ドイツ新政府は今年春、2030年の太陽光発電(PV)設備容量の目標を前政権の100GWから約215GWに大きく引き上げた。ドイツ太陽光発電事業連盟(Bundesverband Solarwirtschaft e.V., BSW)によると、昨年末時点のPV設置済み容量(系統連結分)は60GWで、政府が2040年に400GWを目指すならば抜本的な施策が必要である。ドイツではこれまで平地型PVの立地は耕作放棄地、旧工場や軍施設の敷地など周辺の土地と仕切られている土地の転用、あるいはアウトバーンや鉄道脇の未利用地など一般の利用目的には不利な形状・場所の土地におおむね制限されていた。農業や自然環境への悪影響が懸念されるためだが、太陽光発電を大幅拡大するため、農地や農業関連の湿地を利用し農業と発電の両立を実現する営農型太陽光発電(Agrivoltaics、アグリPV)を奨励する方針を決めた。連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur)が毎年実施するイノベーション入札は、太陽光・風力ハイブリッド発電や太陽光発電・蓄電システムなど再エネ技術を組み合わせた刷新的なプロジェクトに対する電力優遇買取価格の入札だが、今年新たにアグリPV、貯水池などを利用した浮体式PV、駐車場屋根型PVなど、土地を複数目的で利用する「特別ソーラーシステム」も新たに対象になった。今回落札した12のアグリPVプロジェクトの総発電容量は21MWに上る[1]。
ドイツ農業事業者連盟(Deutscher Bauernverband, DBV)は、効率的な土地利用やエネルギー転換政策に貢献するとともに、農業事業者にとっても新たな収入源につながる可能性があるとしてアグリPVを歓迎している[2]。国内の農業利用面積は約1,670ヘクタールで、このうち60%が飼料(放牧地含む)、22%が食糧、14%がバイオガスやバイオエタノールなどの原料となる「エネルギー植物」の生産に利用されている。政府は農地を利用することで太陽光発電を最大200GW増やすことができると見ている。
Nex2SunのアグリPV新コンセプトは垂直設置型両面モジュールPVシステム
アグリPVでは作付けした地面の上に高く間隔を開けて設置する高架式が一般的であるが、ドイツのスタートアップ企業、Next2Sunは全く異なるアグリPVコンセプトを提供している[3]。最大の特徴は、垂直設置型PVシステム(写真)という点である。PVモジュールを主に南向きに、水平あるいは傾斜させて設置するのが一般的であるのに対し、東西方向に垂直に設置し、両面モジュールを使って双方向から受光し、朝夕に発電量のピークを実現する。このため、一般的な太陽光発電の電力供給量が下がる時間帯に、高い売電価格で系統に電力供給できるというメリットもある。PVモジュールの設置間隔は最低8メートル、もしくはトラクターなどの大型農機が作業できる広さを設けて列状に設置されるためあまり場所を取らず、降雨や日当たりにもほとんど影響がないので作物の成長が損なわれない。生態系への影響も非常に小さいという。「再生可能エネルギーと持続可能な農業の未来志向な共存に取り組む企業」として、同社は2020年のドイツソーラー賞(EUROSOLAR e.V.とノルトライン=ウェストファーレン州エネルギー庁が主催)を受賞している。
Next2Sunは2015年の設立後まもなく、ドイツ南西部ザールラント州で地元再生可能エネルギー開発会社、Okostrom Saarと共同で乳牛放牧地での垂直型PVの実証プロジェクトを行った(設備発電容量2.8kW、年間発電量31MWh)。2020年にはバーデンビュルテンベルク州のドーナウエッシンゲン・アーゼンでアグリPV発電プロジェクト会社、Solverde Burgersolarkraftwerkeと提携し、欧州最大規模のアグリPVを設置した。耕作放棄地14ヘクタールを再利用した牧草地に最長400メートルのモジュールシステムを33列設置し、系統に電力供給している(総発電容量4.1MW、年間発電量4,850MWh)。2021年には仏Total Energiesの再生可能エネルギー子会社、Total Quadranとアルザス地方を除くフランスでの市場開拓で提携し、現在、仏東部シャネ(発電容量237kW、年間発電量124MWh)と、北部ヴァルピュイゾー(発電容量111kW、年間発電量124MWh)で実証試験を行っている。メラルダーレン大学が実施するスウェーデン初のアグリPV実証プロジェクトにも採用された(発電容量33kW、年間発電量37MWh)。エネルギー庁の助成を受け、スウェーデン農業科学大学など地元大学のほか、伊ミラノの聖心カトリック大学、米NASAも参加している。日本でも福島県二本松市の畜産用牧草地に国内初の垂直設置型アグリPVとして同社技術が採用された。
設置に広い面積を必要としない垂直設置型PVは、土地の囲いや柵としてのシェアリングソリューションの需要も期待できる。アイルランドでは畜産農家が乳牛放牧地の柵(発電容量25~27kW)として、オーストリアでは放し飼い養鶏場の囲い(同53kW)や個人住宅のフェンス(同3.42~11.4kW)などの目的で設置され、電力は主に自家消費されている。太陽光発電の大幅拡大には、用地問題を克服できる柔軟なソリューションが今後ますます重要になってくるであろう。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] Bundesnetzagentur 2022年5月11日づけプレスリリース https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2022/20220511_Solar.html
[2] Deutscher Bauernverbandウェブサイト https://www.bauernverband.de/dbv-positionen/positionen-beschluesse/position/agri-photovoltaik
[3] Next2Sun ウェブサイト https://www.next2sun.de/en/