ナミビアで2023年11月初め、ドイツ企業コンソーシアムHyIronが主導するアフリカ大陸初となるCO2排出ゼロの水素直接還元鉄(DRI)プラントの建設がスタートした。ナミビアは鉄鉱石を豊富に埋蔵するとともに、風力および太陽光発電の立地条件が良いためグリーン水素の生産に適している。コークスを使わない直接還元工程による排出削減に加え、鉄鉱石採掘地の近くで加工することで生産コストを抑えることができる大きな利点もある。HyIronのOshivelaプロジェックトは生産能力1万5,000トンの世界最大規模のグリーンスチール一次生産プラントとして、2024年末にDRIの生産を開始する予定である。長期的には最大200万トンの生産を目指す。ドイツ鉄鋼業界にとってグリーンスチールの新たな原料調達ルートとして期待される。
HyIronのOshivelaプロジェックト[1]
グリーンスチールを経済的に生産するための直接還技術開発に取り組むスタートアップ企業CO2GRABと工業炉メーカーTS Elino、風力発電設計会社LSF EnergyによるHyIronのOshivelaプロジェックトは、ドイツ政府から約1,300万ユーロの助成金を受け実施される。ナミビアを立地とする利点として、再生可能エネルギー源と鉄鉱石に富むことの他、途上国の中でも政治や法的環境が安定し、インフラも比較的整い質の良い人材を得やすいことなどを挙げている。水素直接還元製鉄プラントの建設地はLodestone社Dordabis鉱山の近くで、まず発電容量20MWの太陽光発電施設を整備する。
「Oshivela」プロジェクトのためのパイロットプラント
ナミビアでのプロジェクトに先立ち、ドイツNidersachsen州のLingenで2023年8月、水素直接還元製鉄法によるグリーンスチール生産プラントが運転を開始した。前述のCO2GRAB、鉄鋼メーカーBENTELER Steel/Tube、エネルギー大手RWEによる地元州環境省の助成を受けたパイロットプロジェクト[2][3]で、このソリューションがナミビア・プロジェクトのモデルとなる。RWEのガス火力発電所の敷地にある同プラントのそばには14MWの水電解装置が設置され、同社の再生可能エネルギー電力を使って年内にグリーン水素の供給を始める。直接還元工程には気密構造を持つHyIronのロータリーキルン(回転供給式窯)を採用し、水素・酸素反応で鉄鉱石を鋼鉄の原料になるDRIに変化させる。毎時1トン超の生産を予定する。ナミビア・プラントの生産工程と製品の最適化を図る目的で、ナミビア産の鉄鉱石も実際に投入している。2045年までにカーボンニュートラルを目指すBENTELERは、同市にある製鉄所の電炉でスクラップ鉄をリサイクルすることにより、大幅な排出削減に成功した油圧配管用鋼管をすでに商品化している。2024年からはパイロットプラントのグリーンDRIとスクラップ鉄を混合したスチールを鋼管製品に採用する計画である。HyIronソリューションは工程で発生した水蒸気を回収し再び水素生産に利用するため、水資源に乏しいナミビアで環境に大きく配慮して製鉄を行うことができる。モジュール式で規模を拡大しやすいため、年間生産能力100万トンへのスケールアップの実現可能性の検証も進めている。
大型再生可能エネルギー開発プロジェックトもドイツが主導
2050年のカーボンニュートラル実現をコミットするナミビアは、新興国の中でグリーン水素の主要輸出国の地位を確立することを目指している。そのための水素産業構築ではドイツとの提携が重要な役割を担う。例えば、ドイツの再生可能エネルギー大手Enertragと戦略投資・インフラ開発会社Nicholasの合弁事業Hyphen Hydrogen Energyとナミビア政府の提携による港湾都市Luderitzでのグリーン水素プロジェクト[4][5]である。約5年後に投資が完了すれば、サハラ砂漠以南のアフリカで最大規模の年間約35万トンのグリーン水素プラントが誕生する。今年5月に実現可能性調査と実施に関する合意を交わしたが、同提携が持続可能で公平なグリーン水素プロジェクトの開発モデルとして国際的なベンチマークになると自負している。総投資額はナミビアの国内総生産(GDP)に近い100億ドルに上り、4―5年の総工期に約1万5,000人、施設稼働により約3,000人の雇用を創出する見込みである。第1フェーズは2025年1月の着工、2026年中の試運転を計画しており、現在それに向け手続きを進めている。第2フェーズでは生産能力を2倍に拡張し、2020年代末までに水素の商業生産をフルスケール規模にまで拡大する計画である。その規模は再生可能エネルギー発電容量が最大7GW、電解装置容量が最大3GWで、年間200万トンのグリーンアンモニアの生産が可能になる。Hyphenはナミビア国内全体のグリーンアンモニア生産ポテンシャルは最大1,500万トンに達すると見ている。
ドイツは旧植民地ナミビアの重要な開発支援パートナーとして、再生可能エネルギー開発、気候変動対策、種の多様性保護、水供給インフラ改善など、これまで総額5,150万ユーロに上る支援を提供してきた。特にグリーン水素産業を同国の経済発展の牽引力と位置付け、上記Hyphen Hydrogen Energyによるプロジェクトの支援と水素産業分野の専門技術者の育成を援助するため、連邦開発協力省を通して今年新たに600万ユーロの助成を決めている。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
[1] HyIron HP Oshivela Project https://hyiron.com/oshivela/
[2] Niedersachsen州環境省2023年8月11日付プレスリリースhttps://www.umwelt.niedersachsen.de/startseite/aktuelles/pressemitteilungen/pi-75-direktreduzierungsanlage-grunes-eisen-224495.html
[3] Lingen市2023年8月17日付プレスリリース https://www.lingen.de/politik-rathaus-service/aktuelles/wirtschaft-aktuell/weltweit-groesste-wasserstoff-direktreduktionsanlage-zur-her.html
[4] Hyphen Energy HP 2023年5月24日付プレスリリース https://hyphenafrica.com/news/the-government-of-the-republic-of-namibia-approves-entry-into-a-pioneering-us10bn-agreement-to-develop-sub-saharan-africas-largest-green-hydrogen-project-with-hyphen-hydrogen-energy/
[5] Hyphen Energy HP Projects https://hyphenafrica.com/projects/