洋上風力発電事業者の再エネ海域からの撤退を受け、経済産業省・国土交通省は当事者へのヒアリングなども経て2025年12月、事業撤退要因の分析、今後の公募要件の見直し、現在進行中の事業の完遂に向けた環境整備策を公表した。
三菱商事と中部電力は25年8月、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電事業の3海域(秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖)からの撤退を表明した。21年12月の事業者選定ラウンド(R)1で、三菱商事グループや中部電力の子会社を中核とするコンソーシアムは3海域の事業を圧倒的な低価格で総取りしたものの、新型コロナウィルスの蔓延やウクライナ危機に端を発したサプライチェーンの逼迫、インフレ(物価上昇)、為替、金利上昇の影響で建設費が公募当初時点の見積もりの2倍以上に高騰したため、事業継続が困難になった。三菱商事は24年度に524億円の減損損失を計上。中部電力は24年度の186億円に加えて、25年度に170億円の減損損失を計上する。
以下、事業撤退要因の分析、今後の公募要件の見直し、現在進行中のR2とR3の事業完遂に向けた方策を、経産省・国交省の資料を基にまとめる。事業撤退を教訓に現時点での改善策が網羅されているが、グローバルなサプライチェーン(供給網)に依存している国内洋上風力発電事業の市場環境の厳しさに変わりはなく、進行中および今後の事業の実施状況を市場環境とともに注視していくことが求められる。
あまりの低価格で諸策を講じてもコスト増を賄いきれず
事業撤退の要因分析は「公募当時」と「公募選定後」に分け、下記の通り整理している。公募当時の要因としては「安価な価格とそれを誘引した公募制度」など、公募選定後の要因としては「事業環境の変化(インフレ、為替、金利)による建設費の増加」、「コスト増を賄うだけの収入確保の困難」を挙げた。
(1) 公募当時の評価基準と事業計画
- 価格点評価と供給価格:安価な価格とそれを誘引した公募制度
- 事業実現性評価:精緻な評価の不十分性
- 事業計画の詳細:地盤調査結果による設計変更等
(2) 公募選定後の事業環境の変化
- 事業環境の変化などによる建設費用の増加:事業環境の変化(インフレ、為替、金利)、風車調達費(風車製造費、輸送費、施工費など)の増加、洋上工事費(基礎部材費、基礎設置費、洋上送電ケーブル製造・施工費など)と陸上工事費(送電ケーブル製造・施工費、変電所建設費など)の増加
- コスト増加に対応した収入確保の困難:FIP(フィードインプレミアム)制度への移行、価格調整スキームの導入、海域占用期間の予見可能性確保(期間延長)を講じても事業収入確保は困難(FIPを導入しても大幅なコスト増を賄うだけの高額な価格水準で長期PPAを締結できるオフテイカーが不在。価格調整スキーム、占用期間延長の導入を合わせてもコスト増を賄うだけの収入は得られない)
次に、事業撤退の要因分析を踏まえたうえで、公募制度の課題を挙げている。
- インフレ等による資材価格等の変動リスクへの対応が不十分な供給価格の設定
- 入札前に事業者に提供される促進区域の地盤などのデータ提供方法
- 再エネ価値を高く評価する需要家(オフテイカー)の不足
- 風車メーカーやサプライヤーなどとの価格交渉力の確保のしづらさ
- 海外のサプライチェーンへの依存
- 事業実現性が相対的に過小評価され得る価格点の設計
- 撤退時におけるルールの不明瞭さ
- 基地港湾の柔軟な利用のあり方
- 供給価格の決定からファイナンスクローズに至るまでの期間の長さ
事業実現性評価点の配点見直しと準ゼロプレミアム水準の設定
公募制度の諸課題を受けて、R4以降の見直しについて以下の具体策を実施するとしている。
- 事業実現性評価点の配点の見直し
