欧州委員会、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を提案

LRI Energy & Carbon Newsletterから

欧州委員会は、2021年7月14日、2050年気候中立に向けた一連の気候関連措置から成る「Fit for 55パッケージ」[1]を発表し、その一環として「炭素国境調整メカニズム(Carbon border adjustment mechanism:CBAM)[2]」を提案した。EUが気候対策を強化し、排出基準を厳格化する一方で、EUより排出基準の低い第3国への生産拠点の移転や、これらの国からの輸入の増加といったカーボンリーケージのリスクに対処するための新メカニズムとなる。これまでEUは、 ETS(排出権取引制度)の下で、特にカーボンリーケージリスクの高い分野に対し排出権を無償で割り当てることでこういったリスクに対処してきたが、欧州委員会は、このような無償割り当てを段階的に廃止し、CBAMを主要なリーケージ対策措置と位置付けていくことを提案している。

CBAMは、EUよりも排出基準の低い第3国からの輸入品に対し、製品の含有排出量(Embedded emission)に見合う炭素価格を輸入時に課す新メカニズムである。欧州委員会による主な提案内容は以下の通りとなる:

 

対象
CBAMの対象となる分野は、欧州委員会提案の下では、セメント、電気、肥料、鉄鋼、アルミニウムの5分野となるが、今後さらに化学物質等の分野まで拡大する可能性がある。なお、CBAMは、施設からの排出を対象とするETSとは異なり、製品を対象としており、欧州委員会は、各分野で対象となる製品グループおよびHSコードを提案の付属書Iで列挙している(対象製品グループのHSコードは脚注を参照)[3]。

 

実施方法
対象商品を輸入する域内事業者は、自国の当局に登録の上、毎年5月31日までに前年期のEUへの対象商品の輸入量および含有排出量を報告する。その上で含有排出量1トン当たりごとにCBAMデジタル証明書を購入・提出しなければならない。デジタル証明書の価格はEU ETSの下での炭素価格と連動する(前週のETS全入札の平均終値)。なお、原産国において炭素価格が支払われている場合には相当額の負担を控除することが提案されている。

 

導入時期
まず2023年~2025年までを移行期間とし、輸入事業者には報告義務のみが課される。その後、2026年から本格的な適用が開始され、輸入事業者にはデジタル証明書の購入・提出が求められることとなる。しかし、2026年から全ての輸入品が対象となるわけではない。欧州委員会は、Fit for 55パッケージの下で同時に提案したEU ETSの見直しで、現在カーボンリーケージ対策として使用されている排出枠の無償割り当ての段階的廃止を提案しており、その無償割り当て枠の削減量に比例したCBAMの段階的な導入を提案している。最終的に、全製品がCBAMの対象となるのは(そして、ETSの下で無償割り当てが完全に廃止されるのは)、2036年と見込まれている。

 

地理的適用範囲
欧州委員会提案の下では、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス、その他加盟国の飛び地等が適用除外対象となっているほか、EU-ETSに完全に統合されているか連携協定がある排出権取引制度を有する第3国に関しては、適用除外の有無が個別に判断されることとなる。欧州委員会によれば、すでにカーボンリーケージ対策としてCBAMの自国への導入を検討している第3国もあるといい(米国やカナダ、日本など)、今後こういった国との連携が進められる可能性は高い。

 

今後の手続き
今後、欧州委員会提案に基づき、欧州議会およびEU理事会による共同立法手続きが進められていくこととなる。欧州委員会は2022年頭の合意を目指したいとしているが、特に、CBAM対象分野へのETSの下での無償割り当ての段階的廃止を巡っては、対象分野から批判が挙がっている(ETS無償割り当てとCBAMの併用を求めている)ほか、欧州議会もこのような併用を支持する立場を取っている。さらに、新メカニズムの影響を受けるトルコやロシア、中国、オーストラリアといった第3国からの批判も出ており、立法に向けた交渉は難航することが予想される。

 

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

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[1] 欧州委員会のCBAM案 https://ec.europa.eu/info/sites/default/files/carbon_border_adjustment_mechanism_0.pdf

[2] Fit for 55パッケージは、欧州気候法 の下で法制化された2050年気候中立目標および2030年温室効果ガス排出55%削減目標(1990年比)の達成に向けた一連の具体的な措置から成り、EU ETS(排出権取引制度)の見直しや再生可能エネルギー指令の見直しなど13の措置が同時に発表されている。https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_21_3541

[3] セメント: HS252310、HS252321、HS252329、HS252390
電気:HS271600
肥料:HS280800、HS2814、HS28342100、HS3102、HS3105(HS310560を除く)
鉄鋼: HS72(HS7202およびHS7204を除く)、HS7301、HS7302、HS730300、HS7304、HS7305、HS7306、HS7307、HS7308、HS7309、HS7310、HS7311
アルミニウム:HS7601、HS7603、HS7604、HS7605、HS7606、HS7607、HS7608、HS760900

市原里江 (LRIコンサルタント ブリュッセル)
関連サイト
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