ドイツの大型電力蓄電システム導入の動向

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツでは再生可能エネルギー法(Erneuerbare Energien Gesetz= EEG)を2000年に導入し、同エネルギーの普及促進に本腰を入れたことから、電力消費量に占める再エネの比率が2000年の6%から2020年には46%にまで拡大した。だが、政策的な助成効果で風力・太陽光発電が急拡大するにつれ、電力系統への影響が問題視されるようになった。気象条件により発電・給電量が大きく変動することから、安定的な電力供給を図るために一定であるべき系統周波数を乱し、系統運用に支障を来すことがあるためである。同時に、電力需要が低い時間帯の場合、好条件下で発電する電力の供給が制限されるなど、経済的ロスも大きい。風力・太陽光発電が火力発電に代わる安定した電力供給源となるためには、大型蓄電システムの導入が必要であるという認識が強まった。これは発電事業者にとって、電力需要が大きい時間帯に、従って高い電力取引価格で系統に電力を供給できるという経済効果の大きいソリューションでもある。

 

国内最大のバッテリー蓄電システム、2014年に稼働開始

ドイツ北部Schwerinを拠点とする地方再生可能エネルギー会社WEMAGは2014年、ドイツで初めて商業規模の大型バッテリー蓄電システムを導入した。同社が運営する風力及び太陽光発電施設による系統周波数の変動を調整するのが目的である。当時欧州最大のリチウムイオン電池による蓄電システムで、Samsung SDIの二酸化マンガンリチウム電池(LiMnO2)2万5,600個を搭載し、出力は5MW。中圧トランスフォーマー5基を介して地域電力網および近隣の380kV高圧電力網に連結している。同プロジェクトは連邦環境省から130万ユーロの助成金を受けて実施された[1]。

この蓄電システムが技術面と経済性で満足できる結果を出したことを受けて、WEMAGは2016年に第2システムの設置を決め、翌年稼働を開始した。リチウムイオン電池合計5万3,444個による出力は2倍の10MW、蓄電容量は3倍近い14.5MWhに拡大した。バッテリー蓄電システムは通常、約50%の充電状態で、系統の周波数変動に応じて自動制御で迅速かつ精確に調整し、5MWの出力で一般的な50MW火力タービンに相当する調整力を持つという。発電機停止後の所内電源による起動(ブラックスタート)や送電再開のための無効電力の供給にも利用するため研究を進めている[2]。

 

大型蓄電システムの用途は工場等の社内消費調整にシフト

ドイツのアーヘン工科大学(Rheinisch-Westfalische Technische Hochschule Aachen)が国内の定置型蓄電システムの普及状況について行った調査[3]によると、2021年の新設蓄電システムの総蓄電容量は1.4GWhで過去最高となった。エネルギー価格の上昇やPV(太陽光)発電と蓄電装置のセット導入への助成金のおかげで家庭用小型システム(蓄電容量30kWhまで)の導入が非常に活発なためで、2021年末時点の同設置済み容量は3.5GWhに拡大し、蓄電システム総容量(約4.5GWh)の4分の3超を占める市場けん引力となっている。反面、大型蓄電システム(1MWh以上)については、過年に比べ10MWh以下の比較的低容量のシステムが多かったため、新設容量は36MWhにとどまった。これまで大型蓄電システムは、主に需給調整市場における一次調整力用(最も高い応答性が要求される調整力)に設置されてきたが、調整市場が満たされてきたことから、工場・大規模産業施設の社内消費やピーク電力調整を目的とするものに重点がシフトしてきた徴候と見られる。

ドイツでは再生可能エネルギー法(EEG)改正により、2020年から蓄電ソリューションの導入促進を目的とした電力市場価格プレミアムの入札が行われている。2020年の風力あるいは太陽光発電と、蓄電システムの統合プロジェクトでは、28プロジェクト(うち27が太陽光発電)が合計394MWを落札した。2021年は入札予定250MWに対し、割り当て量が258MW(18プロジェクト)、2022年は入札予定397MWに対し、258MW(18プロジェクト)が割り当てられた(両年とも風力発電との統合プロジェクトの応札なし)。従って、今後、再エネ併設・系統用蓄電システムの新設により大型蓄電システムの容量拡大に再び勢いがつくことが期待される。

 

蓄電システムの新市場 ― 系統ブースタープロジェクト

一方、連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur)は2019年末に2019-2030年までの電力網拡張計画を確認した際、蓄電システムによる系統電力ブースタープロジェクトへの支持を明確にした。系統ブースターコンセプトでの蓄電システムの役割は、系統の送電容量を最大活用し、最適利用を図ることである。送電量を逐次調整することにより、設備の安全性を高め、送電線の過剰な負荷を抑えるために必要となる発電量調整の頻度を減らす。また、安定的に送電できる最大送電量を高め、系統網拡張を最小範囲に抑えることにも貢献できると見られる。バーデンビュルテンベルク州の送電事業者Transnet BWが10月初め、国内初の系統ブースター計画を明らかにした。出力250MWと世界最大規模の大型蓄電システムによる系統ブースターをKupferzell変電所の隣に設置するプロジェクトである。独Siemensと米AESの合弁会社Fluence Energyがバッテリー蓄電システムを提供し、2025年の運転開始を予定する。このコンセプトを通して目指すのは、国内全域に系統ブースターを設置し、電力網を、インテリジェントに制御されたネットワークとすることである[4]。電力供給の安定化とエネルギーの効率的利用への貢献とともに、大型蓄電システムの新市場開拓への期待を込めて、プロジェクトに注目したい。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] WEMAG 2014年9月16日付プレスリリース
https://www.wemag.com/aktuelles-presse/blog/europas-erstes-kommerzielles-batteriekraftwerk-schwerin-eroeffnet
[2] WEMAG 2016年10月5日付プレスリリース
https://www.wemag.com/aktuelles-presse/baustart-fuer-erweiterung-des-wemag-batteriespeichers
[3] PVMagazine寄稿(アーヘン工科大学電気化学的エネルギー変換工学講座責任者JAN FIGGENER氏)https://www.pv-magazine.de/2022/03/15/rekordjahr-im-speichermarkt-privathaushalte-tragen-2021-gesamtzubau-von-rund-14-gigawattstunden/#:~:text=Insgesamt%20gehen%20wir%20von%20einem,die%20Batterieleistung%20etwa%20730%20Megawatt
[4] Transnet BW HP Netzbooster Kupferzell
https://www.transnetbw.de/de/netzentwicklung/projekte/netzbooster-kupferzell

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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