水電解工程の副産物有効利用で水素生産の経済性を向上

ドイツ産学提携プロジェクトIntegrH2ate
ドイツはグリーン水素及びアンモニアやエタノールなど同派生製品を低コストで安定的に調達できるよう、中東や北アフリカ諸国との輸入提携を進めるとともに、2030年の水電解装置容量10GWの設置を目標に掲げ、国内の生産能力増強に注力している。水素産業のバリューチェーンを構築し、鉄鋼やセメント業界など排出ニュートラル実現にグリーン水素が不可欠な大口需要家の近くで供給できる体制を整え、予期せぬ調達リスクに備えるためである。
電解装置の標準生産化技術の開発に取り組むH2Giga[1]は、ドイツの未来の地場産業として水素バリューチェーンを構築するために、連邦研究・技術・宇宙省(BMFTR)が立ち上げた助成プロジェクトのひとつである。同プロジェクトは4つの分野に分けられ、約30の個別プロジェクトから構成されている。量産技術に取り組むScale-upではGW規模の電解装置の製造自動化を研究する。新しい処理方法・工程に取り組むNext-Generation-Scale-upでは貴金属を使わない電解方法の開発と比較的大きな規模での実験を行うとともに、製造コストを抑え量産工程の単純化につながるようなコンポーネントの設計にも取り組む。Innovationspoolでは水電解装置の新素材と生産技術の検証に焦点を当て、プロセスやコンポーネントの研究開発を行う。Plattformプロジェクトは産学間での電解技術に関わる新たな知見の交換を促進するとともに、人材育成や行政手続きなど技術以外の課題にも取り組む。
IntegrH2ate-水素生産の経済性向上のためのソリューションを実験
水素を国内生産するうえでは、コストを抑え経済性を高めることで競争力を維持し、価格安定化につなげることが重要になる。上述のScale-upプロジェクトのひとつであるIntegrH2ate[2]は、水電解工程で発生する排熱と酸素を有効利用することで、水素生産の投資及び運転コストの低減につながるソリューションの開発に取り組んでいる。経済性の向上は事業投資の重要なインセンティブとなるからである。
本プロジェクトは、水電解工程の副産物を利用するコンセプトLA-SeVe(Laboranlage Sektorengekoppelte Verwertung der PEM-Elektrolyseprodukte)の検証を目的に、産業ガス大手のLindeとFraunhofer IEG(フラウンホーファー・エネルギーインフラ・地盤工学研究所)が共同で、ポーランドとチェコに国境を接するドイツ東部のZittauで実施している。地元公益事業会社の敷地内に、大型ヒートポンプ(最高熱出力105kW)に連結された水電解装置(250kW)を設置して、今年9月に排熱を地域暖房網へ供給する試験を開始した。通常50℃前後の水電解装置の排熱を、ヒートポンプで90-95 ℃に引き上げることにより地域暖房網への供給に適した熱にしている。システムの稼働時間が全負荷で年間2,400時間程度の運転ができれば、年間約240MWhの熱供給が可能と試算する。中期的には鉄鋼などの水素需要家との連携を目指している。本プロジェクトが着目するもう一つの副産物である酸素については、医療分野や化学産業で利用できるよう、酸素を精製し圧縮して供給するための技術やプロセスの開発に取り組む。
LA-SeVeコンセプトには、固体高分子(PEM)型の水電解装置が採用されている。PEM型電解装置は水電解効率が高く小型化しやすく、また負荷交換による影響が小さいため再生可能エネルギーによる水素生産に適しているという特性がある。IntergH2rateは、PEMに加えてアルカリ(AEL)型と固体酸化物(SOEC)型の水電解技術の標準モジュールの開発にも取り組んでいる。
本プロジェクトは、産業スケールに近い工程をテスト・評価するための実験インフラとして、変化のある運転状態で排熱と酸素を最適に利用する方法を検証しているが、電解装置のメーカーやオペレーターが二酸化炭素のメタン化、酸素・水素の圧縮、水素バーナーなど副産物の利用に関わる工程やコンポーネントを、現場に近い環境で試験するためのプラットフォームとして利用することもできる。プロジェクトはBMFTRから約1,000万ユーロの助成金を受けて2022-25年まで実施される。
水電解装置は大型化へ
ドイツエネルギー公社(Deutsche Energie-Agentur = dena)によると、水電解装置の国内設置済み容量は2020年の33MWから2025年7月時点で約170MWに拡大した。現在計画中のプロジェクトの総容量は626MWで、このうち210MWが年内の稼働を予定している。Denaのデータバンクに登録されているプロジェクト[3]のうち、2030年までに稼働する水電解装置の総容量は8.1GWだが、計画の遅れや中止の可能性があるため、現実的には2.3~4.5GWと見られる[4]。今後は数10~100MWの大型システムの設置が進む観測で、今年3月には化学大手BASFが国内最大規模の容量54MWのシステムを稼働させた。本拠地Ludwigshafen工場の生産工程・インフラに組み込まれ、毎時最高1トンの水素を供給している[5]。エネルギー大手RWEも水素事業拠点であるLingenで現在、100MWのアルカリ型水電解装置の設置を進めている。2027年までに同拠点の水電解能力を段階的に300MWまで拡大する計画である。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy & Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。

[1] Die H2Giga Projekte im Detail https://www.wasserstoff-leitprojekte.de/leitprojekte/h2giga/projekte 
[2] 2025年9月11日付プレスリリースH2Giga-Projekt IntegrH2ate  https://www.wasserstoff-leitprojekte.de/aktuelles/news/eroeffnung_la-seve 
[3]? 2025年4月現在、約230のプロジェクトが記録され、稼働開始および稼働予定は2007年~2040年に及ぶ。
[4] DENA 2025年7月24日付プレスリリースWasserstoffEnergie erzeugen & verteilen https://www.dena.de/infocenter/elektrolysekapazitaeten-in-deutschland/
[5] BASF 3月17日付プレスリリース https://www.basf.com/global/de/media/news-releases/2025/03/p-25-046

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
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