H2 Mobility、欧州最大の水素ステーション網を展開

大型商用FCV向けサービスに注力

道路交通の排出ニュートラル実現に貢献するクリーン燃料として水素の利用促進に取り組むH2 Mobility[1]は、産業ガス大手の独Lindeと仏Air Liquide、ドイツでガソリンスタンド網を展開するオーストリアOMV、英Shell、仏TOTALEnergiesおよびDaimlerの合弁プロジェクト会社として2015年、ベルリンに設立された。水素供給技術の開発、水素充填ステーションのプランニング、建設、運営などを行い、これまでにドイツを中心に欧州で100を超える水素ステーションを設置し、欧州最大の水素ステーション網を運営している。燃料電池自動車(FCV)市場では乗用車セグメントの動きが非常に鈍いことから、2022年に大型商用FCV向けサービスに注力する戦略に切り替えた。

軽量FCV向け水素ステーション、2016年にサービス開始
H2 Mobilityは当初、連邦交通・デジタルインフラ省(BMVI)が実施する国家刷新プログラム(NIP)の水素および燃料電池技術助成プロジェクト[2]として軽量FCV向けガス式水素充填ステーション(充填圧力700バール)の開発を進めた。初ステーションは2016年6月にアウトバーンWuppertal-NordジャンクションのShellガソリンスタンドでサービスを開始し、その後フランクフルトなど6カ所に開設された。これらの水素ステーションは貯蔵装置、圧縮装置、タンクなどほぼ標準生産によるコンポーネントを採用し、ディスペンサーはガソリンやディーゼルなど他の燃料と同じタンクコラムに組み込まれた。これを標準モデルにステーション数をまず100カ所、2023年までに最大400カ所に拡大することを目指していた。実際は2017年9月の25から2022年6月の94まで順調に拡大したが、同年の戦略変更で需要の小さい拠点が閉鎖され2024年1月に90、2025年7月に71と大きく減った。一方、年間供給量は2018年3月の3.2トンから2023年9月37.5トン、今年7月に57.5トンと、商用車向けの需要拡大で増加した[3]。

大型FCVの需要に期待
連邦自動車局(KBA)によると、2025年1月1日時点のFCV(乗用車)登録台数は1,802台で、前年比14.8%の大幅減となった[4]。軽量FCV向けサービスの行き詰まりに直面したH2 Mobilityは2022年、将来的に大きな需要が見込まれる商用FCV向けにステーション網を再編する戦略に切り替えた。軽量FCV向け拠点を縮小すると同時に、需要拡大が予想される立地に大型FCV向けステーション(充填圧力350バール)の増強を進める。このためClean H2 Infraファンド[5]とヒュンダイを新たな出資者に取り込み、既存出資者分を含めて総額1億1,000万ユーロの投資資金を調達した。

現在、大型FCV向けステーションは道路交通上の要所や物流センターの近隣に30か所以上設置済みで、主に物流サービス会社、運送会社、近郊交通会社などが保有するトラックやバスが利用している。デュッセルドルフの公共交通会社Rheinbahnに隣接して今年5月に開設された水素ステーションは3つのディスペンサーを備え、1日当たり2~5トンの充填量を想定した欧州最大規模の設備とされる。1日当たりバス100台以上の充填が可能(充填時間約15分)で、ごみ回収車や乗用車など軽量FCV(充填圧力700バール)にも対応している。Rheinbahnが採用したポルトガルのCaetanoBusはタンクが容量35㎏で航続距離310㎞が可能で、同20台に約30㎏を充填するとして1日当たり600㎏の需要を見込める[6]。2023年秋には一部のステーションでグリーン水素(再生可能エネルギー由来水素)の販売を開始した。グリーン水素は当初11.0ユーロ/kg(石油系水素は13.85 – 15.25 €/kg) [7]、現在は10~15ユーロ/kgで販売されている[8]。2028年ごろにグリーン水素への完全移行を目指している[9]。
 
FC商用車分野では公共交通会社がフリート排出削減策として電動バスに加えてFCバスを導入する動きが進んでいる。ケルンに拠点を置く広域公共交通会社RVKが130台、バルト海に面するロストックの交通会社Rebusが52台など、FC車導入に積極的である。2021年に施行された「旅客交通バスの代替駆動装置導入促進のためのガイドライン」のおかげで、これまでに約3500台が助成を承認され、今年前半で1000台超がすでに運行に投入されている。連邦交通省(BMV)が今年7月、国内の公共交通会社・旅客バス運行会社の電動およびFCバスの購入と既存車両の技術改造に対する新たな助成金プログラム[10]を立ち上げており、H2 Mobilityにとっても需要拡大への追い風になりそうである。

※この記事は、英国のロンドンリサーチインターナショナル(LRI)の許可を得て、LRI Energy &
Carbon Newsletterから転載しました。同社のコンテンツは下記関連サイトからご覧になれます。


[1] 投資総額1,040万ユーロのうち助成金は500万ユーロ。実施期間は2015年4月1日から2016年12月31日。H2 Mobility HP https://h2-mobility.de/en/about-us/
[2] NOW HP H2 MOBILITY – Mission Infrastruktur https://www.now-gmbh.de/wp-content/uploads/2020/08/03bv252_h2-mobility_nip-projektsteckbrief.pdf
[3] H2 Mobility HP https://h2.live/en/
[4] KBA 2025年3月4日付プレスリリース https://www.kba.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/Fahrzeugbestand/2025/pm10_fz_bestand_pm_komplett.html
[5] 水素産業のバリューチェーンに特化した資産投資会社Hy24が立ち上げた水素インフラ投資ファンドで20億ユーロを運用している。
[6] WDR 2025年5月26日付記事 https://www1.wdr.de/nachrichten/rheinland/-duesseldorf-groesste-wasserstoff-tankstelle-europas-eroeffnet-100.html
[7] H2 Mobility 2023年10月4日付プレスリリース https://h2-mobility.de/news/3139/ 
[8] Rheinbahn blog https://blog.rheinbahn.de/zehn-emissionsfreie-wasserstoffbusse-fuer-ein-besseres-stadtklima/ 
[9] H2 live 2023年10月18日付プレスリリース https://h2.live/press/gruener-wasserstoff-aus-wind-und-sonnenergieh2-mobility-deutschland-erhaelt-erste-lieferung-von-riessner-gase/
[10] NOW 2025年7月7日付プレスリリース https://www.now-gmbh.de/aktuelles/pressemitteilungen/verkehrsministerium-startet-neuen-bus-foerderaufruf/

宮本弘美(LRIコンサルタント フランクフルト)
関連サイト
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