ドイツ:協同組合が地域のエネルギー自立を実現

シェアリングを再エネ拡大の推進力に  LRI Energy & Carbon Newsletterから

排出ニュートラル社会の実現は、政府が数値目標を掲げその達成のための法律・規制を策定することでレールを敷き、公共自治体、市民、企業が同じ目標に向かってそれぞれの立場で課題に取り組むことで初めて可能になる。EU再生可能エネルギー指令RED II第22条は、市民などエネルギー最終消費者が再エネ事業に直接関与できるコミュニティ(Renewable Energy Communities)を奨励する法的フレームワークを加盟国に求めている[1]。これに未対応のドイツでは、市民エネルギーアライアンス(Bundnis Burgerenergie)、ドイツ再生可能エネルギー連盟(Bundesverband Erneuerbare Energie、BEE)、ドイツ協同組合連合(Deutscher Genossenschafts- und Raiffeisenverband、DGRV)などが、経営上の前提や法的制約、技術条件などを考慮したエネルギーシェアリングモデルを協同策定し、政府に関連法改正でこれを反映するよう求めている。エネルギーシェアリングは地方自治体、中小企業、市民が地域エネルギー会社に出資し、再生可能エネルギー施設の運営に直接関わることで、消費者としての負担が軽くなり、排出ニュートラルへのエネルギートランスフォーメーションに直接関わることができるコンセプトで、ドイツの2030年までの再エネ発電施設増設目標の35%に貢献できると見ている[2]。

 

エネルギー協同組合でエネルギー自給自足

ドイツでは地域住民のイニシャチブによるエネルギー協同組合(Energiegenossenschaft)がすでに存在する。これを通してエネルギー自給自足と排出ニュートラルを目指すコミュニティはエネルギーシェアリングの好例と言える。ドイツ協同組合連合(DGRV)によると[3]、エネルギー協同組合数は2006年の8から2022年時点で847に拡大し、組合員数は約22万人に上る。エネルギー協同組合の規模は、組合員数101~200人が全体の25%、301~500人が20%、501人以上が17%で、3~50人という極小規模の組合も1割を占める。組合員の構成比は個人が95%、企業・銀行が2%、農家2%、自治体・公共機関・教会が1%となっている。組合員一人当たりの出資額は2,501~5,000ユーロが全体の40%を占め、1,001~2,500ユーロが22%、1,000ユーロ以下が20%と、投資負担が小さく参加しやすい組合も少なくない。設備投資額は50万~200万ユーロが35%と最も多いが、1,000万ユーロ超が8%、10万ユーロ以下が9%と施設規模の多様性がうかがえる。再生可能エネルギー設備への総投資額は30億ユーロを超える。2021年の総発電量は8TWh超でドイツの再生可能エネルギー総発電量の3.5%を占め、約300万トンの排出削減に貢献した。地域暖房サービスでは約200の組合が合わせて約1万8,000所帯をネットワークし、年間11万トンの排出削減を実現している。

 

住民イニシャチブの先行事例

国内北部ブランデンブルク州Treuenbrietzen市のFeldheim地区(住民約200人)は、住民と事業者、同市が有限合資会社(GmbH & Co. KG)形態でFeldheim Energieを共同設立し、2010年にドイツで初めてエネルギーの自給自足を実現したコミュニティと言われる。風力発電(タービン55基で総発電容量250MW)、太陽光発電(発電容量2.25MWp)、電力需給調整用蓄電機、バイオガスコージェネレーションプラント(発電容量526kW)、主に冬季暖房ピーク時用の木材チップ熱供給装置(400kW)を供え、独自の送電網、温熱網を整備している。市場価格の影響を受けず安定的に低料金で利用できる。また、風力発電では余剰電力の系統買取りによる利益も大きい。組合員の出資金は電力と地域暖房それぞれ1,500ユーロで、設備投資には地元州政府とEUの助成金を受けている。[4]

南部バイエルン州のMausdorfでは、住民が戸別暖房から地域暖房への切り替えを決め、2011年に組合形態(GbR)で地域暖房会社を設立した。地元農家8戸によるバイオガス発電(発電容量850kW)の工程熱と木材チップ暖房設備(原料は組合員が拠出)を利用し、約50戸に暖房を提供している。総投資額50万ユーロのうち5割を公的助成金で賄った。[5]また同じ頃、同村と隣村Pirkachの住民7人が有限合資会社Reuthwindを設立し、風力発電装置3基(各2MW)で電力事業を開始した。現在100人超の住民が組合員として参加している。[6]

 

政府、地域暖房網の促進措置を検討

ドイツのCO2総排出量の約18%を占める建物暖房・熱市場のトランスフォーメーションを推進するため、住宅・都市開発・建設省(BMWSB)と経済・気候保護省(BMWK)が現在、熱計画および熱供給網排出ゼロのための法(Warmeplanungsgesetz ? WPG) の立案を進めている。2030年までに同分野の5割を排出ニュートラルにするには、再生可能エネルギーへの転換に加え、地域暖房が大きな役割を果たすとし、「毎年10万所帯を地域暖房網に新接続」という数値目標を示している。BRGVは、特に技術的、経済的理由で既存の地域暖房網への連結が難しい辺境地域などでは、エネルギー協同組合は効果的かつ重要なソリューションになると見ている。従って、地域暖房網促進のための規定作りでは、エネルギー協同組合や市民イニシャチブなどエネルギーシェアリングを目的としたプロジェクトに対して、行政手続きや手数料などの負担が過剰にかからないよう配慮することを求めている。[7]

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] EU Directive 2008/2011 REDII Article 22 Renewable energy communities https://lexparency.org/eu/32018L2001/ART_22/
[2] Bundnis Burgerenergie https://www.buendnis-buergerenergie.de/aktuelles/news/artikel/2022-5-3/vom-bben-in-auftrag-gegebene-studie-zeigt-enormes-potenzial-fuer-energy-sharing-auf
[3] Energy Cooperatives in Germany: State of the Sector 2022 Report https://www.dgrv.de/wp-content/uploads/2022/07/DGRV_Survey_EnergyCooperatives_2022.pdf
[4] Energie Forum Feldheim https://nef-feldheim.info/the-energy-self-sufficient-village/?lang=en
[5] Energie Atlas Bayern https://www.energieatlas.bayern.de/energieatlas/praxisbeispiele/details,594
[6] Mausdorf hat Energie Info http://www.mausdorf-hat-energie.de/
[7] DGRV HP https://www.dgrv.de/news/fernwaermegipfel-genossenschaftliche-nahwaermenetze-als-wichtiger-baustein-der-waermewende/

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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