Carbon2Chemプロジェクト、産業工程排ガスのCO2回収利用

産学連携でカーボン循環経済ソリューションの商業化を目指す

鉄鋼、セメントなど一部の原材料製造業やごみ焼却施設の処理工程でCO2の発生そのものを回避することは現行の技術では非常に困難である。このため、この分野で大幅な排出削減を図るための重要なソリューションとしてCO2回収利用(CCU)の取り組みが世界中で加速している。ドイツのCarbon2Chem[1]は産業工程に伴うCO2の利用を目的とした産学連携プロジェクトとして、公的助成を受けて2016年3月にスタートした。カーボン循環経済のソリューション構築を目指し、基礎研究・応用研究と産業アプリケーションを結び付け、多業種で応用可能なモジュール型コンセプトとその技術コンポーネントの開発に取り組んでいる。プロジェクト総投資額は10億ユーロに上る見込みで、今年第3フェーズに突入した。

第1フェーズ(2016年3月―2020年5月)
第1フェーズの主要課題は製鉄所の高炉排ガス中のCO2を燃料、合成樹脂、肥料などに使う中間製品として利用することであった。炭素再利用による排出削減コンセプトに取り組むフラウンホーファー環境・安全・エネルギー技術研究所(Fraunhofer-Institut UMSICHT)がプロジェクトの分科活動ネットワークのコーディネーター兼コミュニケーターとなり、マックスプランク化学エネルギー変換研究所(MPI-CEC)が効率的なエネルギー変換に最適な触媒の研究とCO2排出削減技術のモジュール型コンセプトを開発する。独鉄鋼大手thyssenkruppのDuisburg工場隣地の技術研究ラボCarbon2Chem® Technikum(2018年9月開設)では、同社の高炉排ガスを使い実地運転条件下での工程テストが、またFraunhofer UMSICHTのプロジェクト専用ラボ(2019年3月開設)では、ガスの精製・調整とメタノール・高級アルコールの生産工程の研究などが行われている。プロジェクトには化学分野のClariant、Covestro、Evonik、Nouryon、BASFのほか、産業ガスのLinde、Siemens、Volkswagen、学術分野からはアーヘン工科大学、ボーフム大学、カールスルーエ技術研究所なども参加した。連邦教育研究省(BMBF)から6,000万ユーロ超の助成金を受けた。

第2フェーズ(2020年6月―2024年12月)
第1フェーズで確立した処理工程の評価と、2025年からの産業実用化に向けたスケールアップを重点課題とし、thyssenkruppの高炉排ガスの精製、加工などに焦点を充てるとともにメタノール、高級アルコール、ポリマーへのCO2利用に取り組んだ。石灰大手のRheinkalkと廃棄物処理・再利用サービスのREMONDISが新たに参加し、セメント製造業とごみ焼却施設に由来するCO2の研究も始まった。Carbon2Chem® Technikumでは産業用メタノール合成触媒の性能・安定性テスト、エレクトロスイング吸着法(ESA)による高炉排ガスに含まれる微粒子等の分離実験、コークス炉ガスからの酸素除去実験、高炉排ガスによる産業用アンモニア合成実験などを行った[2]。 BMBFから8,400万ユーロの助成を受けた。

ThyssenkruppはCarbon2Chemコンセプトを産業規模で実現するための中核的な役割を果たすと同時に、高炉排ガスの精製、化学品の合成、システム統合のためのコンセプトの堅牢性確認を担当した。高炉排ガスからメタノールを製造するコンセプトに取り組むメタノールグループ、ソリューションの堅牢性や他のアプリケーションへの移転可能性とガス精製や電解システムの運転安定性の検証を行う合成ガスグループ、精製したガスを短鎖アルコール、オレフィン、合成燃料に直接変える触媒プロセスを開発する高級アルコールグループ、ポリカーボネートの新しい製造方法・部分的プロセスの研究開発を行うポリマーグループことに分科活動が進められた。Carbon2Chem® Technikumでは2022年からメタノール原液を1日当たり最大75リットル製造している。様々なCO/CO2比率でのメタノール生産が可能であり、石灰の還元やごみ焼却の工程で発生する炭素もメタノール製造に適していることが確認された[3]。

第3フェーズ(2025年1月1日―2028年12月)
最終フェーズではCarbon2Chem® Technikumでの開発結果や、鉄鋼・石灰製造およびごみ焼却由来のCO・CO2の利用コンセプトを検証し、持続可能なビジネスモデルを構想なども行う。事業環境・条件の変化への適応、新世代の水電解装置の開発、持続可能な航空機燃料の研究開発も新たな課題となった。BMBFが5,000万ユーロを助成する。

CO2を“持続可能な原料”に―新助成プログラム
だが、産業分野のCO2は製造・加工工程での化石燃料依存度が大幅に減らない限り、回収利用しても交通燃料など別の形で放出されるため、社会全体としての削減効果は非常に限定的である。連邦環境庁(Umweltbundesamt)は、効率的に排出ニュートラル経済を実現するためには、炭化水素を燃料や化学原料として利用することが不可欠であり、その大規模生産を視野に入れて、大気中のCO2回収技術の研究開発を行うことがより重要になるとしている。今年初め、BMBFは、CO2を“持続可能な原料”として産業利用するための斬新な技術・アプローチの開発・導入を支援する助成プログラム[4]を立ち上げた。CO2由来製品の製造コストを抑え、その普及を促進するような技術・プロセス、また直接空気回収技術(DAC)やCCUプラントと連動可能な新しいアプローチなどが助成対象で、4月末に募集が締め切られた。プロジェクトの刷新性や斬新さに注目したい。


※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] Fraunhofer UMSICHT https://www.umsicht.fraunhofer.de/de/carbonmanagement/kohlenstoffkreislauf.html
[2] Carbon2Chem®-Technikum https://www.umsicht.fraunhofer.de/de/carbonmanagement/kohlenstoffkreislauf/technikum.html
[3] FONA 2025年3月13日付プレスリリース https://www.fona.de/de/carbon2chem-erhaelt-foerderbescheid-ueber-50-millionen-euro
[4] Disruptive Ansätze zur industriellen Nutzung von CO2 https://www.fona.de/de/massnahmen/foerdermassnahmen/disruptive_co2_nutzung.php

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
タイトルとURLをコピーしました