Capgeminiによる水素関連サーベイの結果とその分析

LRI Energy & Carbon Newsletterから

水素は産業部門における脱炭素のために不可欠である。しかしながら、低炭素水素の供給の見通しは現時点において期待外れである。Hydrogen CouncilとMcKinsey & Companyの調査[1]によると、2023年10月時点において、2030年までに稼働する予定の世界の低炭素水素製造案件のうち、投資の最終決定が下されているものの合計の生産容量はせいぜい300万トン/年程度にしか過ぎない。現在、英国で化学と精油のために製造されているグレー水素の量が70万トン/年であることより、世界の数値であるこの300万トンがいかに少ないものかがおわかりいただけるであろう。

多くの案件が発表されているにもかかわらず、このような期待外れの状況にある最大の理由は、価格である。実際、英国で昨年12月に行われた水素のCfD(Contract for Difference、差額決済方式補助金スキーム)の第1回の割り当てラウンドのストライク価格は241ポンド/MWhであった。水素で置き換えられる化石燃料の一つである天然ガスの最近の価格は20-50ポンド/MWhであるから、それと比較すると5-12倍である。CfDのような金銭的補助なしに、このような価格の水素を10年、15年といった長期間購入するコミットメントをすることは、誰にとっても困難であろう。

フランスのコンサルティング会社Capgeminiは、低炭素水素のコストの高止まりの原因を明確にし、その解決策を模索するために、水素ビジネスに関与している約120社を対象にサーベイを行い、先月その結果と彼らの分析を発表した。以下はその要点である[2]。

1. 高コストの理由

■ 価格競争力のあるグリーン電気の供給を得ることが困難であること:58%の回答者が主要な問題と回答。(電気コストが水素の平準化コスト(LCOH)の約45-60%を占めることから容易に想像できる。)
■ 価格面におけるその他の問題:
  〇機材コスト(回答者の49%)
  〇需要の欠如及び買い手が見つからないこと(42%)
  〇不十分な公的支援(38%)
  〇炭素価格が十分に高くない こと(36%)
  〇輸送網や貯蔵施設などのインフラの欠如 (35%)
  〇規制上の障壁 (32%)
  〇環境上の制約 (23%)
  〇機器のパフォーマンスとその確保 (21%)
  〇機器の信頼性と安全性 (19%)
  〇訓練を受けた従業員の確保 (19%)
  〇利用できる土地の確保 (14%)。
■ パートナー、特にEPCパートナーを見つけるのが困難であること。

2. 政府部門による、可能性のある解決策

64%がコスト削減には公的補助金やその他の金銭的インセンティブが重要であると回答し、61%が炭素税の引き上げが不可欠なコスト削減手段であると回答した。(同報告書によると、EUではEU ETS の価格が 100 ユーロ/tCO2eを大幅に上回ると、天然ガスから製造される 水蒸気改質水素の価格が上昇し、 低炭素水素はより競争力をもつようになる。) 他の選択肢は回答者からあまり支持されておらず、電力市場改革とPPAの発展に51%がチェックマークを付けた。

3. 民間部門による、可能性のある解決策

グリーン水素コストを削減するために民間部門が自力でどのようなことができるかと尋ねたところ、75% が「電気コストの削減」と回答した。その手段としては、長期の電力購入契約や電解槽の負荷率向上のための低炭素電力源の多様化などが含まれた。しかしながらCapgeminiは、実際には、電解槽の効率を改善することが電気コストを削減する主な手段になると指摘する。そして、現在最も安価なアルカリ水電解技術は最も多くの電力を消費する水電解技術であるため、他の技術の方が賢明であるとし、まずPEM水電解などの次世代技術を推進し、その後、高温または他のタイプの技術の工業化を加速することを提案している。この解決法の推奨理由として以下を挙げている。

  • 100MWを超える大容量システムに関しては、技術成熟度レベルが同じであれば、PEM電解槽はアルカリ電解槽よりも消費電力が少ない。 しかし、白金の堆積物が膜を妨害するため、その効率は低下する。よって、高温電解が市場でベストの結果をもたらす真のゲームチェンジャーとなると思われる。例えば、高温水蒸気を電気分解するSOEC (固体酸化物電解槽セル) 技術の平均システム効率は水素 1 kg あたり 40kWh で、アルカリ技術よりも 26% 高い。(ただし、SOEC システムがそのような高効率を達成するには廃熱利用が必要である。)
  • 電解槽の柔軟性(入力電力の変動に対する対応力)を向上させることもコスト削減の鍵である。アルカリ電解槽では、物理的及び化学的制約により、必要な柔軟性 (負荷率30 ~ 40%での運転) を提供できない。 実際、中国初の水素ギガファクトリーから学んだ教訓は、アルカリ電解槽は 負荷率が低下するにつれ水素の隔膜透過による安全性の問題(爆発のリスク)が拡大し、50% 未満の負荷率では運転できないということであった。
  • 一方、PEM 及び高温水電解槽は、アルカリ電解槽に必要なシステム全体のシャットダウンではなく、個々のモジュールのシャットダウンを可能にするモジュラー設計のおかげで融通が利く。

しかしながらCapgeminiは、PEM技術のコスト競争力は依然として改善する必要があり(つまり、kWあたりではアルカリ技術よりもはるかに高価)、また、高温電気分解は2027年から2028年までに実用化されることはないであろうとみている。今回のサーベイでも「設備コストの削減」は、水素 コスト削減のための民間による解決策として二番目に多い回答(69%)であった。

その他の解決策としては、電解槽システムの性能の向上(40%)、施設の規模の拡大(39%)、イノベーション(36%)、プラントのバランスコストの削減(26%)、水素貯蔵及び輸送インフラの改善 (24%)、新しいサービスまたはビジネス モデルの作成 (21%)、プロジェクトを再生可能エネルギー源に近づけること (20%)、及び EPC パートナーシップの実施 (18%) が続いた。

最初の「電解槽システムの性能の向上(40%)」に関連して、Capgeminiは、電解槽システムの設計を改善すると、LCOHを26%削減でき、これにより水素の最終価格を1kg当たり約1.92ドル節約できる可能性があるとする。また、周辺機器設備の設計の改善もコスト削減に重要な役割を果たすとする。例えばコンプレッサーは現在、水素脆化により耐久性が低下する可能性のある鋼材で製造されている。水素用途に適した設計にすることで設備コストの削減につなげることができるだろう。

同社は、電解槽の製造プロセスで35の潜在的な改善点を特定した。無駄のない生産管理により生産コストを10-15%削減でき、0.74-1.10ユーロ/kgの水素価格削減が期待できると分析している。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] https://hydrogencouncil.com/wp-content/uploads/2023/12/Hydrogen-Insights-Dec-2023-Update.pdf  
[2] https://www.hydrogeninsight.com/analysis/analysis-clean-hydrogen-remains-too-expensive-and-uncompetitive-how-can-costs-be-reduced-/2-1-1632410

津村照彦(LRI会長)
関連サイト
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