地熱発電の新たな可能性:超臨界地熱発電

LRI Energy & Carbon Newsletterから

2022年の世界の総発電量29,031TWhに再生可能エネルギーが占める割合は29.1%で、そのうち地熱発電は0.3%(97TWh)に過ぎなかった[1]。日本でも、地熱発電の割合は太陽光発電の9.2%や水力発電の7.6%と比較して、全体の0.3%に過ぎない[2]。

これまでの地熱発電は、アクセスしやすい蒸気や熱水を利用していたため、開発できる地域が限られていた。しかし、超臨界地熱発電技術が登場したことで、その可能性は一挙に拡大しようとしている。超臨界地熱発電は地下深いところにある超高温・高圧(373.976°C以上、22.01 MPa以上)の超臨界水を使った高効率の発電で、超臨界水を掘り出す新たな技術がそのベースとなっている。 

国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、超臨界地熱発電の導入により、地熱エネルギーは2050年までに最大600TWの発電容量を供給できる可能性がある。それは世界の電力需要増加分の15%を賄える規模である。掘削の深さにより、次のような発電容量が見込まれている[3]。

  • 深さ3~5km: 31.8TW
  • 深さ5~7km: 262.9TW
  • 深さ7~8km: 290.9TW

日本では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に、2050年頃の普及を目指して超臨界地熱発電の開発が進められている。現在はロードマップの第一及び第二フェーズにあたる「超臨界地熱発電の実行可能性調査」や「試掘に向けた詳細検討」が行われている。岩手県安比地域では、深部構造調査試錐(3,200m)や超臨界地熱調査井(3,800m)の掘削仕様を具体化し、技術面や安全性(HSE)の課題の抽出、費用試算などが進められている。岩手県の渇根田地域の地熱調査井WD-1aでは、既に掘削深度3,729mで500℃以上の温度を達成した[4]。

技術開発においては、秋田大学の長縄教授がベンチュリ効果と呼ばれる急減圧機構を組み込むことにより、熱衝撃で硬い岩盤掘削を助ける「熱衝撃破壊掘削ビット」を開発するなどして新たな掘削技術の研究が進行中である。更に、耐高温・耐腐食性に優れたセメント材やケーシング材の開発も進められており、これらの取り組みが超臨界地熱発電の実現に向けた基盤を支えている[5]。

IDDP (Iceland Deep Drilling Project) は、アイスランドで行われた大深度高温地熱資源の掘削プロジェクトで、重要な成果を上げている。同プロジェクトのフェーズ1、IDDP-1では2008~2012年にかけてKrafla地域で掘削作業を行い、深度2100mのところで溶融岩の脈に掘り込んだため作業を停止した。しかし、Reykjanes地域で行われたフェーズ2、IDDP-2では2016~2017年にかけて傾斜深度4,659m(垂直深度およそ4.5km)に達し、426℃の温度と34MPaの圧力を確認した。これにより、地熱流体が超臨界状態で存在することが示唆された。開発が成功すれば、40~50MWeの発電が見込まれることになる[6]。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] https://www.thinkgeoenergy.com/2024-re-statistics-highlight-lagging-growth-of-geothermal-for-electricity/
[2] https://sustech-inc.co.jp/carbonix/media/power-plant-ratio-2024/
[3] https://www.iea.org/reports/the-future-of-geothermal-energy/executive-summary
[4] http://www.svo.dpri.kyoto-u.ac.jp/12k03/doi.pdf 
[5] https://www.akita-u.ac.jp/honbu/lab/vol_76.html 
[6] https://www.jstage.jst.go.jp/article/japt/86/5/86_332/_pdf 

松井瑛(LRI コンサルタント)
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