2050年までに排出ニュートラルを目指すEUグリーンディール政策は、循環経済（Circular Economy）の基盤確立を目標達成のための重要な要因の一つに掲げている。2020年3月に発表した行動計画（Aktion Plan）に沿い、循環経済の基準策定作業が始まっているが、ドイツでも、豊富な資源を前提とした既存の価値創出モデルから、資源の生産性（利用効率）と再利用率の高いビジネスモデルへのパラダイム転換を目指す動きが進んでいる。
連邦教育研究省、連邦環境省、連邦経済テクノロジー省の助成を受け、経済、学術、民間分野から50以上の組織・団体の参加のもと、2019年にCircular Economy Initiative Deutschland (CEID)が発足した。活動の目的は、資源・材料とエネルギーの生産・消費サイクルを環境的観点から最適化した循環経済の実現に向けた計画を策定するための提案を行うことである。循環経済をシステムとしてどう構築するかという課題に、次の3分野からアプローチしている。
- 循環型ビジネスモデルとイノベーションの駆動力となるデジタル技術
- バッテリーとパッケージングに関わる新しい価値創出ネットワーク
- 循環経済への転換と国民経済上の潜在能力を測るための基礎となる条件
2030年に循環経済のブレークスルーを目指し、まず準備段階として2024年までに移行への軌道を敷き、2027年までに構造を創出することを提案している。
CEIDの循環型ビジネスモデル作業グループは、2021年2月までの調査研究をまとめた報告書「循環型ビジネスモデル（Ziekulare Geschaftsmodelle: Barrieren uberwinden, Potentiale freisetzen）」[1]の中で、循環経済促進のためのビジネスプラクティス実践ロードマップへの提案を示した。
- 産業界は新しい循環経済型ビジネスモデルと、これに関わる急進的な刷新（製品、プロセス、組織形態）を試み、これに投資する。
- 政府は資源・環境への影響を考慮した「真のコスト（true-cost）」に対する市場フレームワークを開発し、循環経済プラクティスへの支援措置（インセンティブ）を提供する。
- 規制フレームワークを開発し、規制上のバリアを排除する。
- 製品・材料レベルでの基準の策定と協調化を支援する。
- 循環型製品・サービスの市場競争性と情報へのアクセス度を高める。
- 公共機関が公共調達を通して先例を示す。
- 政府あるいはEU主要機関が循環経済への変換のための長期的政策を打ち出す。
循環経済への移行を成功させるためには、企業、政府機関、学術機関、社会の密接な協働が不可欠である。従って、これらの提案を細心に織り込んだポリシーミックスとして統合的に取り組み、各措置のシナジー効果を高められるよう、ステークホルダーが協調することを求めている。
一方、CEIDの取り組みとは別に、技術規格の専門機関であるドイツ工業規格協会（Deutsche Institut fur Normung e.V. ＝DIN）とドイツ電子電気情報技術委員会（Deutsche Kommission Elektrotechnik Elektronik Informationstechnik＝DKE）、ドイツ技術者協会(Verein Deutscher Ingenieure＝VDI)が2021年9月、連邦環境省の支援を得て循環経済の規格に関わるロードマップ策定作業に着手した。現在の関連規格を概観し、7つの重点分野（電子技術・情報通信技術、バッテリー、包装、プラスチック、テキスタイル、建造物・地方自治体、デジタル化・ビジネスモデル管理）について要求条件、問題点を洗い出し、規格と標準作りのための課題を確認する。活動の成果は2022年11月に発表する予定である[2]。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] Acatech HP Zirkulare Geschaftsmodelle: Barrieren uberwinden, Potenziale freisetzen (2021年11月16日発刊) https://www.acatech.de/publikation/zirkulaere-geschaeftsmodelle-barrieren-ueberwinden-potenziale-freisetzen/
[2] 連邦環境省2021年9月15日付プレスリリース https://www.bmu.de/pressemitteilung/mehr-klimaschutz-durch-standards-bei-ressourcenschutz-und-kreislaufwirtschaft