風力タービンブレードのリサイクル

サプライチェーン全体で取り組むフランス研究機関主導のZEBRAプロジェクト  LRI Energy & Carbon Newsletterから

風力発電で世界をリードしてきた欧州は、使用済みタービンの処理問題にも、いち早く取り組む必要に迫られている。タービンは現在、全体重量の85-90%がリサイクルされているが、熱硬化性複合材(主に熱硬化型のエポキシ樹脂とガラス繊維の組み合わせ)でできているブレードは、軽量で高強度であるという長所がある反面、樹脂と繊維の分離が困難なことから、多くの場合、リサイクルされずに埋立廃棄されている。欧州の風力発電業界団体であるWindEuropeの試算によれば、2025年末までにドイツ、スペイン及びデンマークを中心に、年間2万5,000トンのブレードの処分が必要とされ、その後はフランス、イタリア及びポルトガルでの処分量が増加し、2030年までに欧州全体で年間合計5万2,000トンのブレードが処分されなければならない[1]。

 

欧州ではここ2-3年、ブレードのリサイクルに向けた取り組みが官民両サイドで加速している。WindEuropeは、2021年夏、リサイクル技術の開発を加速すべく、欧州委員会にブレードやその他の大型複合材の埋立廃棄を2025年までに禁止するよう呼びかけた。既にドイツ、オーストリア、オランダ及びフィンランドではブレードの埋立廃棄は禁止されている。フランスでも今年7月からタービンの全体重量の90%を、そしてブレードを含む風車部分(ナセル・ローター・アセンブリ)は2025年までに55%をリサイクルすることが義務づけられた。民間サイドでは、2019年、風力タービンメーカー大手Vestasが、業界に先駆けて2040年までに廃棄物ゼロタービンを製造する目標を掲げた[2]。2021年6月には洋上風力発電大手Orsted(デンマーク)がブレードを埋立廃棄しないことを公約し、続いて10月にスウェーデンの電力会社Vattenfalが同じ方針を即時実施に移すことを発表した。更に同年9月にはSiemens Gamesaが、Aditya Birla Advanced Materials(インド)との5年間の協働を経て、リサイクル可能なエポキシ樹脂システムを開発したことを発表した[3]。これは世界初のリサイクル可能な商用ブレードである。既にRWE Renewable(独)、EDF Energy(仏)及びwpd(独・再エネ開発事業者[4])とこの新たなブレードを使用したタービンの導入の協議を進めている[5]。

 

ブレードリサイクルの取り組みは、解体物の利用方法の開発(破砕しセメント材料の製造プロセスで利用するなど)、リサイクル技術(繊維と樹脂素材の分離回収技術など)の開発、そしてリサイクル可能な新たな素材の開発と、様々なアプローチがある。以下に紹介する、2020年9月に始動したZEBRAプロジェクトは、その最後のアプローチを取っている。

 

ZEBRA(Zero wastE Blade ReseArch)プロジェクト
ZEBRAプロジェクトは、欧州で進むブレードのリサイクルビジネスの実現に向けた複数の大規模プロジェクトの一つである。フランスの製造技術研究機関、IRT Jules Verneが主導する投資総額1,850万ユーロのプロジェクトで、ブレードリサイクルのバリューチェーン全てをカバーする主要企業6社が協力し、実行可能なブレードのサーキュラリティを実証するための戦略的なコンソーシアムを立ち上げ進められている。参加企業は複合材料関連部門から特殊材料大手Arkema社(仏)、複合材関連R&DサービスプロバイダのCANOE社(仏)、世界最大手のグラス繊維メーカー、Owens Corning社(米)、GE傘下のタービンメーカーLM Wind Power社(デンマーク)、世界トップクラスの風力発電事業者のENGIE社(仏)、そして廃棄物処理のSUEZ社(仏)である。

 

上記のZEBRAコンソーシアムは今年3月に、62メートルのプロトタイプのブレードの製造に成功したことを発表した。エコデザインの原則に基づく100%リサイクル可能なブレードである。複合材はArkema社開発の熱可塑性樹脂EliumRとOwens Corning社開発の高性能ガラス繊維、High Modulus Glassを採用している。この新たな熱可塑性樹脂をベースとする複合材は、従来の熱硬化性樹脂を用いた複合材と同様の性能を発揮するが、リサイクルしやすい。ケミカルリサイクルと呼ばれる先進的な方法を用いて樹脂を完全に解重合し、ガラス繊維を樹脂から分離し、樹脂原料とガラス繊維を再利用可能な状態で回収することができる。また、自動化による製造プロセスの開発・最適化も進め、製造に伴うエネルギー消費量や廃棄物の削減にも取り組んでいる。

 

プロトタイプのブレードは、この新たなリサイクル可能な複合材を利用してLM Windpowerが設計、製造した。現在同社はデンマークの試験検証センターでブレードの製造に使用した複合材料の性能と、このブレードの量産の実現可能性を検証している。今年12月までにこれらの試験を終了させ、プロトタイプブレードに使用された材料を新しい製品にリサイクルする方法の検証に進む。その後は、生産工程に伴う廃棄物のリサイクル、プロトタイプブレードの解体及びリサイクルを実施し、テスト結果を分析する予定である。ZEBRAコンソーシアムは2024年3月のプロジェクト終了までに、風力発電業界を循環型経済の中に組み込んでいくことを目指している。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] WindEurope, November 2020, How to build a circular economy for wind turbine blades through policy and partnerships. https://windeurope.org/wp-content/uploads/files/policy/position-papers/WindEurope-position-paper-how-to-build-a-circular-economy.pdf
[2] https://www.vestas.com/en/sustainability/environment/zero-waste
[3] https://www.siemensgamesa.com/en-int/explore/journal/2021/11/recyclable-blade; https://www.siemensgamesa.com/newsroom/2021/09/launch-world-first-recyclable-wind-turbine-blade
[4] 2022年5月、wpdは洋上風力発電事業をニューヨークに拠点を置くファンド・マネージャー、Global Infrastructure Partnersに売却することで合意。
[5] https://www.edf-renouvelables.com/en/siemens-gamesa-pioneers-wind-circularity-launch-of-worlds-first-recyclable-wind-turbine-blade-for-commercial-use-offshore/


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鎌田聡江(LRIコンサルタント パリ)
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