理費を民間事業者にサービス対価として延べ払いするもので、サービスの内容が著しく悪ければ建設費の支払いも契約違反としてストップすることも理屈上は可能と解釈されている。これに対して、A/P方式は公共施設等の運営・維持管理(O&M)業務に対する支払いを対象としているため、契約違反としてストップするのは、運営・維持管理業務に対する契約額となる。
米国では、建設費はマイルストーン・ペイメントとして支払われる。国内でも、建設工事(設計を含む場合もある)は発注者の検査を経て竣工される(BTO方式では所有権が発注者に移る)ことを考えると、運営・維持管理段階のサービス低下に対する契約違反額を建設費分まで遡ることには議論の余地があると思われる。
(2) 一般的に国内のサービス購入支払いでは、サービス水準を「重大な瑕疵がない」、「利便性を欠いていない」「〇〇の状態を保持する」といった定性的な表現で規定している。減額については、受託者の責によって施設が閉鎖された場合に減額する規定を設けている例や、管理瑕疵の程度をポイント化して一定期間ごとに総ポイントに対する減額割合を規定している例がある。
一方、海外の事例を見ると、A/P方式におけるサービス水準、指標の立て方、減額方法の組み合わせは、3通りの方法に大別できる。
① 施設が利用可能な状態にある時間帯設定:指標として、施設の利用可能時間を使う。公共施設の場合9:00~17:00、道路の場合1日24時間など。そのうえで、受託者の責によって施設を閉鎖した場合、例えば、1時間当たりの業務委託費(受託者にとっての収入)相当を、実際の閉鎖時間に乗じて減額する。利用者が多くて閉鎖の影響が大きい時間帯は減額を割り増し、利用者が少ない時間帯は割り引きすることも考えられる。
② サービス水準を指標目標値で示す「目標値設定型」:民間事業者によるサービス水準(指標の実測値)が、指標目標値に達しない場合、あらかじめ設定された、目標値と測定値との差分を支払いに関連づけた算定式によって、支払い対価を減額する。例えば、「清掃や巡回の不足による事故・トラブル・苦情発生率をゼロ」にする目標値を設定しておき、実際に発生した場合に維持管理業務費から減額する。
③ 管理瑕疵が見つかった場合に修復する時間を設定する「修復猶予時間設定型」:施設内の設備や構造物に不備が発見された場合、それらの影響度に応じてあらかじめ修復に要する猶予時間(レスポンスタイム)を「3時間」「1日」「1週間」などと設定しておき、それを超過した場合に実時間に応じて維持管理業務費から減額する。
図表■A/P方式の仕組み
減額幅が小さすぎると民間事業者にモラルハザードの懸念
(3) 上記に際して、サービス水準を達成できなかった場合の減額幅の設定が問題になる。①は自らの責によって想定の収入が得られないという考え方なので合理的と考えられる。ある時間帯に施設利用者が多く閉鎖を絶対に起こしたくないという発注者側の意向を強く出したければ、当該時間帯の減額幅を割り増しすることもあり得る。②、③の場合、目標サービス水準を達成するために民間事業者が掛けるコストより減額幅が小さすぎると、減額に甘んじようとするモラルハザードが生じる懸念がある。逆に、減額幅が大きすぎると、当該業務における民間事業者の収益性を圧迫することになる。民間事業者のインセンティブを確保しつつ、業務参画の意欲を削がないように、指標目標値(②の場合)や修復猶予時間(③の場合)は“適切に”設定しなければならない。
(4) 実サービスが指標の目標値を上回った場合には、支払いを増額するボーナス規定を設けることも可能である。ただし、建設工事において施工数量が増えて増額精算になることは一般的に可能だが、A/P方式におけるボーナス支払いについては、目標値の妥当性(受託者にとって甘すぎないなどの財務当局を納得させられる根拠が必要)の点で難しい面があるかもしれない。
上述したサービス購入支払いとA/P方式との比較を下表に示す。
図表■サービス購入支払いとA/P方式との比較
典型的な業務から始めて段階的に適用範囲を拡大
最後に、現在のサービス購入型PFIにA/P方式を組み込むことを考える。まず、「サービス」を「建設サービス」と「O&Mサービス」に分けて、A/P方式を「O&Mサービス」に導入するのが基本的な考え方になると思われる。公募時に建設サービスとO&Mサービスそれぞれに入札し、仕様に基づいて竣工させた建設サービスについては発注者が承認し、その対価として事業期間中に延べ払いする。一方、O&Mサービス対価については、公募時に公開していた性能規定型の要求水準書に基づいてサービス水準(指標)をモニタリングしながら、運営・維持管理期間中に支払う。
一般的に、運営・維持管理期間の段階になると、民間事業者にとってはサービス水準を高めようとするインセンティブが希薄になるため、現状のサービス購入型PFIでは建設費まで遡ってペナルティを科すことでサービス品質の低下に歯止めを掛けようとしている。A/P方式では、建設費までは遡らない代わりに、サービス水準を定量化して、減額幅を明示することで民間事業者のインセンティブを確保しようとする。この際、発注者には、民間事業者のパフォーマンスを測るに相応しい指標を使ってO&Mサービスを定量化することと、適切な減額幅を設定するために想定するサービス水準の達成に民間事業者がどの程度のコストを掛けるのかを把握すること(業務受託費に対する減額率>コスト率)が必要になる。
こうした一連の作業が必要になるため、A/P方式を業務全体に一足飛びに導入することは難しい。まず典型的なサービス業務を抽出して性能規定化し、その指標を使って民間事業者のパフォーマンスを測るなど、初めは対象の業務やエリア、期間を絞って試行し、指標の選定や減額幅の妥当性を検証しながら、段階的に導入範囲を拡大していくことが現実的だと考えられる。
【参考】米国運輸省(U.S. DOT)の“Public-Private Partnership (P3) Procurement:A Guide for Public Owners”によるA/P方式の定義:
“A periodic payment made to a concessionaire, typically commencing on completion of a project, a portion of which constitutes compensation for capital costs. Availability payments are subject to adjustment based on a payment scheme set forth in the concession agreement, including downward adjustments if the concessionaire fails to meet performance requirements under the agreement. Using an availability payment structure protects the interests of the public by giving the concessionaire a financial incentive to maintain the facility in satisfactory condition and operating at a specified level of performance.”