インフラに与える長期トレンドを予測、KPMG

会計・経営コンサルティングファームのKPMGは、2021年4月に発行したレポート“Emerging trends in infrastructure”(2021年版)のなかで、COVID-19パンデミックの経験を踏まえて、インフラセクターに影響を与える長期的なトレンドを整理した。今後10年間を定義するのは「成長」、「持続可能性」、「強靭化」としたうえで、10のトレンドを予測し、各トレンドの内容、インフラプレーヤーの対応などについて考察している。主な内容は以下の通り。

トレンド1:不確実性がインフラ計画を複雑化

  • 短期から中期の不確実性と将来の可視性の低下が、数十年にわたるライフサイクルを有する資産の構築を困難にする場合がある。
  • ユーザーの傾向を理解することは、適切なインフラ投資の決定に重要だが、それらの傾向は流動的である。恒久的な変化と一時的な変化の区別も容易ではない。
  • インフラプランナー、オペレーター、開発者は、インフラの計画・開発・調達に対して、機敏で柔軟なアプローチを探し始めると予想される。

トレンド2:都市は提案する価値を再考

  • 都市における物理的なネットワーク効果とデジタルネットワーク効果の統合が、何を都市の価値として提案するか、根本的に再考することを強いている。中心部は経済活動のハブとして引き続き機能するが、中心ビジネス地区(CBD)が果たす役割は変化している。
  • 人々が重点を置くようになった効率性、安全性、利便性の向上がデジタル技術によって可能になり、新しいニーズと期待を生み出している。
  • 都市プランナーと都市インフラリーダーはインフラニーズを再評価して、市民にどのように価値を提供するかだけでなく、市民が何を将来の付加価値としているかを理解する必要がある。

トレンド3:再び現実になる国境

  • 国境がほとんど閉鎖されたため、海外旅行はできなくなり、移住も停滞した。グローバリゼーション勢力にとって強烈な向かい風のなか、港湾・空港・物流部門も混乱した。
  • 空港や港湾のオペレーターは、より優れた強靭化とより強力な対応メカニズムとして、テクノロジーと自動化の必要性を認識している。デジタルポートとスマートポート、空港の自動化、サプライチェーン関係者の協働を改善する制度的メカニズム開発への投資が増える。
  • グローバルなサプライチェーンにおける港湾と空港の役割を考えると、利害関係者(政府、規制当局、投資家、サービスプロバイダーを含む)は、財務・運用の強靭化にさらに重点を置くようになるだろう。

トレンド4:インフラ供給ネットワークが進化

  • パンデミックによって大規模な混乱を経験したのは、商品や製造のサプライチェーンだけでなく、世界のインフラや建設会社も原材料や設備、労働力の供給で大きな影響を受けた。
  • 産業界の強靭化に対する投資増加に伴い、物流インフラと建設サプライチェーンの強化に多大な投資と開発が加速する。
  • 輸送・物流プロバイダーは運用・コスト構造・ビジネスモデルの転換を図り、インフラの開発者とオペレーターは供給ニーズとネットワークの地図を書き換えることになるだろう。

トレンド5:新しい資金が流入

  • 低金利の持続、資産クラスとしてのインフラを対象とした機関投資家の出現、現地通貨による資金調達の台頭、持続可能な投資手段の成長によって近年、インフラセクターに新しい資金調達オプションが流入し、多くの革新が起きている。
  • リスクがよりよく理解された現在、年金基金と保険会社がリターンの増加のためにブラウンフィールド資産とグリーンフィールドプロジェクトへの投資を積極的に検討している。
  • 低金利のままであれば、インフレから持続可能な長期リターンを獲得するインフラ事業体に、新しい投資家が引き寄せられることが期待できる。

トレンド6:環境により優しく、より公正な社会の再建

  • パンデミックが社会に多くの課題をもたらした。人々は、車の騒音と渋滞がなくなった道路と清浄な空気によって生活の質が改善されることを見た一方、経済的な不平等と不均衡の現実が意識に刷り込まれた。
  • 社会は、環境により優しく公正で持続可能なグローバル経済の再建を求めている。
  • 多くの国や都市が2050年までにCO2排出量ゼロを目指して国連のキャンペーンに参加している。ESG(環境・社会・統治)投資をはじめ、インフラはグリーンリカバリを推進する上で最も重要な役割を果たす可能性がある。

トレンド7:レジリエンスの優先度が上昇

  • 政府と資産所有者は、気候変動リスクに対するインフラの強靭化(レジリエンス)にますます焦点を合わせている。
  • アクティビスト投資家からの圧力も高まっている。投資家と政府が、資産の気候変動リスクに対する報告義務を課すことも予想される。
  • 最近ではレジリエンスの定義が広がっている。パンデミックは、一部のインフラ(医療サービスやファイバー接続など)が予期しない需要変動によって大きな負担が掛かる可能性があることを示した。今後、インフラのレジリエンス計画に対する見方に大きな変化をもたらすだろう。

トレンド8:デジタルで安全にサービス提供

  • ハイパーコネクティビティの時代に入った。デジタルリテラシー教育、インターネットへのアクセス(ブロードバンド、モバイル経由)、データセンター、モバイルテクノロジー、アプリ(支払いサービス、キャッシュレスチケットなど)がデジタル経済・社会をサポートする。
  • 強力なデジタル機能を備えた市場や地域では、公共サービスインフラの所有者(水道、電力、公共交通機関のプロバイダー)によるリモート運用を可能にした。5Gの展開は、新たにハイパーコネクテッドな世界でのサービス提供の基本となる。
  • データ、IoT、人工知能、VR(拡張現実)、将来のモビリティ、5Gやクラウドへの接続テクノロジーが、インフラのイノベーションと価値を推進するうえで中心的な役割を果たす。

トレンド9:政府は変革の好機

  • 政府は、市民や企業との交流やサービスの方法を変革する機会を手にしている。教育や医療のオンライン化は、サービス品質にとってデジタルインフラが建物よりも重要になっている一例。政府とインフラリーダーには、これらのサービスの一部恒久化への取り組みが期待される。
  • 同じ創造的な考え方は、現在のモビリティ戦略の再考からサプライチェーンの根本的な再設計にまで及ぶ可能性がある。
  • 政府とインフラプランナーは、資産ではなくサービスと成果の観点から、コミュニティの要望を明確にするため、過去、現在、未来のユーザーの需要パターンと好みを明確に把握する必要がある。

トレンド10:政府は民間パートナーを求める

  • 政府は、インフラ資金調達とサービス提供において、民間部門が基本的な運営契約から複雑な投資手段を通じて、ますます重要な役割を果たしていることを認識している。
  • 多くの政府は、ユーザーが要求するすべてのサービスを直接、資産と人的資源を持って提供する必要があるかどうか、より批判的に考え始め、直接管理する部分と外部民間委託・監視が可能な部分に分けて再考するようになっている。
  • 地方自治体や公営レベルで、民間部門の専門知識と技術力を廃棄物処理、水処理、土地管理、eガバナンスなどに活用しようとしており、ユーザーと政府の双方にとって価値が向上する。
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