路上貨物輸送の排出ゼロ実現へのソリューションとして期待される大型貨物トラックの電動化で、技術向上や充電インフラの整備により導入が進むバッテリー電気電動車(BEV)に水素を使う燃料電池車(FCV)はどう立ち向かうのか。大型トラックの運用では輸送コスト効率が重要なため、大型バッテリーパックを必要としないFCVは車両を軽量化して積載量を増やせるほか、航続距離が長く燃料充填時間も短いなどの長所がある。だが、現状は車両自体と水素価格が高く、インフラ整備も進んでいないことが導入の大きな障害となっている。また、燃料となる水素の生産に電気を使うため、BEVよりエネルギー効率が悪いことも抜本的な短所として指摘される。
電動トラックの導入状況
ドイツ連邦自動車局(KBA)によると、今年1-8月累計の貨物トラック新車登録台数のうち電動トラックは17,985台で、全体の約9.3%を占めた。内訳はBEV15,801台、FCV68台、PHEV(プラグインハイブリッド)2,116台である[1]。FCトラックの年間新車登録台数は2022年の30台から翌年126台に跳ね上がったが、2024年に100台にとどまった。BEVも2023年の21,790台から2024年は17,007台に落ち込み[2]、全体的に電動トラック導入の勢いが鈍っている。
hylane、FCトラック・レンタルモデルで事業者のリスクを軽減
hylane[3]は、事業者が道路貨物輸送車の排出削減を容易かつ低リスクで実現できるよう、FCVのレンタルビジネスを展開する。2022年11月にドイツ初の標準生産FCトラックとしてHyundaiのXCIENT Fuel Cellを新車登録し、現在のFCV保有台数はHyundaiとIVECOの車両を合わせ100台超と国内最高である。DB Schenker、Hermes、Hoyer Groupなど物流大手や、REWE、METROなど小売り・業務用スーパーを顧客に抱える。実際の走行距離に基づきレンタル料金を請求する“pay per use”モデルであるため、顧客には初期投資がなく需要に応じて車両体制を調整し、効率的にトラックを運用できる。水素ステーションを広域展開するH2 Mobilityとの提携により、レンタル車は割引料金などの優遇措置を受けられる。FCトラックの購入には、気候への負荷が小さい駆動システム搭載の軽・重量商用車および同関連の燃料充填・充電インフラの促進プログラム(KsNI)の助成を受けているため、サービス料金を低く抑えることができているという。
これまでFCトラックに注力してきたhylaneだが、今年6月、BEVトラックを導入し事業拡大を進める戦略を明らかにした。長期的に事業拡大ではFCトラックが重要な役割を果たすと見るものの、BEVトラック需要を見過ごせなくなったようである。ドイツ物流大手DHLに対しDaimler TruckのBEVトラックMercedes-Benz eActros 600(蓄電容量600kWh 、航続距離約500km)30台をレンタルするという3社提携合意を交わした。DHLの小荷物配送センター間の輸送に投入するため、来年半ばをめどに納品する予定である。他社のBEVトラック導入も今後進める。
トラックメーカーのFCV戦略にブレーキ
ドイツ商用車メーカーもFCトラックの開発に力を入れてきた。MAN Truck & BusはShell、ブラウンシュヴァイク工科大学らとFCトレーラー開発プロジェクト“FC-Truck”を2019年に立ち上げ、連邦デジタル・交通省から670万ユーロの助成金を受けて5年間開発に取り組んだ。だが、MANは同技術の研究を続けるが、トラック電化の柱をBEVとすることを明確にした。今年6月に大型BEVトラックの標準生産(1日当たりの生産能力は100台)を開始した。
Daimler Truckは2024年秋、連邦デジタル・交通省、バーデンビュルテンベルク州、及びラインランドプファルツ州から総額2億2,600万ユーロの助成金を受け、FCトラック100台の開発及び少規模標準生産プロジェクト[4]を開始した。このトラック“GenH2 Truck” にはVolvo Groupとの合弁会社cellcentric社が開発した燃料電池システム、NextGen FCが搭載され、Mercedes-BenzのWörth工場で最終組み立てが行われる。気体水素よりエネルギー密度が高く、タンクも低コスト且つ軽量で済む液体水素技術を採用することで、ディーゼル車に劣らない長距離輸送性能を実現できるとし、顧客5社による実証試験後、2026年末から納品を開始することを当初予定していた。だが、今年7月、これを2030年ごろまで延期する見通しを明らかにした。需要が高まるBEVトラックに注力するとみられる。
政府系の水素・燃料電池技術コンサルティング会社、NOW GmbHが2024年春に行った欧州大型トラックメーカーとの意見交換の結果を分析した報告書[5]が、業界の水素戦略にやや軌道修正の動きがあることを指摘している。前回2022年の調査時にはほとんど重視されていなかった水素燃焼エンジン車にも注目しているのである。その理由は、EUが大型重量車の水素燃焼エンジン車を規定の条件下で排出ゼロ車と容認したことと、FCトラックの技術成熟と標準生産などによる市場構築が2030年までかかるとの観測による。業界による2030年の欧州市場の大型トラック(12トン超)予測販売台数は約33万8,200台[6]で、BEVが36.9%、FCVが8.0%、水素燃焼エンジン車が3.6%を占める。
※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
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[1] KBA HP Neuzulassungen von Kraftfahrzeugen mit alternativem Antrieb im August 2025 https://www.kba.de/DE/Statistik/Produktkatalog/produkte/Fahrzeuge/fz28/fz28_n_2025.html
[2] KBA HP Statistik Neuzulassungen von Kraftfahrzeugen mit alternativem Antrieb(FZ28)より抽出
[3] Hylane HP https://www.hylane.net/ueber-uns
[4] Daimler Truck2024年11月18日付プレスリリースhttps://www.daimlertruck.com/en/newsroom/pressrelease/daimler-truck-receives-funding-for-fuel-cell-trucks-from-german-federal-and-state-governments-52916055
[5] MARKTENTWICKLUNG KLIMAFREUNDLICHER TECHNOLOGIEN IM SCHWEREN
STRASSENGÜTERVERKEHR https://www.now-gmbh.de/wp-content/uploads/2024/11/Marktentwicklung-klimafreundlicher-Technologien-im-schweren-Strassengueterverkehr-2024.pdf
[6] 調査に協力したメーカーは欧州市場で合計90%のシェアを占める。