2021年10月12日、マクロン大統領は、2030年に向けた国家投資計画となる「France 2030」[1]を発表した。環境移行などの今日の課題への対応や新型コロナウイルスの流行により重要性が増したフランスの自立性の確保を目指すものである。新計画の発表演説では、フランスが強みとする分野でリーダーとしての地位を確立することが重要であり、そのためには「自立性」の強化が必要であると強調した上で、エネルギー、運輸、食品、ヘルス、カルチャー、及び宇宙・海底分野の6つの分野において10の目標を掲げ、2022年から総額300億ユーロをこれらに投資していくとした。この中でエネルギー分野については、脱炭素(2030年までに1990年比で40%減及び2050年までに炭素中立)に向け、以下の3つの目標に対し2030年までに総額80億ユーロ以上を投資するとしている。
目標1:小規模原子炉の開発と廃棄物管理向上
新投資計画では、原子力エネルギーが、脱炭素に向けた重要なエネルギーとして位置づけられた。フランスは、同分野でイノベーションの最前線に立つために2030年までに10億ユーロを投資する。現在欧州で進められている原子力の持続可能性に関する議論が安全面や廃棄物管理を焦点としていることを踏まえ、フランスでも今後、コスト削減、及び廃棄物削減による安全性向上への取り組みに焦点を当てる。特に、より小型で安全性の高い「小型モジュール原子炉」に投資を行っていく。
目標2:グリーン水素の促進
低炭素水素はフランスが真のリーダーとなれる分野の一つであるとし、2030年までに世界のリーダーとなることを目指し、国内に少なくとも2つの水電解装置製造のためのギガファクトリーを建設し、水素とその利用に必要なすべての技術の大量生産を目指す。また、水素製造に必要な電気分解に、原子力発電が必要であるとの見方も示した。(通常、原子力発電を利用した水素生産はイエロー水素と呼ばれるが、フランスはこれをグリーン水素の一部として推進する意向がうかがえる。)同目標への具体的な投資額は示されていない。しかし、グリーン水素と並行し、破壊的技術及び再生可能エネルギー(特に陸上/洋上風力発電と太陽光発電)も推進するとし、これらに対しては、5億ユーロ以上の投資を行っていくとした。
目標3:産業の脱炭素化
マクロン大統領は、2015年比で2030年までに産業分野からの温室効果ガス排出量を35%削減することを公約として掲げ、大規模な製鉄所やセメント工場の変革を通し、これらの産業の欧州域外への移転を防ぎつつ、域内生産からのCO2排出量を削減することに努めるとした。これには1工場あたり数億ユーロの大規模な投資が必要であるとしている。また、産業分野の脱炭素には、デジタル化とロボット化がカギとなるとし、これら分野での取り組みも行っていくとした。
今回発表された投資計画の実施に向けて、2022年1月1日以降に30~40億ユーロの最初の予算付けを行う予定である。
【「France 2030 」の10の目標(総額300億ユーロ)】
エネルギー分野(総額80億ユーロ以上)
①革新的な小規模原子炉の開発と廃棄物管理向上(10億ユーロ)
②低炭素水素のリーダーとしての地位確立(並行して破壊的技術・再エネに5億ユーロ)
③産業の脱炭素化
運輸分野(総額40億ユーロ程度)
④2030年までに200万台のEV・ハイブリッド車を製造
⑤最初の低炭素飛行機の製造
食品分野(総額20億ユーロ)
⑥健康的で持続可能かつトレーサビリティの確保された食品への投資
ヘルス分野(総額30億ユーロ)
⑦癌や慢性疾患に対する20種類のバイオ医薬品生産
カルチャー分野(投資額不明)
⑧文化的・創造的コンテンツの制作におけるリーダーとしての地位の再確立
宇宙・海底分野(投資額不明)
⑨宇宙分野への参入
⑩海底油田への投資
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。
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[1] フランス政府「France 2030」サイト
https://www.gouvernement.fr/france-2030-un-plan-d-investissement-pour-la-france-de-demain
エリゼ宮ニュース
https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2021/10/12/presentation-du-plan-france-2030