ドイツの太陽光発電容量、住宅のPV導入加速で急拡大

PVモジュール低価格化やVAT免除が追い風に 

ドイツでは2023年は太陽光発電(PV)の新たな投資ブームと言える年であった。太陽光発電事業者連盟(Bundewsverband der Solarwirtschaft=BSW)が今年初め発表したところによると、新設容量は前年比85%増の14.1GWとなり、再生可能エネルギー法(EEG)の目標である9GWを大幅に上回った。このけん引力となったのが住宅建物のPV設置で、新設容量は前年比135%増の約7GWに急拡大した[1]。近年のエネルギー価格高騰で、消費者に自家発電で長期的にコストを抑えたいという意識が高まっていることが住宅PVブームの基調にあるが、中国製品の主導でPVモジュールが低価格化し値ごろになったことも大きな要因である。これまで連邦・州・地方自治体による低金利融資や助成金などのPV投資奨励策が講じられてきたが、昨年は新たに容量30kW以下のPVに対し19%の付加価値税(VAT)が免除になったことや、新設PVの電力固定買取価格(FIT)引上げなどでPV導入の経済的な魅力がさらに高まった。9月下旬に応募を開始した連邦デジタル交通省による蓄電池と電動自動車(EV)用充電ボックスを併設するPV投資への助成プログラム「EV用太陽電力(Solarstrom fur Elektroautos)」は、受付から数時間で予算3億ユーロが申請者3万3,000人に割り当てられるという大好評を博した。今年は厳しい財政状況下で同プログラムの再開が見送られる可能性もあるが、消費者にとってPV導入環境は総じて良いといえる。

州レベルで建物屋根PV設置義務化の動き

現連立政権は、太陽光発電の条件に適した建物屋根を最大限に利用するため、新設の事業建物のPV設置を義務化し、新築住宅では設置を慣習化するべきという考えだが、2023年の再生可能エネルギー法(EEG)改正には義務化は盛り込まず、設置奨励プログラム、課税優遇措置、設置手続きの簡便化などにより自主的投資を促進する策をとった。一方、州レベルではPV義務化の動きが始まっている。例えば、バーデンヴュルテンベルク州は2022年1月から住宅以外の新築建物、同年5月から新築住宅、2023年1月から全ての建物の屋根改修時のPV設置を義務化した。ベルリン市は2023年から事業施設および住宅の新築・既存屋根改修ともに義務化、ハンブルク市は2024年から全ての新築建物・既存屋根改修に義務付けている。ニーダーザクセン州は2023年から事業施設、2024年から公共施設、2025年から住宅と段階的に新築建物に義務付け、2025年には全ての屋根改修も対象とする。バイエルン州は2023年から住宅以外の新築建物、2025年から同屋根改修時に義務が発生するが、住宅建物については2025年から新築・屋根改修ともに“設置するべき”(強い推奨)という表現にとどめている。州により設置面積などの要件は異なるが、技術的・経済的な理由や公共規定等との関係で設置が困難な場合は義務を免除する点で一致している。
 
国内のPV設置動向を州別に見ると、太陽光発電が最も活発なバイエルン州では2023年の新設PV容量は前年比80%増の3,891MWであった[2]。ノルトラインウェストファーレン州は前年比127%増の2,165 MWであった[3]。バーデンヴュルテンベルク州も127%増の1,857 MWで過去最高となった。同州では特にPV設置義務化の効果があったと見られ、屋根設置型が1,556MWと全体の8割強を占めた[4]。

プラグインPV人気上昇

屋根型PVに加えて注目を集めているのが、バルコニーなどに簡単に設置できるプラグインPVである。PVモジュールで発電し、インバーターで交流変換して電源コンセントから屋内回線に取り込むシステムで、ドイツでは“バルコニー発電所(Balkonkraftwerk)”とも呼ばれている。工事不要で設置が簡単、低価格などが魅力で、特に賃貸住宅に住む消費者に人気が高い。FIT対象外で系統に接続しないが電力市場基本データレジスタ(Marktstammdatenregister)に登録する必要がある。連邦ネットワーク庁によると2023年のプラグインPV新登録数は前年の3倍の約26万台に伸び、新設容量は0.2GWで同年の太陽光発電新設総容量の1.5%を占めた[5]。「エネルギートランスフォーメーションが国民の広い層に受け入れられるようになった」とネットワーク庁はこの動向を評価している。連邦議会が現在審議しているPV設置加速のための新措置(Solarpaket I)では、プラグインPVを使って低価格の太陽電力を誰でも直接利用できるよう、登録の簡略化や電力会社への自動通知など導入に関わる手間が大幅に軽減される見通しである[6]。

昨年末時点の国内PV設置済容量は81.7GWである。太陽光発電の政策目標である2030年215GWの実現には今後、年平均19GWの増設が必要となる。事業施設や一般住宅のPV設置義務化で確実に容量を拡大できるだろうが、消費者がPVの利点に納得し導入に前向きになることがまず重要である。昨年末に実施された太陽光発電事業者連盟(BSW)の委託アンケート調査に基づくと150万超の所帯が今年PVの設置を計画すると推定され、業界は住宅PVブームが続くと予想している[7]。


※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] Bundesverband Solarwirtschaft e.V. (BSW) 2024年1月3日付プレスリリースhttps://www.solarwirtschaft.de/2024/01/03/2023-mehr-als-eine-million-neue-solaranlagen/
[2] Solarbranche.de https://www.solarbranche.de/ausbau/bundeslaender-photovoltaik/bayern?jahr=2023
[3] Solarserver 2024年2月5日付プレスリリース https://www.solarserver.de/2024/02/05/nrw-rekord-photovoltaik-zubau-in-2023/#:~:text=NRW%20hat%202023%20ein%20Rekordjahr,MW)%20neu%20in%20Betrieb%20gegangen.
[4] バーデンビュルテンベルク州広報2024年1月12日付プレスリリース https://um.baden-wuerttemberg.de/de/presse-service/presse/pressemitteilung/pid/rekordjahr-2023-land-legt-beim-zubau-von-photovoltaik-anlagen-zu#:~:text=Neuer%20Rekord%20beim%20Ausbau%20der,hinter%20Nordrhein%2DWestfalen%20und%20Bayern.
[5] Bundesnetzagentur 2024年1月5日付プレスリリースhttps://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2024/20240105_EEGZubau.html#:~:text=Als%20sogenannte%20Balkonanlagen%20(steckerfertige%20Solaranlagen,(0%2C2%20Gigawatt).
[6] Bundesnetzagentur 2024年3月28日付プレスリリースhttps://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2024/20240328_MaStR_Reg.html
[7] Bundesverband Solarwirtschaft e.V. (BSW) 2024年1月3日付プレスリリース(前掲)

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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