ドイツEV登録台数、助成金を追い風に100万台突破

2030年までにBEV1500万台目指す(LRI Energy & Carbon Newsletterから)

2020年春以降、新型コロナ禍で乗用車市場が冷え込む中でも、ドイツでは完全電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)ともに販売が好調で、EV時代への移行が軌道に乗ってきた感がある。連邦自動車庁(KBA)によると、2021年の新車登録台数はBEVが35万5,961台、PHEVが32万5,449台となり、BEVが初めてPHEVを上回った。総新車登録台数160万2,132台に占めるシェアは、大きく販売が落ち込んだガソリン車が37.1%、ディーゼル車が20.0%で、それぞれ1割近くシェアを失った。一方、EVのシェアは前年の13.6%から26%(うちBEVが13.6%、PHEVが12.4%)に急拡大した。年初の乗用車登録台数4,854万878台のうち、BEVが61万8,460台、PHEVが56万5,956台でいずれも前年の2倍に増え、EVモデル合計で118万4,416台となった[1]。

 

メルケル首相(当時)が国内EV登録台数を2020年までに100万台、2030年までに600万台に乗せるという目標を明言した2011年、実際の登録台数は約2,300台に過ぎなかった。当初は助成措置が5年間の自動車税免除にとどまり、EV普及促進に政府がまだ本腰を上げていないという印象が強かったが、2016年に導入した購入助成スキームが魅力的なインセンティブとなりEV購入に勢いがついた。また、コロナ禍による景気促進プログラムの一環で、従来の政府助成額と同額を上乗せするイノベーションプレミアムを導入したことも奏功し、2021年7月にEV登録台数は目標の100万台に達した。ただし、現政権(社会民主党・90年連合/緑の党・自由民主党連立で昨年12月発足)は、これはPHEVを含めた数値であって、前政権(キリスト教民主同盟・社会民主党連立)の政策的支援が中途半端だったと批判し、2030年までにBEV登録台数1,500万台という新目標を掲げている。以下は、前政権時から続く主なEV普及奨励措置[2]である。

 

1.EV購入助成スキーム(環境ボーナスガイドライン、Richtlinie zur Forderung des Absatzes von elektrisch betriebenen Fahrzeugen):2016-19年までに6億ユーロの予算をつけ、少なくとも30万台の新車EV購入を助成した。最高助成額は税前リスト販売価格が4万ユーロ以下のBEVは6,000ユーロ(+イノベーションプレミアム3,000ユーロ)、4万ユーロを超える場合は5,000ユーロ(+同2,500ユーロ)、PHEVは4,500ユーロ(+同2,250ユーロ)。助成額は政府とメーカーの折半で、メーカーが販売価格から割り引いた後、同額を国が助成する仕組みである。2021年1-6月の助成台数は25万8,000台超で、半年で2020年通年の25万5,338台を上回った。環境ボーナスは2025年末まで実施されるが、イノベーションプレミアムは今年末で打ち切られる。燃料電池車(FCV)も助成対象となるほか、リース車両として購入する場合にも適用される。2020年6月からは2019年11月以降に新車登録された中古車を購入した場合も助成対象となっている。

2.自動車税免除:新車登録から10年間、自動車税を免除する。2025年末までに新車登録した車両が対象となる。

3.充電インフラの増強:2019年までに高速充電及び一般充電を合わせてEV充電スタンド1,000基の設置を3億ユーロの助成金で支援した。同年8月時点で国内の公共充電スタンドは4万6,000以上で、2030年までに100万基の設置を目指している。また、技術安全性に関わる充電スタンド規定(2016年施行)の改正により、どのサービス業者のスタンドでも現金、銀行・クレジットカード、スマホアプリでの決済が可能なっている。2023年7月1日以降に設置するスタンドにはカードの非接触型決済が可能な支払いシステムが義務づけられる。

 

EVは自動車メーカーの多様なモデル展開で競合が本格化してきたが、それでも販売価格はまだかなり高い。2045年までにドイツが交通分野で排出ニュートラルを実現するための提言を行うシンクタンク、アゴラ(Agora Verkehrswende)は昨年末、「EVコストチェック(E-Auto Kostencheck)」[3]を発表した。ドイツ自動車連盟(ADAC)が保有する国内現行モデル8,000種のデータ(販売価格、維持費、車両価値損失額など)をもとに駆動タイプ別モデル別に新車購入価格と初期5年間の経費を合計した総コストを比較分析したもので、購入助成金を考慮に入れるとBEVが最もコストが低いという結果になった。この結果を消費者にもっとアピールする必要があり、購入助成スキームでは特に内燃エンジンモデルとの販売価格差が大きい中・小型EVモデルに重点を置くよう提言している。それと同時に、欧州排ガス規定に基づき適用される内燃エンジンモデルの自動車税減免率の引き下げ、自動車税とCO2排出量の連動、ガソリン・ディーゼルのCO2課税率引き上げなどにより、EVのコストメリットをもっと高めるべきだとしている。ただ、PHEVは助成金を考慮に入れた5年間の総コストが平均5万8,000ユーロで、BEVの5万1,000ユーロより高いうえ、一般的に電動モードで走行する距離が短いため排出削減メリットが小さいことを指摘している。現政権も、PHEVについては2023年から電動での走行率と航続距離の最低基準を設け、排出削減貢献度を厳しくして助成する考えを明らかにしている。ただ、基本的にEV助成金は2025年以降必要ないと見る一方で、EVの普及加速にどう政策的かつ具体的に取り組むのかはまだ明らかにしていない。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] Kraftfahrt-Bundesamt (KBA) 新車登録統計 https://www.kba.de/DE/Statistik/Fahrzeuge/Neuzulassungen/Jahresbilanz_Neuzulassungen/jahresbilanz_node.html;jsessionid=BA2ACBC41A8ED1147EE30A77E587D421.live11314
[2] 連邦経済気象省HP Electromobility in Germany https://www.bmwi.de/Redaktion/EN/Dossier/electric-mobility.html
[3] Agora Verkehrswende HP E-Auto-Kostencheck https://www.agora-verkehrswende.de/veroeffentlichungen/e-auto-kostencheck/

宮本 弘美 (LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
LRI ニュースレター エネルギー&カーボン
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