企業が発表した中長期の経営計画やビジョンから、インフラ投資ビジネスに関する戦略をいくつか紹介する。
一口に中長期経営計画といっても、ただ希望を並べただけのものから、説得力を持った実行戦略まで各社各様だ。良質な計画は市場動向の把握・分析が的確で、なぜそうなるのかを自らの言葉で語っている。さらに、実現への道筋を示し、「投資してみたい」「一緒に仕事をしてみたい」と感じさせる。一方で残念な計画は、政府の成長戦略を切り貼りしたようで、ストーリーが見えない。
そんななかにあって、PPP(官民連携)市場の未来を明確に描いたのが前田建設工業グループだ。「財政上の制約から特に新規建設の請負市場は縮小していく」という認識の下、2030年度のPPP市場規模を約40兆円と想定。新たな市場として、グリーンフィールドのコンセッションによる新規建設工事と、利用料金の徴収を伴わないPPP(アベイラビリティ・ペイメント方式など)を織り込んだ。2030年度に営業利益1000億円以上、純利益700億円以上の目標を掲げる。
メタウォーターも同様に、PPP市場の拡大を見込んだ。PPPはDB(設計・施工)やDBO(設計・施工・運営)を含む大型案件の増加を想定し、売り上げ貢献度が高い成長分野と位置づけた。実は、前田建設もメタウォーターも、複数のコンセッション事業を勝ち取った経験者。グリーンフィールドのコンセッションでは、事業運営を担うSPC(特別目的会社)が発注者になれる。先が読めている分、計画も具体的だ。
JFEはグループで洋上風力発電を囲い込み
政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言して以降、脱炭素化ビジネスの競争が一気に激化した。エネルギー系の大企業や商社は、再生可能エネルギー電源の確保や炭素抑制に、海外での事業化も含めてあらゆる手を打とうとしている。
市場の成長が確実視された事業分野に洋上風力発電がある。これをグループで囲い込もうというのがJFEホールディングスだ。エンジニアリング、鉄鋼、商社、造船の各事業分野のグループ企業がそれぞれ得意分野で関与し、O&M(運用・保守)にはグループ全体で取り組む。ゼネコンの鹿島は、洋上風力発電工事のための新造SEP船を武器に、競争力を発揮していく。2023年度に再エネ分野の売上高300億円を目指す。
環境・エネルギー事業の売上高目標は2023年度に15億円と大きくないが、開花しそうな再エネのテーマを複数取り込んだのは西松建設。連携企業との蓄電池事業、異業種企業との小水力発電事業、屋根置き太陽光発電事業などを挙げた。三菱マテリアルは計画を見直し、従来から目標としてきた「地熱開発のリーディングカンパニー」に加えて、小水力発電を追記した。政府はこれら再エネの規制緩和に向けて、アクセルを踏み込んでいる。
日揮の長期経営ビジョンは、社会の変化を自社の変化に重ねた。2040年に目指すグループの姿として、「エネルギートランジション」をビジネス領域の60%を占めるコアと位置づけた。オイル&ガスの低・脱炭素化とクリーンエネルギーの拡大でトランジション(移行)を成就させる。低・脱炭素化はCO2回収、クリーンエネルギーは再エネ拡大、蓄電池導入、水素・燃料アンモニア導入などがメニューだ。
セカンダリー案件の取り込みも
セカンダリーマーケットでの稼働済みインフラの売買を前提とした計画もある。大和証券グループの大和エナジー・インフラは、ファンド化で外部資本を導入するとともに、キャピタルリサイクリングで売却益を得る作戦だ。2020年度末に1170億円の投資残高を、2023年度末に2000億円程度、中長期には3000億円を視野に入れる。
ウエストホールディングスは2020年10月に発表した中期経営計画で、FIT(固定価格買取制度)後の市場を見据えて戦略を描いた。FITで早めに投資回収が終わった太陽光発電所を買い取り、発電効率向上のための修繕やO&Mの見直しで収益力高めて販売する。このメガソーラー再生事業を成長エンジンとし、50億円ほどの売上高を、2023年8月期に335億円に伸ばす意向だ。
傘下に上場インフラファンドを擁し、発電事業を手掛けるタカラレーベンも、FIT後に目を向ける。計画では、「脱FITに向けたビジネスモデルの構築」と「電力の相対取引への積極的参入」を掲げた。太陽光エネルギーは市場のさらなる成長・拡大が見込めるとして、電力の需要家に直接、電力を売るPPA(電力購入契約)モデルを展開していく。再エネ発電事業の実績が豊富な東急不動産も、非FIT事業の拡大に言及した。
金融手法を駆使するのはみずほリースだ。事業運営、エクイティ出資、メザニンローン、リースなどのソリューションで、再エネ電力資産の残高増を狙う。