ベルリンでソーラー船が郵便小包を輸送、ドイツポストDHLが路上交通軽減・排出削減策として実証試験

LRI Energy & Carbon Newsletterから

ドイツ最大の郵便・物流グループ、ドイツポストDHL(Deutsche Post DHL)は2050 年の排出ニュートラル実現に向け、CO2の年間排出量を2030年までに2,900万トンに削減するという中間目標を掲げる(2020年の排出量は3,300万トン)。持続可能な航空燃料の比率を少なくとも30%まで拡大する、新設オフィス・物流施設を全て排出ニュートラルとする、ラストマイル(顧客先配達)車両の電動自動車(EV)比率を60%(8万台超に相当)に引き上げるなどの措置に、70億ユーロを投資する計画である[1]。

カーボンニュートラルで持続可能な物流企業への転換を進める中で、新しい視点からの実験的な取り組みも重要である。ドイツポストDHLは10月初め、ベルリンで、太陽光発電を100%動力源とする小型船(ソーラー船)を使った水上小包配送の実証試験に着手した。同社はベルリン管区内ではすでに郵便物・小包の配達に電動自動車(EV)約1,000台と電動バイク(二輪車・三輪車)1,700台超を投入し、同業務のほぼ50%を排出ニュートラルで行っている。ソーラー船プロジェクトでは、都市部の輸送ルートを路上から水上にシフトし、路上交通の軽減に加え、さらに排出削減につながる効率的なソリューションとなるかどうかを検証する。

ドイツポストDHLでは子会社DHL Expressが都市部の水路を物流ルートとして利用するというアイデアを国外ですでに実践しており、水路が発達しているベニスとアムステルダムでは10年以上前に水上輸送を導入した。ロンドンでも2020年に、ヒースロー空港のサービスセンターから市内配送センターへの郵便・小包配送を、テムズ川で小型船を使って行っている。これら都市での水路の利用が、深刻化する交通渋滞や大気汚染の軽減と配送ルートの効率化が主目的であるのに対し、ベルリンでは初めて排出ゼロの水上輸送を試みる。

 

プロジェクトの概要[2]

ソーラー船はルーフに太陽光パネルを搭載し、太陽光発電システムが駆動モーターと航行機器などの船内装備に電力を供給する。全長10.5メートル、全幅2.5メートルの小型船で、出力が5キロワット、最高時速が12キロメートル。雨天などで太陽光を直接利用できない場合、余剰電力を蓄電したバッテリーで6~8時間航行できる。プロジェクトではまず、ベルリンの北西郊外にある小包集配センターから配送車4、5台で約250個の小包をシュパンダウ区にあるSudhafen(南港)に運ぶ。そこからソーラー船が主要水路であるシュプレー川を100分程度航行して市内中心部のWesthafen(西港)に輸送し、電動バイクなどでラストマイル配達を行う。実証結果次第でソーラー船運用の規模拡大や、対象ルートをベルリン南部のノイケルン区等まで延長することも検討する。

 

プロジェクト提携先

Solarwaterworld AG[3]
当プロジェクトでは独自開発のソーラー船を提供し、運行を担当する。前身はソーラー船研究機関のベンチャーで、2001年に株式会社として設立された。ドイツ初のソーラーボートレース(1994年)と欧州のレース(1995年)でのプロトタイプ船の優勝や、ベルリンに国内初のボート用充電スタンドを設置するなど国内ソーラー船開発の先駆けである。現在はソーラーボート・小型クルーザー(最大乗員数8~180人)のレンタル・チャーターサービスのほか、ベルリンで観光船の運行も行っている。排出削減と騒音の少ない持続可能な水上交通の実現を企業ミッションとし、アフリカ、中東、東南アジアなどで現地政府と提携し、排出削減と環境保護を目的としたソーラー船プロジェクトを実施している。

ベルリン港湾倉庫会社(Berliner Hafen- und Lagerhausgesellschaft:BEHALA) [4]
ベルリン(都市州)が100%出資するドイツ有数の内陸港湾運営会社である。西港と南港は市内の陸上、鉄道、水上輸送を結ぶ物流基地となっている。マルチモーダル輸送のサプライチェーンの完全電化に取り組む政府助成プロジェクト「KV-E-Chain」に参加し、港湾施設内の運搬車両や機関車の電化を進めている。

 

無人ソーラー船を利用した輸送システムの開発

ベルリンではDHLソーラー船実証試験のきっかけとなったとも言える技術開発プロジェクトが2019年にスタートした。プロジェクト「A-Swarm(Autonome elektrische Schifffahrt auf WAsseRstrassen in Metropolenregionen、大都市圏の水路での電動船による自律航行)」は、ラストマイル配達のための分散型配送ハブとして小型船を使った輸送システムの開発を目指すもので、連邦経済省の助成を受けて今年8月まで開発、実験が行われた[5]。ポツダム造船実験所やベルリン工科大学が中心となりInfineon TechnologiesとVeinlandが自律航行に関わる技術を提供した。大気汚染と騒音がない持続可能な輸送であり、自律航行により人件費や人材不足の問題に対処する物流ソリューションとして、BEHALAの西港で運行試験が行われた。プロジェクトチームは郵便物の配送、廃棄物や物流の輸送で自律航行ソーラー船が活躍できると見ている。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] 2021年3月22日付Deutsche Post DHLプレスリリース https://www.dpdhl.com/en/media-relations/press-releases/2021/dpdhl-accelerated-roadmap-to-decarbonization.html
[2] 2022年10月6日付Deutsche Post DHLプレスリリース https://www.dpdhl.com/de/presse/pressemitteilungen/2022/deutsche-post-dhl-startet-pakettransport-per-solarschiff-auf-der-spree.html
[3] Solarwaterworld HP https://www.solarwaterworld.de/en/change-maker/
[4] BEHALA HP https://www.behala.de/en/
[5] TU Berlin 2022年2月25日付プレスリリース https://www.tu.berlin/en/about/profile/press-releases-news/2022/februar/a-swarm-autonomous-transport-boats

 

 

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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