ドイツで導入広がるテイクアウト用カップのデポシステム

2023年から使い捨てカップのオプションとして導入を義務化  LRI Energy & Carbon Newsletterから

今年7月、欧州連合(EU)で使い捨てプラスチック指令(Directive (EU) 2019/904)が発効した。海洋汚染廃棄物の中で、特に問題視されている使い捨てプラスチック包装材(袋・容器)の大幅削減を目的としたもので、プラスチック製の使い捨て食器、カトラリーなどが使用禁止となった。

ドイツでは6月、EU使い捨てプラスチック指令を反映した新包装法(Verpackungsgesetz)が議会で可決された。新法ではプラスチック製品の使用制限も一段と強化され、飲料用PETボトル代徴収(デポジット)制度の適用範囲が広がった。これは購入時に容器代を徴収し、容器返却時に払い戻しする仕組みで、スーパーなどにはボトル自動回収精算機が設置されている。ミネラルウォーターや炭酸飲料の使い捨てPETボトルの回収・リサイクル率を高めるため2005年に導入されたが、来年からは全ての飲料のPETボトル・缶がその対象となる(牛乳・乳性飲料は2024年から)。2025年からはPETボトルの材料に再生プラスチックを最低25%混入することも義務付けられる。

新包装法では使い捨て容器の抜本的な削減を意図した規定も盛り込まれている。テイクアウト飲料・調理食品を提供する事業者には2023年から使い捨て容器のオプションとしてデポジット容器を提供することが義務付けられる。例えば、デポジット容器でホットドリンクを購入すると容器料が加算されるが、容器を返却すると料金が戻ってくる仕組みで、デポ容器は提携店舗どこでも返却可能を想定している。キオスクなどの小規模店舗はデポ容器提供義務を免除されるが、顧客が持参した容器への給仕を義務付けられる。連邦環境省はこの措置により毎年、28万トンに上るテイクアウト容器ごみを大幅に削減できると推測し、外食産業でデポ容器がテイクアウトの「新標準」として浸透することを期待している[1]。

ドイツの環境保護団体、Deutsche Umwelthilfe(DUH)は2015年、容器デポジットシステムを提唱した。市場調査会社TNS Emnidの調査推定によると、使い捨てカップの年間消費量は30億個で、1時間換算32万個のうちテイクアウトカップが14万個を占める。使い捨て容器は資源の浪費であると同時に、漏れ防止樹脂加工されているためリサイクルが困難なことを問題視したのである。これを受けて翌年以降、再利用カップを導入しようという動きが一部の都市で民間イニシャチブとして始まった。現在、地方自治体もごみ問題の観点からテイクアウトカップ・デポジットシステムへの関心を強めている。

 

RECUP―テイクアウト容器デポシステムで国内最大のスタートアップ企業[2]

2016年秋、二人の若者が「使い捨て廃止!(Einweg abschaffen!)」をモットーに、ミュンヘンでテイクアウトカップのデポシステム「RECUP」を立ち上げた。現在、飲料用「RECUP」に加え、調理食品用ボウル「REBOUL」も提供している。素材は製造上のエネルギー消費が比較的低く、リサイクル効率の良いポリプロピレン(PP)で、人体への悪影響の懸念があるビスフェノールA(BPA)などを含まず、100%リサイクルできる。耐久性が高く食洗機で200~500回の洗浄に耐える。「REBOUL」は耐熱温度85℃で電子レンジの加熱が可能で、冷凍庫での食品保存にも使える。現在、70以上の都市で自治体、飲食業界、小売業界など8,900超の提携先を擁し、テイクアウト容器デポシステム(カップ1ユーロ、ボウル5ユーロ)として国内最大のネットワークを構築している。同社のデポシステムは、ドイツ連邦環境庁(Umweltbundesamt)による環境を配慮した商品・サービスの認定マーク「Blauer Engel(青い天使)」を獲得している。

急成長の要因の一つが地方自治体との提携である。Volkswagen(VW)の本拠地であるヴォルフスブルク市では環境・持続可能性政策の一措置として2018年夏、市のプロジェクト実行子会社がRECUPと提携し、VWの博物館・体験パーク(Autostadt)でテイクアウトカップデポシステムのプロジェクトを実施した。現在、市内の飲食小売・サービス業者にも参加が拡大し、地域飲食業連盟との提携で「REBOUL」も導入している。南西部の主要都市シュトゥットガルトは持続可能なごみ削減策として、カップデポシステムの導入に2018、19年合わせて60万ユーロの予算をあて、RECUPとの提携で2019年10月にサービスを開始した。参加事業者は約150に拡大し、現在、食器洗浄サービス会社との提携によるカップの一括洗浄体制やカップ自動回収機の設置も準備中である。

RECUPの本拠地であるミュンヘンでは地元サッカーチームFCバイエルン・ミュンヘンのホームスタジアムが昨年、使い捨てカップを完全廃止し、「RECUP」に切り替えた。シェルは国内1,300超のガソリンスタンドのショップに「RECUP」を導入し、ホットドリンク2割引というインセンティブを設けて利用を促している。

ドイツでは2023年からデポ容器のオプション提供が義務付けられるため、全国展開する大手ファーストフードチェーン、コーヒーショップ、スーパーがどのような対応策を取るか今後注目される。消費者の環境意識が一段と高まりデポ容器ニーズが急拡大すれば、テイクアウトの「新基準」として認識されるのにあまり時間はかからないだろう。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 環境省2021年 付プレスリリース https://www.bmu.de/pressemitteilung/mehrweg-wird-moeglich-im-to-go-bereich
[2] RECUP Website https://recup.de/

宮本 弘美 (LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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