- より精緻な事業実現性の採点
- 迅速性の配点の引き下げとスケジュールの柔軟性の確保
- 適切な供給価格での入札が実施されるための価格点の設計
- 落札制限の適用
- 選定事業者が撤退した際のルール設定
このうち、「事業実現性評価点(120点満点)の配点の見直し」については以下の変更を行う(下図)。
- 過度な迅速性を追求すると、実現性の乏しい事業計画が提出される可能性があることを考慮し、迅速性評価の配点を20点から10点に。
- 事業完遂の観点から、計画の実行面に関する配点を20点から25点に。
- 産業基盤の確立などに資するサプライチェーン形成を評価する観点から、電力安定供給の項目の名称を変更し、評価点を20点から25点に。

(出所)経済産業省・国土交通省
また、「適切な供給価格での入札が実施されるための価格点(120点満点)」について、R2とR3では、1事業者でもゼロプレミアム水準(3円/kWh)で入札した場合、事実上、他事業者もゼロプレミアム水準で入札しなければ落札できない仕組みとなっていた点を踏まえて、以下に改める。
- R4以降は、事業実現性評価の点数によっては準ゼロプレミアム水準(ゼロプレミアム水準からの価格上昇による評価点の下落を緩やかにし、入札価格の選択の余地を確保するために設定される価格基準)で入札した事業者が落札可能となるよう、約16点(R2における選定事業者と次点事業者の事業実現性評価点の点差の平均値)を120点から引いた104点をその価格点とする(下図)。
- 事業完遂のために必要と考えられる水準を前提としたうえで、事業者が「現実的な創意工夫を講じることを想定した価格」と「供給価格上限額」の間の価格幅として、新たに想定供給価格幅を設定し公開することとする。

(出所)経済産業省・国土交通省
R2とR3の事業者は長期脱炭素電源オークションへの参加可能
一方、R2とR3については黎明期の事業と位置づけ、計6事業を完遂させるための環境整備について議論している。公募占用計画の変更によって、⻑期脱炭素電源オークションへの参加を認めることなどに配慮した。ただし、物価変動を反映する価格調整スキームも適用するものの、反映するのは当該措置適⽤後の将来の物価変動にとどまり、公募開始時点までの遡及適⽤は不可とした。
下記に挙げる具体策のうち、 (1)~(3)(方針決定)はR2とR3の事業者のみが対象、(4)~(7)(整理・検討中)はR4以降の選定事業者も対象に含める。
(1) ⻑期脱炭素電源オークションへの参加
R2&3の事業のゼロプレミアム案件(公募占⽤計画における供給価格を0円/kWhに変更することを要する)にのみ⻑期脱炭素電源オークションへの参加を認め、R4以降の公募では⻑期脱炭素電源オークションへの参加は想定しないこととする。
(2) 価格調整スキームの公募開始時点までの遡及適⽤
24年の制度⾒直しによって、R4以降は物価変動による価格調整スキームを適⽤する。R2とR3についても保証⾦の増額を含む新制度を受け⼊れる場合は価格調整スキームを適⽤(当該措置適⽤後の将来の物価変動を反映)する。
公募開始時以降の物価変動の反映は、公募競争の要素に与える影響が⼤きいことや価格調整スキームの前提と齟齬が⽣じる点も考慮し、現時点で適⽤することは困難である。
(3) 公募占⽤計画変更に係る柔軟な対応
R2とR3で事業継続のためにやむを得ない場合は、⻑期脱炭素電源オークションの活⽤や⾵⾞メーカーなどの変更、これらに伴う資⾦収⽀計画の変更やスケジュールの遅れなどによって審査および評価の結果が下がる⽅向での変更を含め、公募占⽤計画の変更を柔軟に認める。
(4) 基地港湾の柔軟な利⽤を促進する仕組みの構築
(5) ⼀定要件下における海域占⽤許可の更新の原則化
(6) 再エネ価値が適切に評価されるための環境整備
(7) 脱炭素電源に係る投資促進に向けた⽀援


